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7 出会い(1)

 大通りは、人でにぎわっていた。夜も朝も、ここから人がいなくなることはない。常にごちゃごちゃと賑わっていて、朝か昼か夜かもわからないぐらい、明るいネオンが通りを照らしている。


「うう」

 財布はすられないように気を配りながら、私は人にぶつかりつつ大通りを進んでいた。しかし、人が多い。皆どこへ向かっているのだろう? 心なしか、向こうから歩いてくる人の方が多い気がする。きっと気のせいだろうが……なんども、その人の波に逆らうように歩くのは、ひどく疲れるものだった。


 無理無理。


 私は通りに入って数メートル歩いて、疲れ果ててしまった。こんなに体力がなかったものか、とも思ったが。一人で人込みの中にいるからかもしれないと思った。一人でうろうろする、という経験が、私にあまりなかったことが判明する。


「無理だっ」


 人の波に反抗するように小さい声で言うと、私は右に見えた小さな通りに逃げ込むように入った。暗い通路だ、急にしん、とする。涼しい風が吹く。あぁ気持ちがいい。


 その通りに光源が少なかったが、ところどころ、窓から黄色や青、赤い光が漏れていた。音楽も微かに聞こえる。バーだろうか、ダンスクラブだろうか。看板が光っているところもある。お店の名前が、ゆらゆらと暗闇に浮かびあがっている。


「どこに入ろう」

 多少治安が悪くても、わが身を守れる自信はあったが、どこがいいお店でどこが悪いお店なのかもわからない。



 りん、と左手前の店の扉が開き、ベルが鳴る音がした。同時に、その店からジャズ調の音楽が鳴る。私はそっと、そちらに目をやる。


「ありがとうございました」

 と男性の声がした。またね、とにこやかに笑う女性と、ありがとうと微笑む男性のカップルがその店を後にする。どうぞまた、と店の中から男性が顔を出し、頭を下げた。男性は若々しいその声からすると少し意外な、六十すぎの男性に見えた。背が高く、耳にかかるほどの白髪が風に揺れる。眼鏡の奥には優しい目があった……私をその目が、捕える。

 彼は私をしばらくみると、にこりと笑った。


「今晩は」

「……今晩は」

「待ち合わせですか?」


 彼は気さくに話しかけてきた。うーん、渋くていい声だ。


「一人です……素敵なお店を探していて」

「そうでしたか。よろしければうちのお店に来ませんか。可愛らしいお嬢さんが一人でいると、危ないですよ」

「ありがとうございます」


 男性は嘘をついていなかった。この店は大丈夫、と私はすぐに判断し、その店に入った。


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