一緒(2)
一瞬だけ意識が遠のいた感覚に襲われた。次に続く言葉が出てこない。頭がぐらぐらする、ふらふらして、感情が溢れて、もう大変だ。体全体が熱かった。
「ごめん、ごめん俺何か悪いこと言った?」
はっと我に帰ると、ラインが私の頬の涙を親指で拭ってくれていた。心配そうにのぞきこまれる。
「ごめん」
彼は困惑の表情で、それでも私に本当に申し訳なさそうに謝ってきた。慌てて涙を拭こうとしたが、止まらない。だめだった、安心してしまって、もうどうにもできない。次から次へと溢れ出る涙のせいで、呼吸すらまともにできず、言葉も発することができない。
子供のように泣き出してしまった。
えっぐえっぐと、情けない声が漏れるだけだ。
違う、あなたが悪いのではなくて、あなたが助けてくれたんだ。
必死にそれを伝えたくて、何度も首を横に振る。彼は、私が何かを伝えたいことを察したのか、だまって頭を撫でてくれた。
「ごめんなさい、いきなり」
「大丈夫だよ」
ちょっとしたパニック状態に陥ってしまったが、ラインは驚きもせず、ずっと私が落ち着くのを待っていてくれた。やっと落ち着いて来たところで、はい、と渡されたタオルは、とてもいい香りがした。私はそれを顔に押し当て、ごしごしとこする。
彼は、私に何も言わなかった。きっと私から言い出すのを待っているのだろう。私をじっと見つめるでもなく、視線を下に落とし、ずっと待っているようだった。私は、一度大きく深呼吸すると話を切り出した。
緊張したが、落ち着いてはいた。
「びっくりした」
うん、と彼は小さく返事をした。続けて、の意味かもしれないし、俺も、という意味かもしれなかった。
私は続けた。
「さっき、ラインは『才能じゃなくて能力』って言ったでしょ、自分の、女性にもてるその、能力を」
「うん、言った。行き過ぎた才能は、ただの能力となる。過度な能力だね、俺の持論だよ」
「私も、そういう事を何度も考えてきた」
金色の目が、興味深そうにこちらを見た。私は、その目をまっすぐ見る。いつでもどうぞ、とその目が言っているような気がした。
言っていいのか。
心の中で、自分の声がこだまする。
自分のことなんて、正直に話したことはない。
大丈夫なのか。
大丈夫なのか。
すっと、息を吸った。
――大丈夫。
だってさっき出会ったばかりの人だ。どう思われようと、もう会わないことはできる。少しでも疑ったら、はぐらかせばいい。冗談だよ、と言って笑ってしまえば終わりだ。誰が信じるだろう? 「私は人の心が分かる」だなんて?
……違う。
私の中にふっと浮かびあがるように出てきた、言い訳にも似たその意見を、私は私自身で消去する。一蹴して、抹消する。
根拠はないけれど、確信があったはずだ、安心もあったはずだ。
この人は、大丈夫。
息を吐くと同時に、流れるように言った。
「私も、そういう能力があるの」
誰にも、話すことができなかった自分の能力を。
「人の気持ちが分かるの」




