崩壊(2)
次の日、サキ様に少し時間をもらい、ガーネットさんと話をした。
「夜のボディガード、誰もしたがらないみたいですね」
「そうなんだよ」
彼女は困っているようだった。
ラインの話を彼女にすると、今無職だろうと(そう言う事にしておいた。さすがに彼の「仕事」を正直には言えない)条件に見合えば採用、それは私が決めることだ、とのことだった。
「年とか経歴とか、そういうの、私は気にしないよ。気にしてたら、あんたを雇いはしなかっただろ」
もっともだった。
「レイカを雇うときには強いことが第一条件だったからあんなテストをしたけど、今回は夜に起きていてくれれば、こちらとしては文句はない。何かあったら、レイカを起こせばいいことだし――強いに越したことはないが。
とりあえず、その友だちとやらを連れておいで。彼に話をして見よう、いかが?」
「よろしくお願いします」
私はすぐに、ラインに連絡をした。
「え、いいの」
電話の向こうで、彼は驚いていた。
「どんな仕事をしていても、夜に見張ってくれればいいってさ」
「へぇ、そうなの」
「うん。だから、来てみない? 話だけでも聞いて見てよ」
二日後、私は彼を黒い屋敷につれてきた。レイカが友達を連れてくる、という噂は屋敷をめぐっていたようだ。私が屋敷に入ると、いつもより大人数でメイドが玄関を掃除していた。コックも、何を考えたのか食材を運ぶふりをしている。ボディガードの人たちも、こそこそとラインを盗み見ようと待機していた。
「こんにちは、失礼します」
と、ラインが私より少し遅れて屋敷に入ってきた。
そこにいたメイド数人が、思わず息を飲んだ。いつものラフな格好ではない、スーツ姿のラインを見つめたまま、手の動きは停止している。
コックも、おおと小さな声をあげた。女性のコックは頬を赤らめ、男性のコックは目を見開いて驚いている。ボディガードも同じような反応だった。女性の視線が少し痛かったが……気にしない。
私は「こっち」と、ラインをガーネットさんの部屋に案内した。部屋に入り、「はじめまして、ラインと申します」と挨拶するラインを見つめるガーネットさんの表情は、それはもう珍しく、面白かった。平静を装おうとしているが、頬が紅潮してしまい、目が泳いでいる。仏頂面で、笑ったとしてもにやりとしか笑わない彼女を照れさせるとは、ラインは本当に、凄い「能力」を持っている。
にこにこと対応するラインは、大人びていた。言葉づかいも丁寧で、雰囲気が優しく、しっかりとしている。もしかしたら、ちゃんとした仕事をしたこがあるのではないか、と思うほどだった。
仕事の概要を伝え、ラインが承諾し、サインをして、あっさり契約は完了してしまった。
「に、荷物を持って、屋敷に来てほしいんだが、いつになったら来れるだろうか」
と、終始ドギマギしていたガーネットさんがラインに訊くと、ラインは三日後には、と答えた。屋敷を出てから「今の彼女と話をつけなきゃ」と笑っていたが、大丈夫なのだろうか。彼の表情から、不安や困ったような感情が伝わってこなかったため、余計に謎だ。どうやって彼は、三日で全てを片づけてこの屋敷に来るのだろうか……今度、聞いてみよう。
その日は、もう嬉しくて、にやつきが止まらなかった。
「レイカの彼氏?」
と、サキ様は真面目に訪ねてきた。大切な友人ですと答えると、なんだ、恋愛話が訊けると思ったのにと冗談を言って笑った。
「随分嬉しそうね」
「彼のことが大好きですから」
「私も仲良くなれるかしら」
「きっとなれます」
「楽しみね」
彼女は、珍しく無邪気に笑った。




