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  金目の男(3)

 うおーでかいなー。

 無表情で彼らを見上げる。


「お譲ちゃん何しているの?」


 ラフなTシャツを着た二人だった、一人は帽子をかぶり、もう一人は短い髪の毛を赤く染めている。ううん、なかなかの迫力。でも弱そうだなぁ、なんて思いながら、だまって彼らを避けようとする。


「おっと」

 と、帽子が行く手をふさいだ。古い映画のキャラクターのようだ。たいていぼこぼこにされるのは、こういう奴だ。


「暇なんだろ? いいとこ紹介してやるからさ」


 なんのどんないいとこだ、という突っ込みはしない。あー大通りに行けばよかった、と後悔する。こういうのはどうすればいいんだ、力づくか、しかしこちらから手を出すといけないか……出されたら蹴散らそうか。


 そんなことを考えながら、やはり無反応で過ぎ去ろうとする。次に止めるのは赤髪、だぁーもう面倒くさい。


 私たちを避けて、何人かがこそこそと横を通っていく。ううん、ヒーローのように助けてくれる男性はいなさそうだ。


 早く私に殴りかかるとか、私を無理やりとっ捕まえようとかしてくれないかなぁ。


 まさか私がこんなことを考えているとは彼らも思っていないだろう。勧誘の言葉がうるさい。だから私に何を紹介するってんだよ、もう。私は呆れながら、彼らの言葉を流した。彼らが諦めるまで待つつもりだった。


 そこに、聞き覚えのある声が飛び込んだ。

「ルド、トム、俺のだから」


 ぎょ、っとした。彼らも、不意に話しかけられて驚いたようだった。大柄な男達の後ろから、その声はした。室内でも屋外でも、その声はよく通る。


 男達は振り向くと、男性にぺこりと頭を下げた。なんだか急に、背が一回り小さくなった感じがする。


「二人が借りで寄ってたかるなよ、かっこ悪い」

「まさかラインさんの女だなんて思わなかったんスよ」

「珍しい若い子だし、びっくりしたんでさ」

「まぁ、確かにここら辺ではちょっと若いよね。おいで」


 ラインは長い指をちょいちょいと曲げて見せた。あぁ、まるで正義の味方みたいに登場してくる人がいるとは。しかも、女性に囲まれていた、少しうそつきの人。予想外だった。  


 私が顔をしかめると、彼は微笑み、はやく、と言った。くそう、かっこいい。何が悔しいって、絵になる登場に様になる言葉、ぴったりの仕草だった。黄色い声が群がるはずだ。


 すす、とラインに近づくと、彼は長い腕を伸ばし、ぐいと私の肩を引き寄せた。ふっと彼の胸に頬が触れる。守られるように、私は彼に引き寄せられた。コロンの香りがする。うーん、かっこよすぎる。私はドキドキするのではなく、冷静に彼と状況を分析していた。彼にどきどきしたら、あの女達と一緒、といった謎の抵抗があったのかもしれない。


「ごめんね遅れて。ルド、トム、この子怖がっちゃってるから」

「なんかすんません」

「商売はいいけど、怖がらせるのは賛成できないよ。誘惑しなきゃ」

「ラインさんだからできるんスよ」

「まぁね、んじゃ、また。今後この子を見かけても声をかけないように。俺の、だから」

「へーい、失礼します」

「ども、失礼します」


 ラインの胸に押し付けられたまま、私は彼が手を上げて男達と別れる様子をうかがっていた。しばらく経ち、彼らの足音が遠くなったことを確認する。


 確認した。もう彼らは遠くに行った。

 ……いつまで抱きしめてるんだ、この人は。

「あの」


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