学院への招待状
謎の赤マントの女性と遭遇した後、俺達は一度全員で城に戻ってきていた。何故かその女性と複数の見知らぬ人物付きで……。
詳しいことは分からないがあの後イホームから急に連絡が入り今すぐ城に戻ってきてほしいとのことでとりあえず街の探索は中止し急いで戻ろうとしたところ、この女性も一緒に行くと言い出したのであなたは誰なのかと問いただすと何やら彼女もイホームの関係者であることが判明した。
最初は疑っていたのだが向こうにも話は通してあり、恐らくイホームが自分を呼び出した理由も彼女が関係しているらしい。俺は益々この人が何者なのかという疑念が強くなったが断っても勝手に付いてきそうなので仕方なく一緒に城に向かうことになったのだった。
そうして特に何の会話もないまま俺達は城の大広間で待たされることになり、こちらから話しかけるべきなのか、でも何から聞くべきなのかと悶々と悩んでいると部屋に近づいてくる足音と共にイホームが入ってきた。
「みんなお待たせしました」
その瞬間座って待っていた謎の女性とその他の人物は突然立ち上がり丁寧な会釈をする。
「ご無沙汰しておりますイホーム様」
「みんな元気そうで何よりだねぇ。でも来るならもっと早く連絡をくれればよかったのに」
「申し訳ありません。ですがお話しした通りこちらにも事情があったものですから……」
俺達を置き去りにして二人はそう話し始める。どうやら関係者であるというのは嘘ではなかったようだ。この話ぶりから察するに彼女とイホームとの付き合いは中々長いような感じなのだろうか。
「あ、お兄ちゃ……ではなくアラザキ様。突然呼び戻しちゃってごめんなさいね」
なんだ?わざわざ呼び方をかしこまった言い方に変えたことに違和感を感じる。まぁ察するにこの人の前だからこうしているのだろうけどあまり呼びなれた感じではないので少しむず痒い。
「えっと、それもそうなんだけどそれよりもこの方は一体どなたなんですか?色々と分からないことが多すぎて混乱しそうなんだけども」
「ん?あぁまだ自己紹介とかしてなかったんだ。えっとこの子はね昔私が勤めてた魔術を教える学校の生徒だった子で‘ストラ’っていうの」
そうイホームから紹介され彼女は軽く頭を下げる。
「初めまして‘ストラ・カリオン’と申します。以後お見知りおきを」
「魔術を教える学校の方……」
この世界にはそんなものもあるのか。学校は学校でも魔術を教えるなんて本当にファンタジーの小説か映画くらいでしか聞いたことないよなぁ。そう内心でツッコミをいれつつこちらも改めて自己紹介をする。
「初めまして。俺の名前は荒……」
「アラザキ・タツヤ……様ですよね。存じております」
「……え?」
自分の名前を言おうとした瞬間、さえぎられ彼女の口から俺の名前が出たことで目を丸くしてしまう。どうしてストラさんは俺のことを知っているんだ?
「もしかしてストラ、もうアラザキ様のことって向こうには……」
「はい。ほぼ全員が彼のことを認識しております」
「ど、どういうことだ?」
あまりにも聞き捨てならないワードのオンパレードに思わず顔をしかめてしまう。
「アラザキ様がもつその能力のことは我々が所属する魔術学院ですでに認識されており、今回私共がここに派遣されたのはその能力をもつアラザキ様にそのことについて詳しくお聞きするべく当校までご一緒にお越しいただけないかというお願いをさせていただくためなのです」
「当校までってことは……つまりその魔術の学校までってことですよね」
「はい、その通りでございます」
「あの、一応質問なんですけど俺が使えるこの能力のことについて聞きたいだけなら今この場所でも話すことはできると思うんですけど、それではダメなんですか?」
俺の質問に彼女はゆっくり目を閉じ静かに頷く。
「実はそれだけではなくあなたに直接会って話を聞きたいと申している方がいらっしゃるのです」
「直接会って?」
その言葉に疑問が浮かぶ。それならばストラさんではなくその人自身も一緒にこの場に来ることはできなかったのだろうか。
「その会いたがってる人はここに来ることはできなかったんですか?」
「はい、その方は他の地に長時間滞在することが中々難しい方で今はどうしても学院から離れることができない状況なのです」
学院から離れることができないか……。どうやらその人物は俺が思うよりだいぶ特殊な状況にあるらしい。
「イホームはそのことについて何か知ってるのか?」
「実は学院でアラザキ様の力が観測されてから話題になっていること自体は噂くらいで知ってて、ちょくちょく向こうと連絡は取りあって報告をしていたりはしたんだけど……今日この子がこっちに来てたりするのはなんの知らせもなかったからそのことに関してはあまりよくわかってないの」
「そうなのか……」
どうやらイホームも俺に会いたがっている人物のことはよく分かっていないらしい。
「連絡の件に関しては重ねてお詫び申し上げます。申し訳ありません。ですが実はこちらも本来であれば別の件でこの国を訪れるつもりでいたのです」
「別の件?」
「アラザキ様が街中で先ほど追いかけていた人物。我々は彼らを追跡していたのです」
「あのガラの悪そうな男の人たちを?なんでですか?」
「彼らはいわゆる希少種と呼ばれる生物を狙いそして売買をする組織に所属していたと思われる人物でした。我々はその組織の主犯格を確保し、組織自体を解体することを目的とした活動をここ数年で行ってきていたのです。そして先日、ついにその主犯格の確保に成功した我々はその後各地に散り散りとなった残党の捕縛をするという目的で様々な場所に派遣されていました。今回も本来の目的はこの国に逃げ込んだ残党の目撃情報があったため我々がやってきたのですが、その時連絡が入りこの国の近くにいる部隊に至急ある人物を探してほしいとの指令が下ったんです」
「そのある人物っていうのがまさに俺ってことですね」
ストラさんはこくりと頷く。偶然にも俺達が見かけたあの男達は彼女たちのターゲットだったらしい。
「でも待ってください。俺達がその男達を追いかけて細い路地裏で見失ってからあなたたちは俺達とすぐに合流してこの城に向かってきましたよね?結局その残党達ってのはどうなったんですか?」
「それに関してはご安心ください。すでに我々以外の他の部隊が確保したと連絡がきておりました」
いつの間に!?そんなそぶりも見せないうちにどうやらことはもう済んでいたらしい。裏でいったいどんなことが起きていたのか気になるが、あまり詮索するのも怖い気がしたのでこれ以上は何も聞かないことにした。
「ちなみにストラ、その残党達っていうのはここで一体何をしていたの?ただ逃げてきただけ?」
「いえ、どうやら聞いた情報によると彼らはこの街にドラゴンの子供がいるという噂を聞いていたそうです」
「それって……」
多分ピィタのことだよなぁ……。一応今は街中では俺にしか姿が見えないことになっているはずなのだが多分ケガしてここに落ちてきたばかりの時とかに見られてたのが噂になったりしてたんだろうなぁ。
「ちなみにアラザキ様。その件に関してなにか心当たりはありませんか?」
「え?お、俺ですか?……えーと」
なんで急にこっちに振ってきたんだ。もしかしてそれも知られているのか?
「イホーム、そのことについては話していいもんなのか?」
俺は隣に立っているイホームにこっそり耳打ちする。俺だけの判断ではピィタのことを明かすべきなのかどうなのかわからない。
「いや、知らないなら今はこのままでいいと思うよ。余計なこと知られるとまた根掘り葉掘り聞かれることになるかもしれないし……」
「あの……お二人とも?」
そんな様子をストラさんは怪訝な表情で見つめていた。
「あぁー!!いえいえ、ちょっと自分にはよくわからないですねぇ。ドラゴンとかそんな簡単に見れるものでもないですしねぇ」
「……そうですか。確かにドラゴンという種族自体もうほとんど見かけることができないものですからね」
俺の返答に彼女はとりあえず納得してくれたようだ。それだけピィタ達の存在は希少なんだなぁと改めて実感した。
「まぁその話は置いておかせていただくとして……アラザキ様。改めてお願いもうしあげます。私共と一緒に我々の学院、‘ガーデン’までお越しいただけないでしょうか?」
そう言ってストラさんは深々頭を下げる。
今度は魔法の学校か……。どうやらこれはまたしても何か面倒なことに巻き込まれそうな予感がして俺は心の中で小さなため息を吐いた。




