ばいばい、またね(2)
その晩、兄と姉に養子にもらわれることを伝えた。母と父に、私から話したいと申し出たのだ。
「あのね、私、養子になる」
寝室の、大きなベッドの上で、二人にそう告げた。
兄ははっと息を飲み、そんな兄の様子を見て、姉も顔を真っ青にした。姉は、言葉の意味を知っていただろうに、
「ねぇ兄ちゃん、ヨウシって何?」
と、すがりつくように兄に訊いた。兄は姉の肩に手を置き、そっと答えた。
「養子ってのは、麗華が、違う家の子供になるってことだ」
姉は首を何度も横に振ると、やだよ、やだよと大粒の涙をこぼした。私は下唇をきつく噛んだ。泣いてしまいそうだった。さっき、涙が枯れるのではないかというほど泣いたのに。
「やだ、やだよ、麗華、麗華」
姉は私に手を伸ばし、倒れかかるように私を押し倒し、そのまま抱きついた。
「お姉ちゃん……」
「麗華、やだよ、行かないで。行っちゃやだ」
私も行きたくないよ。
その言葉をぐっと飲み込み、私は姉を抱えたまま上半身を起こした。姉の大きな眼は、涙でぐしゃぐしゃに濡れていた。
「行くよ、もう決めたの」
「どうして……?」
「お金が無いって」
「やだよ、そんな……」
私も嫌だと言いそうになって、またも言葉を飲み込む。もうさっきさんざん泣いた。私が強くなければ。
「一生の別れじゃないよ」
「そういう問題じゃないだろ」
兄が口を挟んできた。でも、と言いかけたところを、兄の抱擁により止められる。
「辛いだろうけど、頑張れ。辛かったら、戻っておいで。俺、たくさん働いて、お金貯めておくから」
兄は震えていた。私は何度もうなずくと、兄の肩に顔をうずめた。涙がまた出てきた。ぎゅっと兄を抱きしめ、しつこいほどに頷いた。声を殺して、兄も泣いていた。姉が兄の後ろで、嗚咽を漏らして泣き続けていた。
「いつ行くの」
耳元で、兄が消え入りそうな声で訪ねた。
「二週間後」
私ははっきりと言った。そう、と兄は呟き、もう一度ぎゅっと私を抱きしめてくれた。
「麗華……っ!」
私の背中に、姉が抱きついてきた。兄と姉に押しつぶされる。それがきっかけとなり、私の中で我慢していた何かがはじけた。うっ、と声をあげてしまい、もう我慢の限界だと自分でも理解した。
「うあ……おに……ちゃ……うっ、お、おねぇちゃん……絶対に、ぜ……ったいに会おうね」
「うん……絶対に、また会お……う」
「約束する……!」
母と父に、きっとこの泣き声は届いていただろう。それでも気にせず、私たちはわんわんと声をあげて泣いた。
泣き疲れて三人で手を繋いで寝てしまうまで、母も父も寝室には入ってこなかった。




