決断(6)
「嘘をついているのが分かるの?」
「はい、サキ様がガーネットさんを説得なさっているときに、自分の感情を押し殺していたことにも、気がついていました」
「そうだったの。ばれてたのね」
いい演技だと思ったんだけど、と独り言のように彼女は呟いた。
「少しぐらいなら、才能だと思うんです、人の気持ちが分かるって言う。でも私のは、制御ができないと言うか、もう分かり過ぎてしまって、それで――」
「そうだったの。麗華」
サキ様はすっと手を伸ばすと、私の手を握った。
「話してくれてありがとう。今まで、辛かったでしょう?」
「……どうして」
そんなに優しいんですか。
唇をかみしめた。拒絶されたらどうしようと思っていた。彼女は、受け入れて、私に優しい言葉までかけてくれた。十歳の、小さな少女が、だ。
「私だって、おんなじような気持ちだったからよ」
手をぎゅっと握り、彼女は言った。
「少しぐらいなら、パソコンができる頭のいいお譲ちゃん、で済んでたの。会社の経営まで考えて、運営して、大きな会社にして、そんなの、才能でもなんでもないわ。特別な能力よ、親もびっくりして、逃げ出したくなるような。
辛いわよね。種類は違うけど、私と麗華は同じ。きっと、同じものを感じていたのでしょうね。麗華といると、本当に楽しいの。
能力のことなんて気にしないで。これからも、傍に居てね」
「ありがとう……ございます……」
強く、強く彼女の手を握り締めた。
小さな手だった。今にも折れてしまいそうな、細い手だ。人形のようにか細いこの身体の中に、どれだけ尊大な心があるのだろう。
ずっとそばに居ようと、私は誓った。いつまでも、彼女が望むまで、ずっとついて行こうと、決心した。
「ところで、ラインはこのこと知ってるの? 今知ったの?」
「知ってました、お嬢様」
私の横で、にこりと彼は微笑んだ。
「私も、同じようなものなんですよ」
「どういうこと?」
「……女性の気持ちが分かり過ぎてしまうと言いますか」
言葉を選んで、彼は言った。
「ここに来て働かせていただくまで、私はこの能力を巧みに使い、いろいろな女性に交渉して、寝泊まりさせてもらってたんです」
「私はまだ十歳だけど、それがどういうことか、少しは分かるつもり」
あらま、とラインは困ったような顔をした。
「数々の女性を差し置いて、私を選んでくれてありがとう、ライン」
一瞬、ラインはきょとんとすると、無邪気な笑顔を見せた。そんな笑顔は、私も初めて見た。
「お嬢様にそう言っていただけるだけで、何万もの女性をおいて来たかいがありました」
医者を呼んできますね、とラインは部屋を出て行った。静かに扉が閉まる。
「麗華」
サキ様は、もう一度私の手を強く握った。
「話してくれて、残ってくれて、本当にありがとう。あなたと出会えてよかった」
「私もです、サキ様」
「コックもいない、メイドもいない。こんな家で苦労かけるとは思うけど、よろしくね」
「任せてください。掃除も洗濯も、得意ですから」
その後、サキ様は医者が来るまで眠りについた。相変わらず、汗が止まらない。医者は、ラインが電話をしてから二時間後に到着した。
「遅くなってごめんなさい」
短髪眼鏡のその医者(名をルークと言ったか)は、息を弾ませながら部屋に入ってきた。ものすごく急いで来てくれたようだ。
「いえ、急に呼び出してしまって、こちらこそすみません」
私は頭を下げた。医者も頭を下げると、サキ様に歩み寄った。
「お嬢さんの容体は?」
「まだ熱が下がらないみたいで……」
「そうですか。いつ眠りましたか?」
「二時間半ほど前に。お医者様がいらしたら、起こすように言われました」
私は、医者が止めるかもしれないと思ったため、すぐにサキ様に声をかけた。二度名前を呼ぶと、彼女はゆっくりと目を覚ました。
「あぁ、お医者様」
サキ様は目をこすると、頭を下げた。「ありがとうございます。診察お願いします」
医者はさっそく、と診察を始めた。
「熱は少し下がってきたようですね。今後も安静にしてください。頭痛や吐き気など、この前と違った症状はありますか?」
はい、と静かにサキ様は答えた。ぎくりとする。そんな素振り、彼女は微塵もしなかったからだ。
「え、サキ様」
私のことを目で制すると、サキ様はゆっくりと、冷静に、言った。
「熱が出てから、うまく笑えないんです」




