5
「いいえ……」
「そう……。いいわ、ゆっくり思い出せばいいんだから。お腹空かない? お粥を炊いたんだけれど食べられそう?」
傍らに置かれた小さな土鍋の蓋を開け、中身を器に移し私にさし出した。
その器の中身を見て、私は息を飲んだ。だって、この御時世に芋や大根じゃなくて、白飯のお粥を見る事が出来るなんて、思ってもみなかったんだもの!!
今は戦争真っ直中。白飯どころか、芋はもちろん、大根でさえそう簡単に口にする事ができないのに……。
器を受け取ると、私は白く光る中身を、じーっと見つめた。ごくり……っと鳴る私の喉。
「どうしたの? さぁ、遠慮しないで食べて」
「で…でもコレ……」
白飯なんて……。
「ダメです!」
器を女性に突き返すと、バッと目を逸らした。ああ……匂いが鼻腔をくすぐるぅ。
「ダメですよ!そんなっ、そんなっ……身元も知れない様な私に、こんなっ、白飯なんてっ」
「は?」
「こんな御時世です! そりゃ助け合いも大切でしょうけど、貴重な白飯を下さるなんて私……私……いえ、それより親を差し置いて自分だけこんな贅沢するなんて、バチが当たりますっっ!」
私は一息で喋り切る。女性は驚いた顔で、目をパチパチと瞬かせている。
「あの……気にしなくていいのよ? 御飯、沢山あるから」
「た……沢山~ッ!?」
ひぃぃいっっとムンクの叫びポーズをする私。その叫びに、女性がビクリッと肩を揺らした。
「あ、あの、不躾で申し訳ないんですけど、ここもしかして地主様のお家……とか、農家……とか、そんな感じのお家ですか?」
「……は?」