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今回も引き続き主人公視点はありません、ご注意下さい。

「会いました?」


 そう聞いてきたのはミサ・メル・ジョルジュ。子爵位のご令嬢であり、フォルジュの別宅のメイドだ。


「ええ、先程」


 落ち着いた声色で頷いたのはシャロン・トゥーラカーマ・バーネット。伯爵位であるにも関わらず、庭師などをしている変わり者。その髪の色を見ると分かる通り、無属性の黒が原因で伯爵家の権利を放棄した男だ。元々庭の草木を眺めるのが好きだった彼は、フォルジュ家の前庭師に技術を教えて貰い、今に至る。

 トン、と色とりどりの花を入れた花瓶を玄関内の机に置きながら返事をする。


「どんな方ですか?私、まだお会いしてませんの」

「どんな……ですか。私が見るに、エリカお嬢様とは真逆の方でした」

「真逆って……たとえば、どのように?」


 ミサの質問にシャロンは僅かに考える素振りを見せてから、丁寧な口調の言葉を紡ぐ。


「お嬢様が火の苛烈な属性だとするなら、あの方は時がもたらす静謐な属性。お嬢様がくるくると喜怒哀楽を示すならば、あの方はゆるやかな感情を表します」

「そんなにですか?」

「少なくとも、私が感じた範囲の事です。女性相手ならば、また変わるのでは?」


 実際、シャロンが会った時、あの少女の感情は少々読み取り辛かった。言葉の端々に心や感情が浮かんではいたが、顔に出しにくい性質らしい。

 話している事は割と楽し気なのに、なぜああも表情が動いていないのか。

 だがそれは貴族にとってはとても有益な技術だともいえる。相手に動揺も何も悟らせない表情と言うものは、貴重なものだ。

 エリカお嬢様のように、全ての感情をむき出しにするような者は、早々にお陀仏する。その時巻き添えを食らうのは周りの人間だ。こちらの貴重な情報や切り札などを簡単に悟らせるような者は危険すぎる。

 シャロンとしては、あのお嬢様は早々に貴族位剥奪でもなんでもすればいいと考えていた。実際の所、そういう話もあったみたいだが、流れてしまったようだ。

 しかし難しいのが、何もないのに貴族位を剥奪しにくいところだろう。何か悪事を起こしたのなら、簡単に剥奪する事ができる。が、この場合エリカお嬢様はクリアしている。平民であるニコと駆け落ちという行為は明らかに貴族としてあるまじき行為だ。

 だがここで問題なのがエリカお嬢様が未だに捕まっていないという事だった。捕まえたら、駆け落ちの話で剥奪が可能となり、牢屋にでも放り込んで二度と日の目を見せないようにすればいい。が、今のこの状況で脱走が明るみに出るのは非常に不味い。

 ある意味、そっくりなあの娘の登場は非常に有難いモノだった。脱走が表に公表できるのは、少なくとも本物を見つけなければならないため。あの娘はその間の繋ぎの役割を果たすだろう。

 公爵家令嬢の脱走など、災厄しかもたらさない。だが、あのそっくりな娘がいれば、逃げているという事柄は発見されにくい。何せ、ちゃんとこの別宅にいると証明出来ているのだから。

 シャロンから見ても、あの娘はどう見てもエリカお嬢様にしか見えなかった。だが表情、雰囲気、言葉遣い、行動、どれをとっても似ても似つかない。どちらかと言えば、あの娘の方がよほど貴族として育ったように思えるほど。

 深くエリカお嬢様本人を知っているものならば、生活していくうちに気づく事ができるだろう。が、逆にエリカお嬢様を知らない者から見れば、入れ替わった所で絶対に気づけない。それほどに顔や骨格、指の細部に至るまでそっくりだ。

 もしかすると、頭をぶつけて記憶を失っているだけなのではないかと思うほど。

 外見があれ程までに似ているのに、中身がああも違うとは、驚きだった。思わず夢でもみているような気分にさせられた。

 中身はなかなか楽しそうな娘だが、あの表情はどうにか出来ないモノか。何かから自分を固く守っているような、そんな娘だった。どことなく、人形のようだった自分が思い出され、あの少女の生い立ちが少しだけ気になったが、詮索は無用との事だ。雇い主のご子息の命令には従っておくべきだろう。それに、今はそんな不要なものに時間をかけている時間もない。


「ああ、成程。確かにシャロン様の前だと委縮してしまうやもしれませんね」


 クスクスとミサが笑い、シャロンは僅かに目を逸らす。


「……私はとっつきにくいという事でしょうか?」

「いいえ、全く……これはきっと女性にしか分からないと思いますわ。……ルフト男爵様然り」

「ヴァレール?……いや、さすがにあの男よりはマシだろう」

「ええ、マシですが……似たようなものですわね」


 うふふ、と機嫌よく笑う。

 シャロン伯爵は誰もが見惚れる美青年である。柔らかな物腰と笑顔に、落ちない女などいないだろう。その黒の髪を見ても、それでも好きだと想う女性がいるほどに。シャロンの自己評価はかなり低いみたいだが。

 だが、それよりももっと凄いのがいる。

 それがヴァレール・ディリュイド・ミラ・ルフト。最近になってこの別宅で雇われ出した男爵位の騎士だ。その類まれなる戦闘の才能は、誰もが目を疑うほどだという。騎士向きではない水の属性すらも攻撃に変えて戦う様は幻とも思える。

 そして、その魔力の強烈な質の高さも評価が高い。自らを代償とする魔法は、質が高ければ高い程、使う代償が少なくて済む。それ故に、誰よりも髪が長い。そして誰もが恐れるのだ。

 信じられない程にその容姿も整っており、平民だとは誰も信じない。きっとどこかの王族の血を引く者だと、信じて疑わぬ者までいる。

 そんな彼は平民から男爵位を獲得し、公爵家別宅で騎士をやっている。本当は王族の護衛を担当出来得るだけの実力を備えていたが、男爵では王族の護衛などダメだと反対する者がいた。王族の護衛を強く推す者もいたが、ルフト男爵自身がその者を宥めて諦めさせた。その謙虚な姿勢も女性人気爆発だった。

 恰好良く、強く、そして美しい。

 男爵でも構わないという女性は数多いる。婚約の申し出をことごとく断る役目はご子息のものだ。それ故に令嬢に恨まれている事もあり、気苦労が絶えない。ただでさえエリカお嬢様の事では悩んでいるというのに。

 そのヴァレールがここで雇われたのは、他ならないエリカお嬢様のせいだったりする。ヴァレールは優秀な男だ。機密も漏らさないし、仕事も出来る。それに、グリーヴ伯爵の愛弟子だ。信用も厚い事だろう。


「あーと、良い時にきたって感じ?」


 ふらふらと2人の間にやってきたのは、シャロン伯爵に花瓶を押し付けたエマだった。


「エマ……あんたねぇ、伯爵様も他の仕事あるんだから、押し付けないでくれる?」

「えー?でも、シャロン様の方が綺麗に飾ってくれるからさー」

「それは確かにそうだけど……」

「はいはーい、じゃ、仕事に戻るねー?」


 そう言って、シャロンは置いていた花瓶を持って立ち去っていく。仕事に関してだけは評価できる事が多いが、如何せん私生活や、ふとした拍子にとんでもない事をする。

 ミサはシャロンに頭を下げる。


「すみません、いつもエマが」

「いや、いいですよ。花を知らぬ者に無暗に切り取られるよりは、余程有難いことですから」

「それはまぁ……確かに」

「ミサさんも、宜しければ私に任せてもいいんですよ?我が子を綺麗に着飾らせるのは、存外楽しいモノですから」

「では、お忙しくない時にでもお願いさせて頂きますわ」

「ええ、遠慮なく」






…エリカ兄、エルリック視点…


 大量に積まれた書類に埋もれながら、ひたすらに仕事を処理していく。途方もない量の書類だが、ちょっとずつでも進めていけば、いつかは終わりが見える。

 まぁ、いつもいつも終わる前に新しい書類の山ができる訳だが……。はぁ、と溜息を吐きだして、ひと段落した書類を、処理済の山へと置く。

 コンコンというノック音に返事をして、背筋を伸ばす。

 入って来たのは、いつも通りの姿のルカだった。荷台にカップとポットを乗せているので、休憩を促しに来たのだろう。仕事をしていても、集中力が切れればその分効率は落ちていく。だから定期的に休みを取る様に、ルカが時間を見計らってやってくるのだ。

 どういう訳か、いつも書類が丁度良い具合に終わった時にくる。何か魔法でも使っているのかと思うほどの技だと毎回思う。


「少し休憩にしましょう」

「ああ、ありがとう」


 ルカが注いだ紅茶からは、良い香りが漂う。その匂いにホッと肩の力を抜く。この匂いを嗅いだら、やっと仕事状態から抜け出せる。ルカの淹れる紅茶は特別美味しいし、心が休まる。いつも黒い事を考えているルカだが、執事としては最高峰だ。もうちょっと敬って欲しいと思う事もあるが、概ね満足している。

 俺はルカと紅茶がなかったら、とっくの昔に過労死していたかもしれない。


「ふう……で、あのお嬢さんはどんな感じだ?」

「ええ……とても勤勉な方のようです。侍女長も満足そうにされていました」

「あの人がか?……だとすると、よほどのようだな」


 あの人が礼儀に厳しい事は誰よりも俺が知っている。散々文句を言われ、最後まで満点をくれないような人だ。礼儀作法の稽古は思い出すだけでげんなりする。あれならまだ普通に舞踏会に出ている方がマシだ。

 それが、満足そうにしているだと?……とてもじゃないが考えられない話だ。もしかすると、年を食って穏やかになったのか?それくらいしか思いつかないが。


「俺の目から見ても……あれは相当ですよ」

「相当、とは?」

「いや……ともかく、会ってみればわかります。休憩がてら見に行っては?」

「あー……ん、そうだな。一応見ておくか」


 ルカの言葉に重い腰を上げる。気晴らしにもなるし、侍女長が満足し得るような人物をもっと見ておくべきだと思ったのだ。思いつきのような形で、保険として教育を施しているのだが、思ったよりも優秀なのだろうか。

 あのような娼婦の恰好をした少女が、そんなに優秀なものか?

 流石にずっと身代わりにさせる気はない。10のお披露目で合格点が出ればそれで良い。それで貴族位剥奪だけは免れる。そこからは適当に婚約して表舞台から避ければ完璧だ。妻を晒したくないなりなんなり、ルークがわがまま言えばいいのだ。それくらいはやって貰わないと困る。

 まぁ、あの少女を守る、という事だけでも考えてくれるだろう。女には弱いからな。


「あれ、そっちじゃありませんよ」

「あん?エリカの部屋じゃないのか?」

「あれ?はなしてませんでしたっけ?いやー参ったな、忘れっぽくて」


 なーんて言っているが、確実にその目は確信犯の目だ。やれやれ、主になんの報告もないとは。大した問題じゃないけどな。部屋くらいいくらでもある。


「あの牢獄部屋に籠城しておりますよ」

「はぁ!?」


 何故それを報告しない!?人違いなのに、あの部屋は酷すぎるだろう。しかも表向きあの少女は公爵家令嬢だぞ!?……いや、本来の用途ではあるのだがな。だが人違いなのだから、あの部屋はないだろう。

 俺の反応に、楽しそうに笑っているルカ。

 軽く溜息を吐きつつ、理由を聞く。


「落ち着くそうですよ、あの部屋が」

「はぁ!?」

「ま、俺は何となく察しますがね。他の部屋は広すぎるんですよ。あんなの慣れてるお貴族様の気がしれませんね」

「さらっと俺まで貶すな」


 ルカの軽口に対応しながら、牢屋の方に足を向ける。平民なら、あの部屋でも十分すぎるほどの設備と広さらしい。

 が、問題はそこだけではない気がする……なにせ、あの部屋には逃げられないような仕掛けがあるのだ。勿論逃げようという意思がないのならまるで意味を為さないモノだが。そんな魔法などが仕掛けられている部屋に望んで入ろうという者がいるとはな。しかも落ち着くとは、理解できそうもない。それとも、説明がなされていないのか。

 エリカを収容するために用意した部屋に辿り着き、扉をノックして声をかける。すると、静かに扉が開けられた。

 扉の方を見ると、案の定ヴァレールが扉を開けていた。この男は気配も何もないのか。いや、その技能は素晴らしいとは思う。普段からの行いが、今に反映されているのだろう。

 この牢屋の主は、部屋の中央に静かに立っていた。

 数度出会っただけではあるが、この少女は本当に大人しい。いや、この見た目だからそう感じるのかもしれない。なにせ、エリカはかなりうるさいものだったからな。それと比べてしまうから、特別大人しく思うという可能性がある。

 しかし、何度見ても不思議な気持ちになる。今にもグチグチと言い訳をして、文句など言いそうな顔をしているのに。静かに佇む姿は慣れそうにない。いや、これがエリカに求めていたものだったんだがな。どうにも、違和感が拭えない。

 少女はそっとスカートの裾を持ち、やんわりと腰を落とす。中々に様になっている挨拶だった。

 まだ2週間ほどしか経っていないのに、見事なモノだと思った。


「何か御用でしょうか、ご子息様」

「あ、あー……」


 その物言いに鳥肌が立った。

 まさかエリカの顔と声でご子息様などと言われるとは。軽く頭を振って、言葉を訂正する。


「俺の事はエルリック、または兄とでも呼んでくれ。誰に聞かれるか分かったものではないからな」

「はい、それでは、お兄様と呼ばせて頂きます」

「おにっ……!?」

「ぶはっ!」


 バッと後ろを見ると、ルカが笑いを堪えていた。

 俺が物凄く微妙な気持ちになっている事を分かってて笑ってやがる!

 ご子息様という言い方から改変しようと思ったが、より悪い方向へと行ってしまった。妹役であるこの少女が俺の事をご子息様と呼ぶのはおかし過ぎるから訂正できたが、これはどう訂正すべきなのか。


「いや、やはりエルリックで良い」

「……それは、少し気が引けます」

「俺が良いと言っているんだ。そうしろ」

「妹様が、兄様に向かって呼び捨ては、良いのですか?」

「……エリカはそう呼んでいた」

「それを訂正しようとしていたではないですか、エルリック様?」


 うわルカが余計な事を!

 脱走する前のエリカは俺の事をエルリックと呼び捨てにしていた。その事について、俺は何度も注意し、兄の呼称か、様くらいは付けろと言っていたのだ。今それをこの少女の前で言うか。

 いやしかし、ある意味俺がエリカに求めていた理想像なのかもしれない。これに慣れないと話にならないのか……。腹をくくるか。

 盛大に溜息を吐き、首を振る。


「いや、確かに呼び捨てはダメだな。好きに呼ぶと良い」

「はい、それではエルリック様と呼ばせて頂きます」

「ああ……それが良いかもな」


 あれ、結局はそれにするのか?確かにこれが最も俺の精神への負担が少ない。気を使ったという事か、なるほど察する能力も、やってはいけない事を把握する能力も持っているか。貴族育ちでないなら、この少女は優秀と言えるだろう。

 俺がじっと少女を見つめていると、僅かに視線を俺の胸元の方に下げてから、口を開く。エリカのように大きな口を開ける訳ではなく、あくまで淑やかに。


「何か御用があったのではないですか?」

「ああ……いや、これといった用事があったわけではない。ちゃんとやっているか、この目で確かめねばならないと思ってな」

「ああ、そうでしたか。それでは私はいつも通りにしていた方が良いという事でしょうか?」

「なるべくなら、そうして欲しい」

「かしこまりました」


 そう言うと、さっさと自らの机に戻り、本を開く。栞を挟んでいたのだろう、すんなりと目的のページを開けたようで、黙々と視線を滑らせている。

 時折、紙にペンを走らせていたので、メモしているのだろう。

 そっと近づいてその用紙を覗くと、暗号がつらつらと書かれてあった。


「それは?」

「これですか?自分が覚えやすいよう、まとめたものです」

「覚えやすいようにって……こんな暗号でか?」


 どう見ても逆に覚えにくいだろう。

 言われた少女は、少しだけ不思議そうな顔をした後、ゆっくりと1つ頷いた。


「はい、これは祖国の字ですので」

「……これがか?文字の種類が違うように見えるが」

「ええ、そうです。ひらがな、カタカナ、漢字、時折外国の文字や記号を組み合わせているのです」

「……そう、か」


 つまり、母国の言語だけで3種類、それと母国以外の言葉も取り入れ、4種類以上の難解な言葉になっているという事だ。それを自然に使いこなすまで、どれ程の時間がかかるのだろう。

 人族の言語にドワーフ族の言語などを混ぜる事があるという事だ。

 この少女の脳内はどうなっているのだ。


「……そうだとすると、何故言語が通じている?」

「それは分かりかねますが。恐らく、こちらに来る途中に身についた特殊技能……奇跡なのでしょう」


 なるほど、奇跡か。神に選ばれてこちらに来たのなら、ある程度神の御業があってもおかしくはない。

 ……ん?実は俺ってとんでもない人物を身代わりにしようとしていないか?顔もそっくりだし、グリーヴ伯の信頼も得ている。

 そして異世界の住人……国で守られるような人物なのではないだろうか。前例が近年のものではないから分からないが……。

 いや、しかしエリカと同じ顔というのが厄介だな。グリーヴ伯が止めなかったという事は、この身代わりに他の利点も見出しているのだろう。

 異世界の人間というのは、未知の力と知識を持ち合わせている。この世界とは全く違う所から来ているのだから、それは当然といえる。だからこそ、その力は戦争さえも生み出す危険因子も併せ持っている。

 俺達がエリカの代理人として彼女を雇うならば、彼女もまた自分の身を守る隠れ家の役割を果たしているのだろう。

 不用意に戦の種火となる様なものを、放置する事も出来ず、できれば見張っておきたい。今のこの状況は彼女にとっては最適なのかもしれない。この牢屋が落ち着くと言うような娘だ。国に祭られるような生活が合っているとは思えない。

 エリカの10のお披露目の事ばかりに目が言っていたが、なるほど……これはとんでもない人物だ。

 全てを理解した上で了承しているのだとしたら、国に保護されるような大物。

 グリーヴ伯……彼はすべて把握しているのだろうな。やはりかなわない。


「……ふむ、この言語、俺にも教えてくれないか?」

「……エルリック様に、でございますか?」

「いや、ルカにだ。暗号として、かなり優秀だろう。覚えておいて損はない」

「かしこまりました」


 なんの迷いもなく頷かれて少々驚く。自分で言っておいてなんだが、タダでさえ忙しいのに、プラスで人に教えるなど渋ってもいいはずだろう。……これか、侍女長が気に入っている理由は。面倒くさがるという事をしないのか。少しでも楽な方を、と考えない姿勢が好ましいのだろう。


「やはりエルリック様は大物ですね。そこに利用価値を見出すとは」


 などとルカが爽やかな笑みを浮かべている。明らかにめんどくさい事言ってんじゃねぇという顔だこれは。普通の人には分からないだろうが、付き合いの長い俺には分かる。

 だが、この言語が有効である事はルカも分かっている為、しぶしぶながら覚える事は分かっている。その後、ロベルトとサシャにも教える算段でもつけている事だろう。最終的には俺にも教えてくれるはずだ。俺が覚えてなきゃ意味がないしな。

 やる事が増えた事で、また疲れが溜まりそうだ。

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