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   崩壊(6)

「とにかく、今いる人を集めてください、玄関に」

 私は彼女に頼むと、階段を駆け上がった。変な汗が出る。鼓動がおかしい。


「どうだった」

 ラインが心配そうに訊いてくる。

「訳が分からない」

 私は一度せき込んだ。言葉が上手く出てこない。口が嘘見たいに乾いている。


「いないんだって、コックと、メイドも数人」

「いない?」

「どういう事だと思う? 取りあえず、残っている人は玄関に集めてもらって……それから……」

「分かった、分かった」


 ラインは私の肩に手を置くと、目をせわしなく左右に動かした。私も彼と一緒に思考した。どうなってる、どうすればいい。


「サキ様を起こそう。聞いてみなければ」



 サキ様は、冷静だった。

「あぁ、そう。もしかしたら逃げたのかも」


 眠い目をこすりながら、さらりと彼女は言ってのけた。

「逃げた?」

「私のお金を持ってね、そんなこと、ないかな? どうかな」


 むにゃむにゃと、寝ぼけているかのように言っていたが、内容は気味が悪いほどに冷静だった。


「私のこと、そんなに大切じゃないんでしょ。お父様もお母様も、最近ではめっきり会わなくなったし――多分十歳になったからね、私が。なんか、一区切りって感じで。予想はしていたから、別に泣き叫んで驚いたりはしないわ」


 彼女は、今、冷静じゃない。

 私は悟った。


 彼女は冷静なふりをしているだけだ。饒舌になればなるほど、混乱しているのが分かった。ベッドから降り「とりあえず、残ってるのは私たちだけ?」と聞いた時は、月の光だけでも青ざめているのが分かった。もしかしたら、立っているのがやっとなのかもしれなかった。


「いえ……数人のメイドとコックはいるようです」

「ますます怪しいわね。ボディガードはいないんでしょう」

「――私たち以外は」

「他の人を集めて、今すぐに」

「もう集めています、玄関にいます」


 ありがとう、さすがねと微笑む彼女の唇はやけに赤く、私はこれ以上ない不安を覚えた。


「麗華、ライン、二名ボディガード、引き続き私の護衛をお願い。


 イサベル、セシリャ、カタリーナ、三名メイド。イサベルは夜勤よね、さっき異変に気がついてくれたんでしょう? ありがとう。とりあえず三人とも、いつもの時間に働いてほしいの。セシリャ、カタリーナはいつもの時間に起きて、大変だろうけど、いなくなったメイドの部屋を片付けて。何か手掛かりになりそうなものがあったら私に教えてちょうだい。私の部屋に来れば、いつでも対応するわ。私がどうしても出られないようなら、麗華かラインが対応するから。イサベルは、今から少しメイドの部屋を見てみて。時間になったら眠っていいわ。


 アレハンドロ、ミハイル、コック二名。三人もいなくなって大変でしょうけど、皆の朝御飯をよろしく。とりあえずまだ夜の三時過ぎだから、寝れるときまで寝てちょうだい。

 お父様とお母様の部屋は、私が明日起きたら見るわ。何か置き手紙でもあるかもしれない……今は見たくない。今日は結構夜遅くまで仕事をしていたから、頭が上手く回らないの。休んで、改めて両親の部屋を探すわ。


 じゃぁ、一次解散……くれぐれも妙な行動を起こさないでね。大丈夫、万が一あの人たちが戻ってこなくても、家主の一人はいるんだから……任せてね、それじゃぁ、お休み」


 サキ様は、残っている者を集めて、状況を判断し、即座に指示を出した。


 サキ様の横でだまって立っていたが、冷静すぎて、恐怖すら覚えた。

 そうか、と思い知る。


 今まで彼女がキーボードと画面とネットを通じてしてきたことは、こういうことだったのだと。


 彼女は社長だ。

 彼女の傍でにこにこと話を聞いている私は、忘れていた。傍に居るだけでいいと言われていたため、本当に傍にいただけだった。そんな自分に呆れかえる。


 彼女は、こんなにも大きなものを抱え込んでいたのだ。


「逃げたんじゃない?」

 どうやったら、こんなことを言わせてしまうようになるんだ。


 発狂してしまいそうだった。

 幾度とない後悔の波が押し寄せ、自分を責めて離さないようだった。


「サキお嬢様」

 ラインの声に、はっと目が覚めたような感覚に陥る。ふとサキ様を見ると、彼女はラインに抱きかかえられていた。


「お休みになられますか?」

 こくり、と彼女は一度頷いただけだった。呼吸が荒い。目を瞑っている。もう寝てしまっているのかもしれない。


「多分熱がある」

 ラインが冷静に言った。いや、冷静なふりをしていった。額には汗が流れている。蒸し暑さのせいだけではないだろう。


「俺たちは俺たちで動こう。ガーネットさんに連絡をして見るとか、お嬢様の傍にいながらでもできることはあるはずだ」


 目の前がぐらぐらと揺れる感覚に陥ったが、それでもなんとか、部屋まで戻った。


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