表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
76/86

   一人ぼっちは、寂しいですから(2)

 一時間ほど経ち、ラインが戻ってきた。表情は浮かない。


「買ってきた、簡易パスタ。俺が作るよ」

 ラインは手に持っていた袋を持ち上げた。

「ありがとう……あの、お医者様とどんな話をしたの?」

「………………」

 ラインは大きなため息をつくと、申し訳ないと頭をかいた。


「駄目だったら断ってくれ」

「何を?」

「俺はてっきりお嬢様の話をするんだと思ってたんだ。まぁ、お嬢様の話だったことには変わりは無いんだが……」

「何、ライン、はっきりして」

「ルークが、ここに住ませてくれないかって」

「……え?」


 予想外の言葉に、私は目を丸くした。思わず大きな声も出してしまった。サキ様を起こしたくはない。私はそっと彼女の傍を離れた。立ち上がり、ラインに歩み寄る。彼は心底困っているようだった。


「あいつさぁ、医療オタクって言うか、ほんと、診察が大好きって言うか、もう気になると止まんなくなっちゃうところがあって、だから一人で医者やってるんだ。所属できないんだよ、病院とかに。他の人の仕事もしたくなっちゃうんだそうだ。だから、自分でうろうろと診療している医者をしてる。


 今回は、お嬢様の症例が気になって仕方が無いんだってさ。


 別に、お嬢様のことを心配していないで、ただの症例として見てるとか、そんな冷たい奴じゃないんだ。心底、お嬢様の病気を治したいと思っている。ただ、度が過ぎると言うか……もう、興味を持つと、こうだよ」


 ラインは両目の横に掌をつけ、前にすっと伸ばした。

 それしか見えなくなるのだろう。


「まぁ、私が決めることじゃないよね……」

「レイカが嫌なら、お嬢様には何も伝えずに断るよ」

「でも、この屋敷の中に医者がいるっていうのは安心するし……」

「腕は確かだよ。俺もそう思う、安心はする」

「信頼できる人なんでしょう?」

「うん、それはね。保障するよ」


「彼は……ルークさんは、サキ様の病気が治ったら、どこかに行ってしまうのかしら?」

「さぁ、わからない。とりあえず今、彼は一人で暮らしているから、すぐにでもこっちに引っ越してこれるとのことだったよ」

「そう……」


 突然の出来事に驚いていたが、サキ様に訊いてみるのが一番だと言う結論に至った。


 夜、二人でパスタを食べた。ラインは、キッチンにあった食材でスープも作ってくれた。とても美味しかった。なぜだか涙が出そうになった。



 次の日の朝、サキ様は前日よりだいぶ多くの食事を取っていた。だいぶ良くなったという言葉が聞けたときには、本当に嬉しくなった。


 パソコンでの作業も、昨日は数分だったが、今日は数十分行っていた。無理はしないようにと途中で止めたが、大丈夫とたしなめられた。


「無理はしないわ」

 彼女は無言でキーをタッチし続け、「よし、大丈夫」と言うと、ベッドに戻って行った。

「ずっと、こんな調子じゃぁだめなんですか」

 私は、ベッドに戻ったサキ様に、ぽつりと訊いた。


「こんな調子って?」

「仕事は、数分で終わらせてしまって、あとは……熱が下がった後も、ご自由になされればいいのに」

「私の自由は、仕事をしているときにあるのよ、麗華」


 あっさりそう返され、はっと気がつく。そうか、サキ様が仕事をしているとき、彼女はいつも楽しそうだった。


「普通の生活には憧れる。学校に行って、友だちとおしゃれなお店に行って。でも、私は仕事が好きだし、できるのならずっとパソコンの前で作業をしていたいわ。仕事の虫なの」

「……失礼しました」

「いいの、麗華が心配してくれてうれしい」


 彼女の顔に、笑顔は無かった。それでも、嘘は言っていない。


 まだ、表情は戻っていないのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ