一人ぼっちは、寂しいですから(2)
一時間ほど経ち、ラインが戻ってきた。表情は浮かない。
「買ってきた、簡易パスタ。俺が作るよ」
ラインは手に持っていた袋を持ち上げた。
「ありがとう……あの、お医者様とどんな話をしたの?」
「………………」
ラインは大きなため息をつくと、申し訳ないと頭をかいた。
「駄目だったら断ってくれ」
「何を?」
「俺はてっきりお嬢様の話をするんだと思ってたんだ。まぁ、お嬢様の話だったことには変わりは無いんだが……」
「何、ライン、はっきりして」
「ルークが、ここに住ませてくれないかって」
「……え?」
予想外の言葉に、私は目を丸くした。思わず大きな声も出してしまった。サキ様を起こしたくはない。私はそっと彼女の傍を離れた。立ち上がり、ラインに歩み寄る。彼は心底困っているようだった。
「あいつさぁ、医療オタクって言うか、ほんと、診察が大好きって言うか、もう気になると止まんなくなっちゃうところがあって、だから一人で医者やってるんだ。所属できないんだよ、病院とかに。他の人の仕事もしたくなっちゃうんだそうだ。だから、自分でうろうろと診療している医者をしてる。
今回は、お嬢様の症例が気になって仕方が無いんだってさ。
別に、お嬢様のことを心配していないで、ただの症例として見てるとか、そんな冷たい奴じゃないんだ。心底、お嬢様の病気を治したいと思っている。ただ、度が過ぎると言うか……もう、興味を持つと、こうだよ」
ラインは両目の横に掌をつけ、前にすっと伸ばした。
それしか見えなくなるのだろう。
「まぁ、私が決めることじゃないよね……」
「レイカが嫌なら、お嬢様には何も伝えずに断るよ」
「でも、この屋敷の中に医者がいるっていうのは安心するし……」
「腕は確かだよ。俺もそう思う、安心はする」
「信頼できる人なんでしょう?」
「うん、それはね。保障するよ」
「彼は……ルークさんは、サキ様の病気が治ったら、どこかに行ってしまうのかしら?」
「さぁ、わからない。とりあえず今、彼は一人で暮らしているから、すぐにでもこっちに引っ越してこれるとのことだったよ」
「そう……」
突然の出来事に驚いていたが、サキ様に訊いてみるのが一番だと言う結論に至った。
夜、二人でパスタを食べた。ラインは、キッチンにあった食材でスープも作ってくれた。とても美味しかった。なぜだか涙が出そうになった。
次の日の朝、サキ様は前日よりだいぶ多くの食事を取っていた。だいぶ良くなったという言葉が聞けたときには、本当に嬉しくなった。
パソコンでの作業も、昨日は数分だったが、今日は数十分行っていた。無理はしないようにと途中で止めたが、大丈夫とたしなめられた。
「無理はしないわ」
彼女は無言でキーをタッチし続け、「よし、大丈夫」と言うと、ベッドに戻って行った。
「ずっと、こんな調子じゃぁだめなんですか」
私は、ベッドに戻ったサキ様に、ぽつりと訊いた。
「こんな調子って?」
「仕事は、数分で終わらせてしまって、あとは……熱が下がった後も、ご自由になされればいいのに」
「私の自由は、仕事をしているときにあるのよ、麗華」
あっさりそう返され、はっと気がつく。そうか、サキ様が仕事をしているとき、彼女はいつも楽しそうだった。
「普通の生活には憧れる。学校に行って、友だちとおしゃれなお店に行って。でも、私は仕事が好きだし、できるのならずっとパソコンの前で作業をしていたいわ。仕事の虫なの」
「……失礼しました」
「いいの、麗華が心配してくれてうれしい」
彼女の顔に、笑顔は無かった。それでも、嘘は言っていない。
まだ、表情は戻っていないのだ。




