表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/86

  一緒(2)

 一瞬だけ意識が遠のいた感覚に襲われた。次に続く言葉が出てこない。頭がぐらぐらする、ふらふらして、感情が溢れて、もう大変だ。体全体が熱かった。


「ごめん、ごめん俺何か悪いこと言った?」

 はっと我に帰ると、ラインが私の頬の涙を親指で拭ってくれていた。心配そうにのぞきこまれる。


「ごめん」

 彼は困惑の表情で、それでも私に本当に申し訳なさそうに謝ってきた。慌てて涙を拭こうとしたが、止まらない。だめだった、安心してしまって、もうどうにもできない。次から次へと溢れ出る涙のせいで、呼吸すらまともにできず、言葉も発することができない。


 子供のように泣き出してしまった。

 えっぐえっぐと、情けない声が漏れるだけだ。


 違う、あなたが悪いのではなくて、あなたが助けてくれたんだ。

 必死にそれを伝えたくて、何度も首を横に振る。彼は、私が何かを伝えたいことを察したのか、だまって頭を撫でてくれた。


「ごめんなさい、いきなり」

「大丈夫だよ」


 ちょっとしたパニック状態に陥ってしまったが、ラインは驚きもせず、ずっと私が落ち着くのを待っていてくれた。やっと落ち着いて来たところで、はい、と渡されたタオルは、とてもいい香りがした。私はそれを顔に押し当て、ごしごしとこする。


 彼は、私に何も言わなかった。きっと私から言い出すのを待っているのだろう。私をじっと見つめるでもなく、視線を下に落とし、ずっと待っているようだった。私は、一度大きく深呼吸すると話を切り出した。


 緊張したが、落ち着いてはいた。


「びっくりした」

 うん、と彼は小さく返事をした。続けて、の意味かもしれないし、俺も、という意味かもしれなかった。


 私は続けた。

「さっき、ラインは『才能じゃなくて能力』って言ったでしょ、自分の、女性にもてるその、能力を」


「うん、言った。行き過ぎた才能は、ただの能力となる。過度な能力だね、俺の持論だよ」

「私も、そういう事を何度も考えてきた」


 金色の目が、興味深そうにこちらを見た。私は、その目をまっすぐ見る。いつでもどうぞ、とその目が言っているような気がした。



 言っていいのか。

 心の中で、自分の声がこだまする。

 自分のことなんて、正直に話したことはない。

 大丈夫なのか。

 大丈夫なのか。

 すっと、息を吸った。



 ――大丈夫。


 だってさっき出会ったばかりの人だ。どう思われようと、もう会わないことはできる。少しでも疑ったら、はぐらかせばいい。冗談だよ、と言って笑ってしまえば終わりだ。誰が信じるだろう? 「私は人の心が分かる」だなんて?


 ……違う。


 私の中にふっと浮かびあがるように出てきた、言い訳にも似たその意見を、私は私自身で消去する。一蹴して、抹消する。


 根拠はないけれど、確信があったはずだ、安心もあったはずだ。


 この人は、大丈夫。

 息を吐くと同時に、流れるように言った。



「私も、そういう能力があるの」

 誰にも、話すことができなかった自分の能力を。

「人の気持ちが分かるの」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ