はじまり(4)
エストレージャができてもうすぐ二年が経とうとしていた。
「レイカ、今日は嬉しそうね」
私はサキ様の部屋にでかける前の挨拶をしに来ていた。私の様子を見て、サキ様はそう言って手の動きを止めた。
「誰かまた、いたの?」
サキ様の表情は相変わらず戻らなかったが、それでも、目がきらりと光ったような気がした。「えぇ」と私は満面の笑顔を返す。
「ギルがまた、情報を集めてくれましてね」
「どんな人?」
私は鍵をくいっとひねる仕草をした。
「泥棒、だとか」
「泥棒?」
はい、と私は笑った。なかなか素敵な響きだ、泥棒。
「危なくないの?」
「人を傷つけるような泥棒ではないようです。若い青年だと聞きました。鍵を開け、痕跡を残さずに盗み、鍵を閉めて何事も無かったかのようにする盗みが得意なんだそうです。時には依頼を受けて盗みをすることもあるそうで、そのせいで情報が広まってしまったのだとか」
「そこをギルが捕えたのね、相変わらず凄いわ」
「今回はラインもなかなかでした。泥棒の容姿を聞くと、そう言う奴は女性がたくさんいる場所にふらっと現れて飲むもんだ、なんていって、彼の知り合いにあたってみたそうです。そうしたら、見事ヒットしたようで、ラインはすでに泥棒との接触に成功しています」
「凄いっ」
ぱちぱち、とサキ様は拍手をした。二年経ち、少し伸びた手足は、相変わらず細い。
「今日会うのね」
「えぇ、今から」
私は胸ポケットにさしてあるサングラスを指でつついて見せた。これは、出かける合図だ。日が沈みかけているが、それでもこのサングラスをかけると気合が入る。
「飲みに行っている彼に、突撃スカウトです」
「面白そう」
気をつけてね、とサキ様は言った。はい、と元気よく返事をする。
「行ってきます」
「いつもありがとう、麗華。行ってらっしゃい」
彼女の言葉が嬉しかった。いつもありがとう、か。私は嬉しくて、満面の笑みを見せると、では、と彼女の部屋を出た。
長い廊下を歩きながら考える。
どんな泥棒だろうか。いい奴だろうか。エストレージャだろうか。わくわくした。胸が躍るようだった。
外に出た。夕日が眩しい。サングラスをかけ、ようしと気合を入れた。
私は歩きだした。
空には、気の早い星がひとつ浮かんでいた。
その星に、私は祈った。
どうかこれからも、少しでも多くの一人ぼっちが救われますように、と。
End.




