サプライズがすぎやしませんか?
新年初更新です。遅いです。すいませんでした……。
その後、俺はイホームに手を貸してもらいながら体を起こしつつとりあえず周りの状況を把握しようと辺りを見回した。当たり前だけどかなり騒然とした空気に包まれてるな。王宮の兵士達が動いているからか極端にパニックになってる訳ではなさそうだけど……それでもこの事態の収集には少し時間がかかるだろうな。
「あ、そういやあの二人は?」
ララちゃんとベンダーさんの姿を探すもその二人はどこにもいない。あの時、先に扉をくぐり抜けることができたはずだから少なくとも、俺がぺちゃんこに潰された後までは無事なはずなんだけど……。まさかあの二人はまだ戻ってきてないのか?
「さっきのあの二人はお兄ちゃんが目を覚ますよりも先に意識を取り戻したけど、すぐに身柄を拘束させてもらったよ。結構な規模の被害を出してくれた訳だし、それ以前にこの国にとって重要な人物にも手を出してしまったんだからそれくらいはさせてもらわないとね」
イホームは落ち着いた口調でそう説明してくれた。どうやら彼らは既にどこかへと連れて行かれてしまったようだ。
「身柄を拘束ってことは一応二人共無事ではあったんだな?」
「無事……なのかどうかはまだよく分からないけど、少なくとも彼女には呪いに関する症状の兆候は見られなかったみたい」
「ということは……治ったってことなのか?」
俺がそう聞き返すとイホームはさぁ? といった感じで両肩をすくめた。まぁ、今回みたいなことは今までに例がないんだろうから質問されてもどうなのかはイホームにもはっきりと答えられない状態なんだろう。
でもとにかく二人は無事にこっちに戻ってきていて、ララちゃんの症状は改善されているというのが分かっているならまずは俺も一安心だ。
「それでこの先、彼女達は一体どうなるんだ?」
「うーん、どうするかは上の人間達の会議次第だろうね。こんなことになったとは言え、彼女達は変な言い方だけど貴重なサンプルというか今までに類をみない、呪いが発症した後にその症状が改善されたっていう状態になっている訳だから早まった決断だけはされないと思うし、きっとそうさせないとは思う。まぁそれがお兄ちゃんの力による影響が働いているのはもう分かりきっているし、後日呼び出されてまた色々聞かれた後であの二人をどうしたいかの意見も多少なりとは聞かれると思うからそれをまとめたうえで判決が下されるって流れになると思うよ」
「あぁー……やっぱり呼び出されるのね俺」
すぐにどうこうされるわけじゃないってのは良かったけど、どうやらまだ俺は色々と彼らに関わらなきゃいけないようだ。これも何かの縁ってやつなのかねぇ。
「まぁそういうわけだから今日のところは大人しく家に帰ってゆっくり休むといいよ。後の始末はこっちでやっておくからさ」
「あぁ、悪いけどそうさせてもらうよ。流石に今回はちょっと疲れた」
いや、ほんとはちょっとどころじゃないんだけどね。肉体的にはもちろんだけど精神的な疲れの方が今回はかなり大きい。なんせあんな不思議空間をさまよった挙句、色々と気になることがたくさん残されてて一気に考えたら頭の中が軽くオーバーヒートしそうだ。だから、こういう時はとりあえず家に帰って一旦寝るに限る。まだ時刻的にも二度寝が許されるくらいの時間だろうから結構ガッツリ寝ちゃうのもありかもしれないな。
という訳で俺は後のことをイホームに任せ、若干おぼつかない足取りで自宅へと帰ってきた。はぁ~……我が家じゃあ。我が家に帰ってきたんじゃ~。最近この場所に戻ってきた時の安心感がますます増してきた気がする。きっとそれだけ俺の意識とか匂いとかがこの家に染み込んできたんだろうな。
「うぶわぁぁぁあああ……」
恐らくリビングにいる他の面子に声をかけずにそのまま自室のベッドに飛び込む。全身の力が抜け、少しすると徐々に意識が薄らいでいく。そしてさっきの時とはまた違う心地よい感覚を味わいながら、俺の意識は完全に真っ白い枕とベッドシーツの中に奪われていった。
それからどれくらいの時間が経ったのだろうか。俺は体を揺すぶられる感覚と誰かに呼ばれる声で目を覚ました。ゆっくり体を動かすとそこにいたのはセルツだった。俺の肩を掴み覗き込むようにしてこちらを見ている。
「主、目を覚ましたか。眠っているところ悪いが先程からベイルとカルラが訪ねてきたようでな。ずっと主のことを呼んでいるんだがどうしたらいいだろうか?」
「おぉ、マジか。分かったすぐに行く」
俺はベッドから起き上がると軽く身だしなみを整え、急いで玄関へと向かう。少々荒々しい感じで叩かれているドアを急いで開けると、何故か慌てた様子の二人がそこに立っていた。
「荒崎! 大丈夫か!!」
「うえっ!? な、何だよ急に。どうしたんだ?」
「さっき荒崎さんが街中で何かの騒動に巻き込まれているのを見たって姉さんの知り合いの人に言われて……。何かあったのかと心配になって」
興奮気味のベイルに変わりカルラちゃんがそう説明してくれた。どうやらあの現場をベイルの知り合いの誰かが目撃していたようだ。朝早かったとはいえ、あんだけわらわらと国の兵士やらなんやらがガヤガヤ騒いでたし、結構ド派手なことになってたからそりゃあ一人くらい現場の目撃者がいてもおかしくはないか。
「あ、あぁそういうことか。いやちょっと変なことっていうかなんていうか……確かに巻き込まれたんだけど、まぁなんとかなったみたいだからとりあえず大丈夫だ」
「とりあえずってなんだとりあえずって! というか一体何があったんだよ。頼むから詳しく説明してくれ!」
そう言ってベイルはズイっと俺に迫ってきた。あー……これは面倒くさそうなことになりそうだな。カルラちゃんの方もどうやら気になってるみたいでベイルを止めてくれそうな気配もない。……こうなったらしょうがない。まだあんまりベラベラ話していいことか分からない状態だけど、とりあえずうまい具合にはぐらかしながら何とかするしかないか。そう観念した時だった。突然俺の腹から豪快に空腹を知らせる合図の音が鳴り響いた。それを聞いた俺はハッと腹を抑える。そういや朝から何も食ってないままだったんだ。それを思い出した瞬間、一気に食欲が湧き上がり始めると同時に体の力が空気が抜けるかのように失われていった。
「えーと……姉さん、とりあえず一度朝ごはんにしよう? 荒崎さんもお腹すいてるみたいだし」
「……はぁ、そうだな。話してもらおうにも腹がなってばかりじゃあ気になってちゃんと聞けないだろうしな」
ベイルが呆れたような顔でそう答えるとカルラちゃんは苦笑いしていた。どうやらカルラちゃんの助け舟のおかげでとりあえず朝食にはありつけるみたいです。ありがとうカルラちゃん。そしてやっぱりご飯は大事。食べなきゃダメ、絶対。
ということで二人に家に上がってもらった俺は朝食を作っていただけることになった。いつもならウキウキして待っているんだけど、今の空気的にはそういった感情を表に出すのは若干空気が読めてないことになりそうなので、俺はただ大人しく料理が出来上がるのを待つ石像とかしていた。
しかし、ベイルもあんなに慌てていた割にはしっかり朝食の準備は持ってきていたし、今の彼女の姿を見る限りでは元から作る気満々だったようにも思える。もしかしたらだけどここに来る途中で俺がああなったことを知ったのかもしれないな。そうじゃなければ言ってることとやってることの辻褄があわないし。
「ご主人様、ベイルさんと何かあったのですか?」
そう考えていると、俺の横に座っていたフラウが異変に気がついたのか小さな声で俺にそう訪ねてきた。
「いや今日はちょっと静かにしていたほうが得策かなってだけだから、心配しなくても大丈夫だよ」
それを聞いたフラウは不思議そうな顔で小さくゆっくりと頷きそれ以上は何も聞いてこなかった。これがいわゆる察し……ってやつだろう。そしてそれを見たピィタも頭の上で何故か同じように頷いていたが、コイツが絶対に何も分かってないことは確かめるまでもないのでスルーしておいた。
「…………」
何かを焼く音、そして小気味のいい包丁の音だけが響く室内。漂ってくる香ばしい香りに俺の腹は再び大きく鳴りそうになった。それをなんとか我慢しつつ、いつもとは違う意味で早く料理ができてくれと俺が密かに心の中で祈り始めたその時、突然さっきまで聞いていた調理音とは違う音が室内に響き渡ってきた。誰かがまた家にやってきたようで玄関から扉をノックする音が聞こえてきている。
「なんだ? 誰だろ」
とりあえず確認だけはしようと俺はリビングから出ると玄関に向かった。
「はい、どちら様ですか?」
扉越しにそう尋ねるとそこからその主の声が帰ってきたのだが、それは俺の予想外の人物のものだった。
「荒崎さん! ファリアです!」
そう聞き覚えのある声に返答された俺は一瞬自分の耳を疑った。は? ファリア? ……え、ファリアが家に来た!? すぐに我に返り俺は急いで玄関を開けた。するとそこにいたのは、いつも俺を迎えに来てくれるあの執事の人や屈強そうな兵士達数人を後ろに引き連れている本物のファリアだった。
「よかった、荒崎さん! お体は大丈夫ですか?」
そう言われいきなり両手をがっしりと掴まれた。それに俺は反射的にビクッと反応するが彼女は全く気にしてない様子だ。な、なんなんだ? なんか今日のファリア行動がいつもよりアグレッシブな気が……。
「ってそうじゃない!! なんでファリアが家に!?」
いくら親しい仲とはいえ王女様が我が家にやってくるなんてサプライズがすぎやしませんか? しかもめっちゃ手握られてるし一体何がどうなってんだよ!?
「荒崎? 一体どうしたんだ?」
俺の背後からベイルがそう話しかけてきて俺は更にハッ! となった。振り向けば台布巾で軽く手を拭いながらベイルが近づいてきていた。そして俺の手を今も掴んだままのファリアのことに気づいたようで、一瞬固まったあと一気に目を見開き驚きの表情で後ずさりした。
「な、ななななななななななんで。なんで王女様が!?」
それを見たファリアも何故か驚いた表情でベイルのことを見ていた。そしてそんな二人の間に挟まれてしまった俺は、そのままそこから動くことができずに何かただならぬ予感を感じて顔を引きつらせていた。




