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その存在は嘘か真か

少しだけ短めです。よろしくお願いします。

イホームからの突然の発言に驚きを隠せない俺はどういうことかと彼女に詳しい説明を求めた。


「ほら、彼は確かに今回この国で現在最も貴重な人員であるおにいちゃんに理由はどうあれ危害を加えたでしょ? それは本来なら当然許されることじゃないしどういった処罰を与えられても文句は言えない状況なんだ。実際、先日行われた会議のときにもこの国から即刻追放したほうがいいのではないかーとか、どこかの島に流したほうがいいだろうとか言ってる方もいたしね」


「うわぁ、まさかの島流し提案ですか……」


一応そういうことを言ってくる人もこの城にはいるんだな。ちょっとした過激派というか……。まぁでも今回の件に関しては今後の国に関わることかもしれないからそういう厳しい意見があるのもしょうがないとは思うけど。


 

「それでいろんな意見がでていくなかで私はちょっと待ったをかけたわけ。まずは状況を少し見てから判断してもいいんじゃないかってね。それに、彼らは恐らく今まで呪いの症状を発症させた人間の中で唯一の治療成功者。そんな貴重な情報提供者をすぐに手放すわけにはいかないっての」


なるほど、確かにそうかも。治療をしたのは俺だけどそれ以前の話や経緯なんかはこの人達から聞くほかないし、引き出せる情報や新たな発見とかもあるだろうしな。

でも、それは分かるとして……なんでそれが俺に護衛が必要ってことに繋がるんだ? いやまぁ別にいてくれて悪いものではないんだろうからありがたいといえばありがたいが、今までそんなものを用意してこなかったのに急に言い出すってのがなんとも怪しい。


「イホームの言いたいことは分かるよ。あんなことがあった後でも無事に帰ってこれたんだもんなあの二人も。でもそんな人間をわざわざ護衛なんかにしたいって言うのはどういうことなんだ? そもそも突然そんなことを言い出した理由は? この国で何かが起こってるのか?」


俺からの質問ラッシュにイホームは苦笑い気味で少し後ずさりする。しかしそうなるのもしょうがない。今の俺の頭の上には?マークがいっぱい浮かんでいるのだから。


「まぁまぁ落ち着いておにいちゃん。ちゃんと説明するから。えーと……じゃあまず何故彼を護衛につけようかと思った理由からね。おにいちゃんも知ってるかもしれないけど、実は彼は世界でも数本の指のうちに入る有名ヒルグラウンダーなんだ。そっちの世界じゃ死神ベンダーなんて呼ばれてるんだよ」


「あぁ、それは知ってる。ベイルから色々聞いた」


初めてその通称名を聞いたときは絶対にやばい化け物みたいな奴だと思ってたけどな。


「そっか、じゃあその辺の説明は省くとして……まぁそんな非常に優秀で名も轟かせている人材が傍でおにいちゃんを守ってくれていたらほぼ安全だと思うんだ。まず彼の事を知ってる人間は下手に自分から手を出そうなんて思わないはずだし、仮にそうじゃなかったとしてもそれだけの実力が備わった人間ならたいていの事態は切り抜けられるはずだしね」


「まぁ死神なんて呼ばれてるくらいだしな」


それにヒルグラウンドで初めてあった時のあの注目のされようを考えると知名度はかなりのものだと思われる。それならばいわゆる抑止力的なものもその時点である程度備わっているはずだろう。それはなんとなく分かるのだが、なんかこの感じだと嫌な予感がする。


「でもよイホーム、そんなことを急に言うって事はだ……もしかして何かあったってことなんじゃないのか?」


そんな問いかけにイホームは意味深な肩すくみをしてみせた。


「ん~……何かあったっていうか……これから起こるかもしれないっていうか? 確実とはまだ言えないんだけどねぇ」


なんだ? ずいぶんと歯切れの悪い返答だな。それに起こるかもしれないってなにがだ?


「それって一体どういうことなんだイホーム」


「……実はさ、最近街中の警備をしている兵士達の中からとある集団を見かけるようになったっていう報告がちらほら耳にはいるようになってね。それでその集団っていうのがあまりよろしくない噂のたつ連中だったからちょっと警戒を強化しようってことになったの」


「とある集団?」


よろしくない噂があるってそれは中々穏やかじゃないな。まぁ噂は所詮噂かもしれないからなんともいえないけど……でもそんなものがある時点でお近づきになるのはご遠慮したい。


「うん、噂によればその集団は色々な密猟や密輸に関わってて様々な国や地域で悪さを働いてるらしいんだ。それを世界のどこかにいる買取人に売りつけながら転々と移動しているらしいんだけど、不思議なことにまだ一度も捕まったりその証拠が見つかったりもしてないそうなんだよね」


「ふむ、なるほど。だからあくまでも噂ってことになってるわけか」


そんなことができるってことは結構な頭のきれの持ち主がいるのか、あるいは他に何か理由があるのか……。


「んで、そんな連中が何故かこの国の中に入り込んで何かをしている可能性があるってわけだな」


「一応外部の人間が入国する際には検査や審査を受けてもらってるんだけどそれも問題なく通り抜けられてるってことは何か裏があるんじゃないかと思ってる。仮に噂でもそんな人間だと分かればすぐには入国させないはずだからね」


裏があるねぇ……。なんだかきな臭い話になってきてるなぁ。美味いもの食った後にはあんまり聞きたくないことだったかも。そう思っていた時だった。


「憶測だが恐らくそいつらには何かの権力者かもしくはそれに近い何かが絡んでいると思う。昔そういったやつらに声をかけられたこともあったからな」


先程まで静かに座り込み俺達の話を聞いていたベンダーさんがそう口に出してきた。檻の方を見てみればいつの間にか彼はこちらに向かい合うようにして綺麗な姿勢を保ったまま鎮座していた。


「ベンダーさんはもしかして、そいつらと何かしらの関わりがあったんですか?」


「いや、関わりというほどのものでもありませんがここにくる途中に立ち寄ったある国でちょっとした事件に出くわしていまして、その時におかしな連中に仕事の手伝いをしないかと持ちかけられたんです」


「その事件っていうのはどんな?」


「とある貴族令嬢が飼っていたとても希少価値のある‘ベルタバード’という鳥が何者かに盗まれたというものでした。国の警備隊などがそれから町中を捜索していたのですが結局そのまま発見はされず、窃盗事件として調査をすることになったそうです」


「窃盗事件……にしても貴族の人間から盗みを働くとはまた大胆なことをするわね」


確かに、ターゲットにしてしまえば立場もなにも関係ないようだ。ますます嫌な存在になっちまった。


「それで……ちなみにベンダーさんはその仕事とやらを引き受けたりはしなかったんですか?」


「えぇ、私はララのことで手一杯でそれよりもこの国に来ることがまず優先事項だったのできっぱりと断りました。それにその内容もあまり信用していいものなのかどうかも分からなかったですしね」


「なるほど、それについても詳しく聞かせてもらえるかしら」


イホームに促されベンダーさんは事細かにその内容を話し始めた。


「その男によればどうやらその近くの森の中でとある生き物を見つけたと言っていました。それがなんなのか尋ねたところどうやらそれは‘ドラゴンの群れ’だったそうなんです。大型のしかも純粋種の親ドラゴンと数匹の子供のドラゴンが巣を作り一時的な住処にしているから捕まえるのを協力してくれと。でも純粋種のドラゴンなど滅多に見つけられるものではないし、そもそも捕まえるにしても相当な準備と設備がないと無理だと分かっていたので早々に断ったんです」


それを聞いた瞬間俺の心臓がドクン! と一つ跳ね上がった。ベンダーさんの言った言葉。純粋種のドラゴン。それに数匹の子供ドラゴン。そんなワードに俺は思い切り心当たりがあるからだ。しかも、もしベンダーさんの言っていることが本当に行われていたのだとしたら……。


「まさか……あの時のあれって……」


「お、お兄ちゃん? どうしたの? なんだかすごい顔してるけど……」


横でイホームがそう声をかけてきた瞬間、俺の体はいつの間にか走り出し全力で自宅の方向へと向かっていた。後ろから呼び止めるイホームの声がしていたが今はそれを気に留める余裕は俺には無くなっていた。


城の中を記憶を頼りに走りぬけ、挨拶もせずに門をくぐり抜けた俺は人通りの減り始めた街中を駆け抜けた。


「嘘だろ……ピィタ!!」


汗ばみながら全力に近い力で走る俺にはもはや周囲に意識を向ける力はほとんど残っていなかった。


……だから俺はその時気づいていなかったのだ。そんな俺の後姿を影で眺めつつ、不気味に笑うその集団達の存在に……。

 

次回


ピィタの身に迫る影。それを察した荒崎はベンダー達の力を借りその正体を調査し始める。

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