14 一人ぼっちは、寂しいですから(1)
「うまく笑えない?」
医者は、よく分からないと言った表情を浮かべた。サキ様は一度頷くと、首をかしげて見せた。しばらくそのままで止まると、ふうとため息をつく。
「これで、微笑んでいるつもりなんですけどね。でも、笑えていないでしょう?」
私は息を飲んだ。彼女がここ数日、笑顔も見せず、それどころか、無表情だったことが多かったことを思い出したのだ。疲れているからだと思っていたが、そうではないのだろうか。
「頭の中では、必死に笑おう、笑おうとするんです。それだけじゃなくて、泣こうと思っても泣けないんです。悲しいことがあったのですけど、それでも、悲しくはなるんですけど、表に出ないと言うか」
「頭の中では笑え、と思っていても、顔の筋肉が固まってしまっているような?」
医者の質問に、そうなんですと彼女は頷いた。
「今まで自然にできていたんですけど――熱のせいですか?」
「……分かりません。熱が冷めたら、自然と表情も戻って来るかもしれません。まずは、その熱を下げることが第一です」
「そうですか」
「えぇ、無理に笑おうとしたり、悲しもうとしたり、しないでください」
「はい」
「熱が冷めて、全快しても表情が戻らない場合は、そのときに考えましょう。心にショックが与えられて、表情が上手く出なくなっている可能性も考えられます」
「分かりました。しばらくは安静にしていますね」
「それが一番です。何かあったり、熱が下がったら、呼んでください」
「ありがとうございます」
「では、今日はこれにて失礼します」
立ち上がり、あっと思い出したように医者が手を叩いた。
「ラインを少しお借りしても?」
「え?」
ラインが首をかしげる。
「何の用だよ」
「ちょっと野暮用だよ。いいですか? お嬢さん」
「いいですよ。ライン、よければ夕ご飯を買ってきて」
「いいんですか」
「お使いだと思って」
私は寝るわ、とサキ様は布団にもぐり、目を瞑った。ラインがこちらを見ている。
「行ってきていいよ。私一人で大丈夫」
私の言葉を聞き、そうかとラインは立ち上がった。
「すぐ帰って来る」
「うん、ご飯よろしく。美味しそうなものだったら何でもいいよ」
「わかった」
ラインは不安そうな表情で部屋を出て行った。私も不安だった。医者は野暮用だと言っていたが、何かサキ様についてのことを話すのではないかと思うと、心配で仕方が無かった。
私は、彼女の傍に座りながら、考えた。
笑えない、だなんて。
私は医学に詳しくは無いが、ショックのあまり表情を作れなくなる、なんて事態はあるのだろうか……?
ここ数日、彼女の笑顔を見ていない。それどころか、起こった顔も、泣いた顔も。寂しそうな表情は見たが、それはただの無表情だったのかもしれない。
胸の奥がざわついた。少し吐き気もした。
私は、何もできないのだろうか。




