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0 月影麗華の能力

0 月影麗華の能力


 私の能力を「才能」と呼ぶには、あまりに言葉が優しすぎる。

 そもそもこの言葉には、ポジティブなイメージが付きまとう気がする。それがいいことかどうかは別として。


 才能があるね、というのは多くの場合褒め言葉、少数の場合に皮肉か妬みだろう。いや、案外妬みの方が多いのかもしれないが、しかし私は実際にどうかなんて知らない。


 知る由もない。


 ただ、才能があるねなんて言うときは、大抵相手の能力が秀でていて、少なからず周りの人はそれを見ていいなぁ、なんて思っているのだろう。純粋に凄いなぁと感じる人から、あの才能が私にあればなんて思う人まで、いるのだろう。

 多分。


 「才能」という言葉に収まりきれないほどの「能力」を持っている私でも、音楽の才能に秀でている人や、勉学の才能に突出している人を見れば、凄いなぁと感じることは日々ある。そこらへんの感覚は、私のような「能力」を持っていない人と変わりが無い、と思っている。


 「才能」という言葉には収まりきれないほどの「能力」。


 私はつい先ほど、こんな風に言ってみたが、自慢のように取られてしまいかねないので、ここで強調して述べておく。


 これは自慢でもなんでもない。

 この能力のせいで、私の人生は大きく歪んでしまった。


 突然だが、私は普通、と言う言葉が苦手だ。嫌いではないが、苦手だ。

 理由は、普通の定義がよく分からないからだ。使い勝手が悪い。


 普通の人生は送れなかった、なんて言ってもいいのだけれど、じゃぁ普通の人生ってなぁにって質問されてしまったら、答えられない。普通じゃないってなぁにと訊かれたら、私が訊きたいと答える以外に方法が無い。


 だからその言葉は使いたくない。変わりに私の人生は「歪んだ」「妙な」「変な」「珍しい」人生だと言っておこう。そんなのどこにでもありふれているよ、なんて言う人もいるかもしれないが、それには異を唱えることができる。


 なぜなら私と同じような能力がある人に、あまり会ったことが無いからだ。

 私はいわゆる少数派。マイノリティもいいところだった。

 そういうやつらは弾かれていく。気持ち悪がられ、遠巻きに眺められる。


 そう、気持ち悪がられた。

 この言葉はけっこうしっくりくる。


 私は、自分の能力を「才能があるね」なんて褒められたり、皮肉られたり、妬まれたりしたことがない。

 その代わりに、気持ち悪がられた。

「何それ、そんな人間いるの」

 と言った感じに。

 いるんですよー! と能力を見せてみると、一転、相手の反応は恐怖に変わることもしばしばある。傍にいることすら、拒まれる。

「こっちに来ないで」

 このような類の言葉は、よく言われたものだ。


 どうか同情はしないでほしい。

 確かに私は、この能力のせいでちょっとおかしな人生を送ってきたが、不幸な人生は送っていない。辛かった時もあったけれど、現時点では幸せなので、過去もひっくるめて不幸な人生ではないと断言できる。


 今から話すことは、私の過去であり、孤独であり、そこから這いつくばってわが道を探しもがく姿そのものだ。


 誰からも必要とされずに死んでいくんじゃないかと思っていた私が、必要とされる日が来るまでの長い道のりに、少しばかり耳を傾けてほしい。


 ではまずは、幼少時代の話を……と、その前に。

 自己紹介をしておく。

 私は「月影麗華」――ツキカゲレイカ。


 私は自分のことを、今では「俺」と表する。女性なのに「俺」という一人称を使う事に違和感を覚える人もいるかもしれないが、それが私なのだから仕方が無い。

 ここで矛盾が出てきているのはお気づきのとおりだ。

 今まで散々「私」と表してきたじゃないか、と。


 その理由は後々明らかにするが、簡単に言ってしまうと私はわざと自分のことを「俺」と言うようになった。ゆえに、私のことを語るときは、わざとそうやって自分のことを指し示すことも無いと思い、私という一人称を使用して語っていく。


 自分のことを俺、と言うようになったのは、十六のころだ。それまでは、自分のことを「私」と呼んでいた時代があった。

 時は遡り、私がまだ幼いのころの話から始めよう。

 そのとき私はすでに、自分の能力を理解していた。


「人の心が読めてしまう」という能力を。


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