出会い(6)
まず、マルコがピアノを弾いていないのだ。これはすぐに気がついた。ピアノジャズがレコードで流されていたため、いつものように生演奏が披露されているものかと思ったが、そうではなかった。マルコは、マスターの真ん前に座っているようだった。私に背を向けて、カウンターに突っ伏している。眠っているのだろうか?
次の違和感は、女性の黄色い声だ。
マルコが寝ているのに、女性の黄色い声?
いつもマルコがピアノを弾いている場所の近くにある、大きな机に目をやった。女性がきゃぁきゃぁと高い声をあげながら、誰かに群がっているようだった。
人だかりの中心に、一人の男性がいた。青年だ、見た目から推測するに、私より五つか六つ、年が上だろう。細い手足に褐色の肌をしており、髪の毛はふわふわとした焦げ茶色だった。長く伸ばしていて、低い位置で結んでいる。どこか中性的な雰囲気を漂わせた青年だった。
彼は、足を組み、にこにこと笑っていた。周りの女性の話を、うんうんと大人しく聞いているようだった。
マスターが私に声をかけ、私がマルコを見つけ、そして見知らぬ褐色の肌の男性を見つけた。
彼が、ふと細めていた目を開き、流れるような動作でこちらを向いた。
目が合う。吸い込まれそうな金目だ。
にこり、と彼は微笑んだ。長い指を伸ばし、軽く私に手を振る。
うわぁ、と思わず声が出そうになってしまった。なんて綺麗な人だろう、というのが率直な感想だ。中性的な美男子だった。一連の動作が洗練されており、言葉にするのが難しいほど綺麗だった。
もう、と彼の隣に座っていた女性が大きな声を出した。
「よそ見しないで、私の話を聞いてよ、ライン!」
ごめん、と彼が言った。小さな声でよく聞こえなかったが、低く深い声だった。
ライン、と言うのか。私は彼の横顔を確認するように一度、じっと見つめた。
不思議な人だ。
そう思いながら、私は彼の横を通り過ぎ、カウンターの前、マルコの横に腰かけたのだった。




