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「ありがとう」
姿の見えない人にお礼を述べたけど、返事はなかった。
(とにかく光りに向かわなきゃ)
向き直ると、一歩一歩歩みを進める。暗いから、進んでいるのかわからないけど、光が少しずつだけど大きくなってるから、たぶん近付いてるんだと思う。
少し行くと光に照らされ、上へとのびる階段が目に映る。
私はゆっくり、ふみしめながら階段を上った。近付いて来る光。
(もう少し……)
そう思った瞬間、私は幾つもの光の玉に包まれ、反射的に瞼を閉じた。
どれくらい目を閉じていたかしら……? 瞼を開いた私の目に、最初に映り込んだのは天井だった。
「…………」
霞みのかかった頭と、節々の痛む身体を叱咤し、ゆっくりと起き上がった。
掌に触れる布の手触りと、鼻腔をくすぐる、太陽と石鹸の香り。そしてさえずる雀の鳴き声。
私が寝かされていたのは座敷の一室で、開け放たれた縁側から、太陽の日差しと、心地よい微風が私の頬を掠めた。
「ここ……どこ?」
キョロキョロと視線を迷わせていると、縁側の反対側にある障子が、静かに開いた。
「あら、目が覚めたのね?」
障子の向こうにいたのは、淡い桃色の着物をまとった女性。茶色に近い明るい髪を後ろで一つにまとめ結い、やわらかい微笑みを満面に携え、私に声を掛けてきた。歳は二十歳後半くらいかしら?
「気分はどう? 痛い所とか、ある?」
横に正座すると、私の額に掌を当てた。ひんやりして気持ち良い。
「ん。熱は下がったみたいね。よかった。貴方ね、三日前にうちの前で倒れてたのよ。覚えてる?」
少しの間記憶を巡らし、首を左右に振った。