一緒(4)
あれから帰るまでの少しの時間、深い話はしなかった。何となく、二人とも目いっぱいというか、これ以上話す雰囲気ではなかった。普段居る場所や仕事の話なんかをした。
「気がついているかもしれないけど、俺はこれが仕事道具」
言って彼は、とんと自分の体を長い指で叩いて見せた。
「お金はもらわないんぁよね」
「うん。話すと長くなるんだけど……まぁ、ずっと家に置く代わりに、とか食事食べさせる代わりに、とか情報貰う代わりに、ってな理由で女性の方々にお世話になってきたからさ。なんとなく、お金の場合は少ないんだよね」
「でも、なくちゃ大変でしょ」
「んー、なんか、例えばこの家もだけど、セットでお金もついてる感覚。ここにお金置いておくわって女性もいるけど、大抵は俺が頼む。今日の夕飯代ないよーとか、服がほしいよーとか。仕方ないわねって、お金もらうときもある」
「へぇ」
「こんな話しして、大丈夫だった?」
「まぁ……昔、母が少しそんなことして、悩んでたから」
私の言葉に、ラインは少し目を開くと、なんだかごめんと正直に謝ってきた。
「ラインが悪いわけじゃないよ」
「俺は悪気もなく、こういう事をしちゃってるからさ」
「ラインが苦しんでないなら、いいんじゃない」
あはは、と彼が笑った理由は分からなかったけど、彼が私の母と似たような職についていることに関して、少ししかショックは受けなかった。そんな世界もあると、どこか傍観した自分がいた。
別れ際に、彼は一枚のメモをくれた。
「こっちよりよくいる仮宿があるから、教えておくよ。昼から夕方にかけてが、多分いる確率高いよ。いつでもおいで、寝てても起こして構わないから。それと、携帯の番号も教えておくね。万が一女性が出たら、仕事仲介人だとか適当なこと言っておいて」
「ありがとう」
「ほんと、無理しないで、いつでもおいでよ。俺も会いたくなったら……あっと、どうしよう」
「私の携帯電話は仕事用だから、私用で使っていいか聞いてみる。また改めて連絡するね」
「オッケー。あ、あと、万一俺の部屋に来るときとかに声かけられても、適当にあしらってね。たまに客のねーちゃんか? とか聞いてくる親父がいるからさ」
「なんて答えればいいかな」
「高く買ったのって言っておいて」
「あはは、了解」
立ち上がり、ありがとうと頭を下げた。
「貴方に出会えてよかった」
「俺も」
ラインも立ち上がると、そっと私に歩み寄って、私の頬に軽くキスをした。不意打ちに思わず声をあげそうになる。
びっくりした。挨拶だけでこんなに色っぽく出来るだなんて。
「また、必ず会おうね」
「そのために、住所と電話番号渡したんだよ。それほしがってる女の人、どれだけいると思ってるの」
ふ、と笑って、しつこいぐらいにありがとうを言いながら、私は彼の仮宿を出た。




