本音と別れ(4)
次の日は一日中そわそわしていた。
何て切り出せばいいのだろうか、どうすればいいのだろうか、うまく言えるだろうか、まとまるだろうか、どうなるんだ!
やがて思考は開き直りに達した。
まぁいっか! どうにでもなれ!
「なんだか、朝は元気が無かったから、寝不足か何かかなって心配したんだけど、元気そうね」
とサキ様に見ぬかれたぐらい、私は分かりやすく開き直って生き生きとしていたのだろう。
「あの! 少しお時間いただけますでしょうか」
と、まぁ分かりやすく元気よく、私はゴウさんに話を切り出すことができた。
サキ様の部屋を出て、彼とバトンタッチをして、いつもは部屋に帰るところを、まわれ右して彼に向き合った。突然の出来事に、
「いいけど、なに、どうしたの」
と、ゴウさんはびっくりした様子だった。そりゃあそうだろうと、内心で苦笑する。
「元気が良すぎました、すみません」
思ったことを口に出してしまうあたりが、私も慌てている証拠だと冷静に分析しつつ、話を切り出した。
「あの、私気になってることがあって、上手な言葉が探せなくて、昨日すごく悩んだんです」
「うん?」
「ゴウさん、転勤についてどう思ってますか?」
「どうって、びっくり」
「ですよね……その」
私に気がありますか? と聞けたらどんなに楽だろうか。
逃げ出したくなりながらも、私は懸命に踏んばる。逃げられないのだ、逃げたら後悔する。
「私もびっくりなんですけど」
「寂しい?」
「寂しいです」
うん、と頷いた。決心するための、頷きだ。まっすぐ目を見る勇気は出ない、下を向いて、言う。
「ゴウさんは寂しいですか」
「………………そりゃぁ」
ゴウさんは、私の考えを読み取ろうとしてくれてるのだろう。この子は何が言いたいんだ、と思っているだろう。考えた後の返答だった。
もういいや、話の流れが唐突でもいい。私の気持ちを話そう。
「私、ここのボディガードの皆さんに羨ましがられるの、知ってるんです。でも、そんなときに差別しないで、私を一人の同僚として見てくれたのはゴウさんだけでした。本当に嬉しくて、私の支えになってました、ありがとうございます」
「君を妬むやつらの気持ちが分からんでもないけど、十六で働いている子を、俺は応援したいと思ったから。妬むなんて気持ちはわかなかったんだよ」
「……凄く優しくて、その優しさが嬉しくって、私ほんとに感謝してるんです」
「そんな、今は妬まれているかもしれないけどさ、君と話せば、みんな君の味方になると俺は思うよ。妬んでごめんねってなるさ、きっと。いい子だもん、レイカは」
あぁ、だんだん彼は私を想っていたのではなく、妹のように可愛がっていたのかもしれないと思ってきた。でも、でも聞く。聞かないと分からない。
「がんばります、ゴウさんがいなくなっても」
すぐに、言う。
「でも、気になってたことがあって。ゴウさん、私に時々、男性もののコロンの香りがするとか、一緒にバーに行きたいけど行けないとか、行ってきたでしょう?」
見上げた。視線を上げると、困ったように「そうだねぇ」と笑うゴウさんがいた。
感情が高ぶると泣いちゃうのかな、私。
我慢することも出来ず、すぐに涙が溢れて流れた。ゴウさんは慌てて、どうしたのとうろたえていた。袖で涙をふき、話を続ける。
「ゴウさんは私のこと好きなのかもって思ってて、それでも私は恋ができなくて、でも、転勤になったときにあっさりしてたの、びっくりして。わかんなくなっちゃって、昨日凄く、悲しくて」
「……そっか。レイカは俺のこと、そんなに考えてくれたか」
「はい」
「ありがとう。俺はレイカが好きだよ。俺の気持ちに、レイカはやっぱり気がついていたんだね」
寂しそうな顔をしてほしくなかった。
それでもまっすぐ彼を見た。
やっぱり彼は、寂しそうに笑っていた。




