金目の男(5)
「ラインさんと話はしたいと思っていました」
「ほんと? 光栄だな」
「なんだか楽しそうなので。でも、あんなに人気じゃ、どこの店に行っても二人きり人はなれないでしょう?」
「何それ、誘ってる? ホテルとか近くにあるけど」
「そうじゃないです」
私の声は上ずっていなかっただろうか。彼と関わった時間の中で、初めて心臓がぎゃぁと驚きの声を上げた。彼が冗談口調だったのがせめてもの救いだ。本気だったら一目散に逃げている!
「ごめん、分かってるよ、冗談」
「……なんとなく、直感的にですけど、あなたと話すと面白そうだなって思ったんです」
「うん、俺も」
驚きだったが、何かが通じ合った気がした。
「俺も話がしたいと思った」
ふわりとした彼の言葉が、私を包むようだった。きっとこれは、彼に対しての安心感だ。
どういうことだろう。
「どこか、静かな店とか、二人きりになれる店とか、知っていますか?」
「ここらへんは俺、顔見知り多くて。それに、個室でもない限り、俺は初めて行った場所でもそれなりに女性に声をかけられるよ」
嘘じゃないから驚きだ。
「何もしない、と誓うけど、それでもやっぱりそういう個室に入ると、受付とかあるだろ? 面倒なんだよね」
「二人きりは、やっぱり無理ですかね」
「ううん」
彼はぴたりと足を止めた。くるりと体を左に九十度回転させられる。
「君が良ければ、だけど」
そこは小さなマンションだった。「三階の角部屋」と彼が笑う。
「……え、ラインさんの家ですか」
「うん」
軽く、彼は答えた。
「あそこなら、誰も来ないよ」
「……話すだけですよね」
「君に手は出さないよ」
本気だ。嘘をついていない。嘘をついていないと分かったから、はいじゃぁ、と行くのは、彼からしてみれば軽い女に思われるのかもしれなかったけれど、私は直感的に、大丈夫だと言う確信を得ていた。
私と同じように、彼は私と話がしてみたいのだろう。
「じゃぁ、おじゃまします」
「ははっ、君って結構大胆?」
彼は楽しそうに笑うと、行こうと歩きだした。一歩目は小さい。やっぱり、女性のエスコートに慣れている人の動きだと思った。




