4 新たな一歩(1)
「うむ」
次の日、私は部屋の小さなソファに座り、腕組みをしていた。
昨日は、あの後ずっと部屋で本を読んでいた。
ファンタジー。しかも長編だ。現実逃避をしたかったのだ。最後は本を抱きながら、すやすやと眠りについた。
今日も学校はあるが、お休みさせてもらった。さすがに行く気にはなれない。こんなわがままを許してもらえてよかった。お金を払っていただいているのにな、と思いつつ、やはり休むことにした。
とりあえず、何度も寝た。寝て、寝て、眠れなくなるまで寝た。やはり、現実逃避をしたかったのだ。結局午後一時まで寝た。もっと眠れると思ったのに。がっかりしながら、ベッドを出て、昼食を食べた。
メリィさんとはあの後、特に何も話していない。今日休みたいです、いいわよ、の会話ぐらいだ。アルドさんとも話していない。最近は仕事が忙しいらしく、夜遅くに帰り、朝早くに家を出ているようだ。ゆっくり話しをしなくてはならないのかなぁ、面倒だなぁと考え始めるときりがない。
さて、せっかく休みをもらったのだ。私は将来の夢探しを始めた。ソファに座って、腕を組み、黙々と、悶々と。
三十分ほどたっただろうか。
答えはまだ出ない、そんなに簡単に出るものでもない!
という結論が出てしまった。
「ううむ」
もう一度唸る。どうしよう。先に進まなくなってしまった。
まぁそんなに簡単に夢なんて見つからないよなぁ、あぁ、今まで楽しかったなぁなんて考えつつ、ふらふらと部屋を出た。
「あら」
出た先に、たまたまメリィさんが通りかかった。私はいつものように、にこりと笑顔を見せる。
「ちょうどレイカに用事があったのよ」
「え?」
どやらたまたま通りかかったのではなく、私に会いに来たようだ。何の用だろう、また話さなきゃいけないのかな、と考えていたら、そんなことはなかった。
「買い物に行かない?」
「へ?」
「行きましょうよ。買物。平日だと空いてるわよ」
「え、何を買いに?」
「服とか、本とか、なんでも」
多分、気を使ってくれたのだろう。笑顔に少し、後ろめたさと不安さが入り混じっていた。
買い物か、気晴らしにもなるかな。
「じゃぁ……着替えるから、もうちょっと待っててもらっていい?」
メリィさんはぱっと顔を輝かせると、リビングで待ってるわと言って、早足でいなくなってしまった。メリィさんの後ろ姿を見て、少し元気が出た。
せっかくここまで育ててもらったんだ。なにか立派な夢を見つけないとなぁ。
そんなことを思いつつ、わたしは服を着替えた。空色のワンピースだ。持っている服の中で一番明るい色。今日は靴と、新しい本を買ってもらおうかな、と考えながら支度をした。
意外と元気だ。
にこりと一人で笑った。
ショックは大きいけど、それでも絶望の底に突き落とされたわけじゃない。
自分がしたいことをしよう。そう考えればいいんだ。
「はぁ」
小さなため息をついていたことに気が付き、慌ててそれを吸い込み、首を振る。
ネガティブだめ! ポジティブ大事!
頬をパチンとたたき、気合を入れて部屋を出た。
リビングに行くと、メリィさんが私の服を絶賛してくれた。なんだかテンションが高く、かわいらしい。褒められたのは素直に嬉しかった、表面だけでもぎくしゃくしないでいてくれたのは楽だった。案外あっさりしている人なのだ。
「どこに行きたい?」
本屋さん、と私は答えた。じゃぁ町で一番の本屋さんに行きましょうね、とメリィさんは張り切って言った。




