金目の男(4)
「ん?」
彼は私の肩を抱いたまま、少し覗き込むように私を見た。近い近い近い近い! 吸い込まれるような金目が、すぐそこで闇の中で光っているようだった。
あれええええ喰われるのか! これはもう実力行使でいいのか! 振りほどいて殴るぐらいしなきゃだめな状況なのか!?
パニック状態に陥る。漫画で表現するなら、目が渦を巻いたような状態だ。
「どうしたの? 目が泳いでいるけど」
「……いえ、ありがとうございました」
「こちらこそ、友だち、っていうか後輩って言うか、まぁ知り合いって言うか、そんな感じのあいつらが、なんか悪いことしてごめんね。絡まれただけ? なんかされていない?」
「あ、はい、話しかけられただけです。無言をつき通してたんで」
「ははっ、勇気があるね。無理やり手でもひっぱられたらどうするつもりだったの」
「腕っ節には自信があるので」
そりゃいいや、と彼は楽しそうに笑っていた。
楽しいのはいいが、それよりも。
なぜ私は抱きしめられたままなんだ。
「恐くは無かったの?」
彼は相変わらず私を抱きしめたまま、話しを続行させる。
「はい、別に、大丈夫です。じゃなきゃ一人でうろつきませんよ、こんなとこ」
「確かにね。でも、じゃぁどうして」
彼は、すっと目を細めて私を見つめた。少しだけ囁くような口調になる。
「ずっとしかめっ面なの?」
こいつ楽しんでる! 私の反応を見て楽しんでいるんだ、もう! それを悟られないようにするのがうますぎる、なんなんだこの人は!
「私の反応見て楽しまないでくださいよ!」
彼とは対照的に、少し声を荒げて、私は言う。ちょっと力を入れて離れようとしたが、だめだ、逆に彼を挑発することになってしまった。ぎゅっと肩に力が入り、動けなくなる。それでも痛くないから不思議だ。……慣れっこなんだろう!
「あれ、またばれてる。ほんと凄いなぁ、どうしてわかったの」
「分かりますよ」
「そう、ごめんね、楽しんじゃって。助けた代金だと思って」
彼はふふ、と微笑むと、すっと肩を抱く手の力を抜いた。やっと圧迫感から解放される。
しかし肩に置かれた手は離されない。これじゃただの恋人だ。
なんなんだ……私をどうしたいんだこの人は!
「あの、えっと」
うまく言葉が出ない、無理だ、こんな男の人のあしらい方を私は知らない。
「俺のせいであの店から出て、行くあてを探してたのなら、ごめん」
言いながら、彼は小さく一歩前に進む。肩を抱かれている私は、進まざるを得ない状況になる。
数歩歩き、驚く。わぁ、歩幅が私にぴったりだぁ。
もうなるようになってしまえ。私はため息交じりに「女性の視線が怖かったんですよ」と言った。
「睨んでた?」
「敵のように」
「それは悪かったね。重ねて大柄の男に絡まれて、怖い思いをさらにさせてしまった。本当にごめんね」
「ラインさんが悪いんじゃないですよ」
「レイカちゃんは優しいね」
なぜ、なぜ名前を知っている! 盗み聞きか、マスターに訊いたか。抜け目ないなこの人、と思いつつ、私は彼と進み続ける。
「ラインさんが負い目に感じる必要はないじゃないですか」
「感じるよ、だから店を出て君を探した」
ぐいと引き寄せられる。彼とますます密着する。傍観者のように私は現状を分析した。タイミングが完璧だな、この人は。
そこでふと、疑問が浮かぶ。
「私を探しに行く、とか言って店を出てはいないですよね」
「そんなことしたら、君があの店に行きにくくなるだろ?」
その通りです。
「ありがとうございます」
「ふふ」
彼はなぜだか微笑むと、「話をしない?」と言ってきた。まぁ、時間あるし、この人と話をして見たいとは私も思っていたところだ。




