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  無情な現実(2)


 不安で不安で仕方が無かったそこでの生活だが、意外にも大きな問題はなく、私は夫妻に愛されながら、すくすくと成長した。

 本当に良い人達に貰われたのだ。

 ちゃんとした教育を受けさせてくれた。毎日おいしいご飯を食べさせてくれた。可愛い服を買ってくれたし、綺麗な部屋も用意してくれた。旅行にも連れて行ってくれた。

 私のことを本当に愛してくれた。メリィさんは分かりやすく、アルドさんは分かりにくく。

 自分で言うのもなんだが、聞き分けのいい子だったと思う。

 もちろん喧嘩をしたこともあったが、私は相手が「なぜ」怒っているのかを的確に推測することができるようになっていったため、相手の心情を理解し、時に納得し、時に説得するようになっていた。ぎゃんぎゃん喚いたり、泣いたりするようなことは決してなかった。

 学校での生活も、大きな問題は起こらなかった。

 私の過去は隠していたが、ほとんどの人はあまり詮索してこなかった。少数のしつこい人に対しては、軽くあしらったそぶりを見せた。

 あまり目立った行為はしたくなかったため、大人しくしていた。静かに、それでいてちゃんと人の輪の中に溶け込む。難しいことだったが、なんとかそれを実行することができた。

 成績は上位を常に目指していた。よい成績をとることが、少しでも夫妻への恩返しになると思っていたからだ。

 もちろん学校は、嘘や噂でまみれていたけれど、そんな環境にも少しずつ慣れていった。何度も大人の軽々しい嘘や、子供の妬ましさからきた噂などを聞いては吐き気をもよおしたが、それでもこんなものだと自分を言い聞かせた。

 きっとどこでもこうなんだろう。

 十を過ぎたころ、私は一つの結論に達していた。

 皆嘘をつく。

 皆怒りを隠し、作り笑顔を浮かべる。

 私も含めてそうなのだ。きっと皆も知っていた。

 ただ、隠している部分が私には全て見えてしまっているだけだ。

 見えていないふりをすれば、うまく過ごせる。

 だんだんと上手に生きていけるようになった。

 今、母に「どうして嘘をつくの」と言った日に戻れたら、と考えることもしばしばあったが、もうあの家にいたことは過去のことだ。淡い思い出だ。今は今の環境で、必死に学び、生きるしかない。

 将来の夢は、もちろん立派な後継ぎだった。

 アルドさんの会社は、おもちゃの会社だった。六歳までの子供に向けたおもちゃを中心に作っている、大きくはないけれど、そこそこ有名な会社だ。

 将来は経営についても学び、さらには子供たちについても学ぼう。

 もっと会社を大きくして、有名になって、お金を稼ごう。

いつか私の故郷であるあの周辺に住んでいる子供たちに、おもちゃをプレゼントできたらどんなに素敵だろう。私の友だちがお父さんやお母さんになっているころ、その子供たちがアルドさんの会社のおもちゃを使っていたら……考えただけで、わくわくした。

 立派な後継ぎに。

 立派な後継ぎに。

 この能力だって、今は隠しているけれど、将来的に役に立つだろうとも思っていた。小さな子供たちがどのおもちゃに一番興味を示しているか、私なら子供の反応を見るだけで分かる。こっそりデータをとって、商品を売れば……大もうけも夢じゃないかもしれない。

 幼いながらに、私は自分の能力と、将来について深く考え、逃げることはしなかった。

 真剣だった。

 毎日、毎日。

 しかし現実とは無情なものだ。

 驚くほど簡単に、幸せは逃げて行った。未来も、希望もごっそりとひきつれて、逃げて行った。


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