決断(5)
広い屋敷が、さらに広くなった。それは恐怖そのものだった。孤独を感じさせた。
「熱はだいぶ下がったと思うの、どうかしら」
サキ様はそう言って、前髪をどけた。軽く触れたが、まだ熱い。調子はまだよくないのだろう。元気に振る舞おうとしているのか、声だけは明るいが、表情は無い。今にも倒れてしまいそうなのを必死に我慢しているようだ。
「まだ熱いですよ」
「そっか。ねぇライン、この前のお医者様、また呼んでもらえるかしら?」
「はい、今すぐ」
「あぁ、待って」
行きかけたラインを止め、サキ様は「大切な話をするわ」と言った。私とラインは、はいと頷き、サキ様の正面に立った。遠いわ、と彼女は手で私たちを招いた。座って、とベッドに腰掛けるように言われ、戸惑ったが、そのとおりにした。
「三人になっちゃったわね」
「そうですね……」
「ご飯のこととか、考えてはいたの。絶対にコックがいた方がいいわ。掃除のことも、そう。絶対にメイドがいた方がいい。でもね、彼らを雇っておくより、他のところで働いてほしかったの」
「えぇ」
「彼らはまだ若いでしょう。だから残されたんでしょうけど、ずっとこんな屋敷に、女の子一人のためにって、そんなの嫌だと思うのよ」
「ガーネットさんは……」
私の言葉に、サキ様は小さくため息をついた。
「彼女にはね、嘘をついた」
きっぱりと、サキ様はそう言った。
「どうしても、親と一緒に行ってしまった人を、信頼できないような気がしたの。麗華とラインのこと、私は信用してる。でも、ガーネットには、どうしても当たってしまう気がしてね。あなたは私の両親について行ったくせに! なんて言ったら、彼女を傷つけてしまう。ぎすぎすしたくなんてなかったの」
「そうでしたか……」
「うん」
額の汗をふき、サキ様は続けた。
「嫌だったら断ってね。さっきいろいろ電話していたでしょう、あんな風に、私もそれなりにコネがあるから、いくらでも私のボディガードをしてくれる人はいるって知ってるの。でも、もしよかったら、私の傍にこれからもいてほしい」
まっすぐと見つめられた。
強い目だ、本当に強い目だった。
「もちろんです」
即答した。立ち上がり、頭を下げる。自然に出ていた行動だった。
「私は、あなたの傍に入れることが幸せです。ここにくるまで、私はずっと、どこか孤独を感じていました。一人でした。でも、あなたの傍にいると楽しいんです。幸せなんです。ぜひ、これからも私を傍に置いてください」
ありがとう、とサキ様は私の手を取った。私は泣きそうになるのをこらえ、微笑んだ。
「俺も、ここに置いてください」
ラインが立ちあがり、深々と礼をした。
「居心地がいいんです。一人の時より、ずっと」
「ありがとう、ライン」
ラインは慣れた手つきでサキ様の手を取り、その甲にキスをした。
「あなたの傍に居させてください」
「お願いするわ」
私は、ひとつ小さく深呼吸した。
ずっと、考えていたことだ。この時に言わなくて、いつ言うのだ。
「サキ様、あのっ」
心臓がうるさいほど鳴っていた。
「この話を聞いて、雇いたくなってしまったら、解雇してくださってかまいません。サキ様が私を必要としてくれた今、私はあなたに隠し事をしたくないんです」
「……いいわ、聞くわよ」
サキ様は、真剣な目つきになった。こちらをじっと、見つめている。
「今まで、なかなか言い出せずにいました。申し訳ありません。私は……ある能力を持っているんです」
ラインの視線を一瞬だけ感じたが、気にせず話し続ける。
決めていたことだ。彼女に残っていいと言われたら、全てを打ち明けると、決めていたのだ。
「私、人の嘘が分かるんです、感情が、分かってしまうんです」
サキ様は、そう、と小さく言った。




