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8 金目の男(1)

 マルコは、強い酒を飲んでいるようだった。彼はお酒に強いはずなのに、顔を真っ赤にして突っ伏している。


「ミモザでいいかい」

 出会った時より打ち解けた口調で、マスターは私に尋ねた。

「うん、ありがとう」

「レイカのお気に入りだね、ミモザは。マルコ! 起きろマルコ、レイカが君の隣に座っているよ」


 マスターは、マルコにそっと状況説明をした。マルコはゆっくりと顔を私の方に向けた。頬が赤く染まっている、目はとろんとして、今にも寝てしまいそうだ。こんなマルコは初めて見た。思わずきょとんとしてしまう。


「レイカはやさしいなぁ」

 マルコはそう言うと、ぼかぁ寂しいんだよ、と言った。呂律が上手く回っておらず、聞き取るのに精いっぱいだった。

「どうしたの、マルコ」

「彼は失恋したばっかりなの」

 マスターがずばりと言った。うー、とマルコがうなる。


「美人なお客さん、マルコは必死にアピールしてたんだけど、彼氏を連れてきちゃってねぇ」

「あらま」

「一方的な失恋さ。そりゃぁ、酒も飲みたくなるさ。それに、ねぇ」


 うう、とマルコは返事をするように唸ると、勢いよく顔を上げた。そして勢いよく振り返ると、息を目いっぱい吸い込んだ。視線の先には、ラインと女性の集団だ。大声で叫ぶものかと思い、私は身構えたが、そんなことはしなかった。吸った息を数秒止め、はぁ、とため息のように長く吐き出すと、カウンターに体の向きを戻した。


「それにさ」

 呟くようにマルコは言った。拗ねている子供のようだ。


「ラインさんが俺に見せつけてくるし」

「……拗ねてるの?」

「いつもは俺にキャーキャー言ってるんだよ、あの子たち」


 子供みたいな拗ねかたに、私は笑ってしまった。マスターもおかしいのか、くすくすと笑っている。


「そういうことなの」

 うん、とマスターは頷いた。

「そういうこと」

「可愛い」

 うるせいや、とマルコは両腕を垂らし、頭をカウンターに打ち付けた。

「いたっ」

 うー、と泣いたふりをしながら、額をぐりぐりとカウンターに押し付けている。はい、とマスターから渡されたグラスを受け取り、私はマルコの頬にグラスをひっつけた。冷たいよ、とマルコが顔をそらす。


「いいもん、俺はどうせ、ラインさんに勝てるとこなんか、ないし」

 ぶつぶつと呟いた声が、今度ははっきりと聞こえた。実はそんなに酔っていないのだろう、顔が赤くなっているだけだ。ようは、拗ねているだけだ。可愛いな、と私はミモザを口にする。


「ラインとは初めて会うんだっけ」

 マスターが慣れた手つきでグラスをふきながら聞いた。

「えぇ、常連さんなんですか?」


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