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気が付くと、私は暗い闇の中立っていた。何も見えない、何も聞こえない、何も感じない。右も左も、前も後ろさえも暗い闇におおわれていた。
「誰かいませんかぁ~っ?」
前方に向かい、声を掛けてみる。でも返事はない。
とりあえず歩いてみる。足音はしないけど、歩いているという感覚はちゃんとわかった。
「ねぇ誰か……誰かいないの!?」
今度は叫びに近い声で呼び掛ける。でもやっぱり返事はない。虚しく私の声が木霊するだけ。
「どこなのよここぉ……」
へたりと座り込んだ私の目尻にたまる涙。別に怖かったわけじゃない。ただ、ここには誰もいなくて、私一人なんだと思ったら、すごく悲しくなった……。
たまった涙が、粒となって次々頬を伝った。
すると、ふと人の声の様な音が聞こえた。ハッキリ聞こえないけれど、囁く様な……呟く様な声で。
──大丈夫
「え……?」
下に向けていた視線を、上へと向ける。言葉は続く。
──大丈夫。しっかり前を見てごらん?
優しく響く声に、私は言われたとおり前方を見る。だけど何も見えない。
「何も見えないわ?」
私がそう声の主に返事を返すと、声はもう一度『大丈夫』と囁いた。
──よく見てごらん。光りが見えるだろう?
「光り?」
そう言われ、今度は目を凝らし、じーっと見てみる。
「あっ」
確かに視線の先には光が見える。針先くらいの小さな小さな光りだったけれど、今の私には、それが希望の光りに見えた。
──あの光を目指して歩いて。そうすれば出られるから
出られるとは、たぶんこの闇から。
「……うん。わかった」
私は頷き、意を決し立ち上がる。