表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/86

  新たな一歩(4)

 次の日、私は学校から帰宅するとすぐにユンを部屋に呼び出した。


「いかがなさいましたか?」


 ユンはにこりと笑って見せたが、私の呼び出しに多少の不安は見え隠れしていた。それはそうだろう。こうやって部屋に呼び出すこと自体、初めてのことだ。ましてや目を輝かせながら呼ばれたら、状況がうまく読みこめないのも無理はない。


「あのね、ユン。私、ボディガードになりたいの」

 ユンはきょとんとした表情を見せた。そして一瞬遅れて「はぁ」と気の抜けた返事をする。


「唐突、ですね」

「昨日、ユンのひたむきな姿に感動したの。私もあなたみたいな仕事に就きたいって思って」

「しかし、レイカ様は……」


 そこまで言って、ユンはしまったと言う顔をした。なんとか言葉を紡ごうとするものの、うまくできないようだ。もごもご、と何かを口の中で呟いている。


「いいの、気にしないで」

「も、申し訳ございません」


 ユンは心底申し訳ないというふうに、頭を深々と下げた。私は慌てて顔をあげさせる。


「やめてよやめて。あのね、私、将来の夢……後継ぎって夢が無くなっちゃったから、困ってたの。でも、昨日やっと決まったの、感謝しなきゃ」

「それは……喜ばしいことですか?」

「もちろん」


 私の言葉に、ユンは初めて嬉しそうにほほ笑んだ。


「ユンはどうやってその職業に就いたの?」

「私は、ボディガードの仲介会社に登録しておりまして、その会社からこの家で働かないかと紹介してもらった次第です。試験がありましたから、正確にはこの家で働く人を募集しているから、試験を受けてみないか、という紹介を受けました」


「なるほど……その会社に登録するには、どうすればいいの?」

「試験を受けました。筆記試験と実技に面接です。筆記試験は一般教養、実技では戦闘能力と技術に判断力、面接では他のこと……人柄などが審査されますね――」



 その後、私はユンに質問をたくさん浴びせた。

 テストの詳細から、心構えまで。時間にしてびっしり三時間だ。


 私が得た結論は、これからも学校に行き続け、いい成績をとり続けることと、何か武術を習うことだった。


 その晩、私はさっそくアルドさんとメリィさんに私の夢を話すことにした。


 最初は反対されたものの、ユンの説得もあり、最後には二人とも折れてくれた。


「君の好きなことをしなさい。でも、中途半端にはならないように」


 アルドさんが、最後に私にそう言って、私の将来の話は終わった。最後の一言が嬉しくて、私のやる気がより増した。



 さっそく次の日から、空手を習う事に決めた。理由は単純で、私の父が空手好きだったからだ。もちろん父の育った環境では、空手を習う事は出来なかったが、幼いころ、よく私に「空手はかっこいい」と言っていた。ふと、そんなことを思い出したからだ。


 学校のジムで持久力のトレーニングもはじめた。筋力の向上も目指した。おかげで私の体育の成績は急激に上昇した。


 それからの日々は、ある意味で変哲のない毎日だった。毎日毎日、勉強にトレーニングの繰り返しだ。それでも私は退屈だなんて思わなかった。


 はやく立派なボディガードになりたい。

 その思いが、私の心を支えていた。


 ぐるぐると規則正しく回る進化の日々は過ぎ、私は十六歳になった。

 十六歳の四月半ば、私はユンの紹介で、ある屋敷に向かっていた。


 人生初の、ボディガードの試験を受けるために。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ