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  新たな一歩(2)

 町一番の本屋さんは、名をドラドと言って、黄金という名前の通りにたくさんの本が置いてあった。本好きの私にとっては、そこは楽園だった。時間がたくさんあったので、隅から隅までメリィさんと共にまわった。


 二人だけでまわっていたのではなく、実際にはボディガードがひとりついて、三人でうろうろしていた。私が貰われた時にはまだボディガードがつくようなことはなかったのだが、ここ数年で住んでいるところの治安は悪化していた。二年前に、住み込みのボディガードが三人雇われた。


 ひとりはアルドさんにつきっきりのボディガードだ。背が高く、無口な人だ。


 もうひとりはがたいのいい男性で、最後の一人は細身の女性だ。今回は女性二人でのお出かけという事で、女性のボディガードがついてくることになった。男性だと入りにくいお店もあるだろうからと、彼女は笑って引き受けてくれた。


 彼女の名前はユン。黒髪ストレートの、美しい女性だった。初めて会った時には、ちゃんと私たちのことを守れるだけの力量があるのだろうかと心配になったが、何かの武術の達人らしいと聞いて驚いた。長い手足を使い、男性相手にでも物おじせずに戦ってみせるのだろうか。


 治安が悪くなったと言っても、実際事件に出くわしたようなことはなかったので、まだ私はボディガード三人の力量を知らない。ただ、彼らがいるとそれだけで心強かったのは確かだ。


 ユンは、道中私たちに話しかけることもせず、無言で買い物について来た。時々ちらりと目についたものを見たりはしていたようだが、大抵は私たちのすぐ後ろをぴったりとついて離れなかった。


 今まで気にもしなかったが、私は少し彼女に興味がわいた。今まで「後継ぎ」という明確な目標があったため、ほかの職業にはあまり目が行っていなかったからかもしれない。


 驚くべきことに、彼女は嫌な表情一つ見せず私たちの後をついてくるのだ。


 自分が行きたくもない場所を延々と歩く仕事は、苦痛でしかないのではないだろうか。しかし、彼女の動作、表情からはそんな気持ちはみじんも読み取れない。


 この私が、読み取れないのだ。


 隠しているのか、それとも面倒だと思っていないのかのどちらかであり……どちらであっても、それは単純に「凄い」ことだと感じた。



 本屋さんでは、結局本を三冊買ってもらった。ひとつは表紙に一目ぼれした本で、もう二冊は今まで集めていたシリーズものだった。もうそれだけで私は十分満足したのだが、メリィさんは満足しなかったようで、私を服屋へ連れまわした。


 一軒目ではピンクのスカート、二軒目には気にいる服が無かったが、三軒目でお洒落なジーンズを、四軒目の服屋では、鍵の形をしたネックレスを買ってもらった。こんなにいいのにという私の言葉をメリィさんは無視し続け、どんどん買いましょうと張り切っていた。


 私が、そう言えば靴がほしいとねだると、彼女は大層喜んだ。一足気に入ったブーツがあったため、それを購入してもらった。一足で十分だと言うのに、彼女は大人っぽいヒールの高い靴が絶対に私に似合うからと、それも購入してくれた。少し大人っぽすぎる気がしたが、もうレディだものと彼女は言った。


 そこでふと、あぁそう言えば私はお姉さんになるのか、と今さらながらに感じたのを覚えている。どうしようと、少し困惑したことも。なんだか変な気持ちになったものだ。


 結局帰りは夕方になった。私は歩き疲れてへとへとだった。メリィさんも疲れたようで、ソファに座るや否や、すやすやと眠りにおちてしまった。


 その寝顔を見て、私は思わず笑ってしまった。

 いい人なんだよなぁ。

 そんなことを生意気にも考えながら、部屋に帰り、今日買ってもらった服を綺麗に畳んでクローゼットの中にしまった。


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