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空から何かが飛んできた

家の中に入ってみるとまず小さな玄関があった。靴を脱ぐようなスペースがありそこは黒い石のタイルで出来ている。

この国って家に入るときは土足じゃないのかな。まぁ、いいかとそこで靴を脱ぎ俺は更に中に入ってみた。平屋なのでもちろん二階はない。その変わり廊下の部分が少し長めになっており、途中で左に折れ曲がっていた。この廊下の左右には交互に扉がいくつか並んでおり、全部で7つもあった。入ってすぐ右側に一つ。廊下を曲がって左に3つ、そして右に3つという感じだ。

一人で暮らすのにこんなに部屋があってもなぁーと思ったが少ないよりはまだいいか、うん。

とりあえず廊下の突き当たりまで進んでみた俺はまた玄関の場所まで戻り、試しに一つ一つ扉の中を確認してみることにした。

その結果、入口の近くと廊下の突き当たり部分に小さな部屋が1つずつ。机のようなものと、ベッドが置いてあった部屋が2つ。(中々広かった)

多分予想だが、鉄でできた大きい浴槽のような物がある風呂場? のような部屋と床に縦長のかなり深そうな穴が開いたまるでトイレ? のような部屋が1つずつ。

それからかなり広く、台所のような場所と大きなテーブルが置かれていたリビングのような部屋が一つ。


と、まぁこんな感じの部屋割りであった。これはどうなんだろうか。中々いい物件なんじゃないですかね。少なくとも一人暮らしをしていくには申し分ない家だった。


「なるほどね、これがこれから俺が暮らす我が家ですか」


我が家ねぇ……。俺は今まで実家暮しだったけどこれからは一人暮らしになるんだな。しかも異世界で。

そういや今頃あっちの世界はどうなってんのかなぁ。大騒ぎになってるんだろうか。なんたって俺死んだんだしな。

……はっ!! いかんいかんいかんいかん、感傷的になってる場合じゃない。とりあえず家の造りは把握したから次はこれからどうやってこの家で生活していくのかを考えなくちゃな。

そういえば、さっきあの広い部屋を見たときにテーブルの上に色々置かれてたな。ちょっと見てみるか。

という訳で何やらいろいろ置かれているものを調べてみたのだが……何だろうこれ?

まず、目を引いたのがやたらと積まれていた布の袋の山。中には色のついた石のようなものが入っていて、取り出してみるとそれぞれ‘赤色’‘青色’‘白色’の三色だった。

しかもそれだけではなくよく見てみると同じ色でも色が濃いもの、薄いものと様々だった。

これだけあるってことは何かに使うんだろうけどこんな石ころ何に使えばいいんだ? 考えてみたが皆目見当もつかなかった。

まぁ、いいか。とりあえずこれは一旦置いておくとして、次にこれだ。まるで木の実のような粒やこっちに来る前にいつも見ていたような見慣れた形をした植物。これは……野菜か何かか? キャベツのような葉っぱの丸い塊。ネギのような細長い形をした植物。トマトのようなヘタの付いた丸くて大きい実のようなもの。

形は何か似てるんだけどうーん……この色は何だろうか。

キャベツのようなものは茶色いし、ネギのようなものは赤いし、トマトのようなものに関しては紫色である。

赤と茶はまだしも紫ってどうなのよ……。何か、食欲衰退しそうな色じゃないかこれ。


その他にも見たこともない謎の形をした小さな小魚。何の生き物の物か分からない謎の肉の塊など様々なものがテーブルの上には並べられていた。

うーん……どうしよういきなり不安になってきた。俺この家で生きていけるかな……。

そんな不安が頭をよぎりつつも俺はとりあえずこれからこいつらをどうしようか考えていた。


「にしてもこの石は何なんだ?」


やたら大量にあるのでやっぱり気になってしまう。うーん……石、石ねぇ。

……駄目だ分からん。どうしようこのまま考えてても仕方ないよな。少しずつだが日も傾いてきてるしあんまり時間もなさそうだ。

この際、街の人たちに直接聞いてみるか? ぶっちゃけそれが一番効率がいい気がする。一人で悩まずまずは相談をである。

それに一応引っ越してきたってことになってるし今のうちに知り合いの一人や二人作ったって問題はなかろう。


「よし、行ってみますか!!」


俺はテーブルに置かれていた石の入った袋を一つ持つとそのまま家を出た。

あ、そういえばこの家って鍵とかどうすんだろ。こんな辺鄙な場所でも何があるかは分からない。用心するにこしたことはないよな。

そう思いドアノブを見てみたのだが不思議なことにどこにも鍵穴がない。あれ? これじゃ鍵かけられないじゃん……。ドアノブ以外にも色々と調べてみたのだがどこにも鍵をかけられそうなところがなかった。どういうことだ? まさか、完全オープン泥棒さんいらっしゃーい! 状態で暮らせってことか?

うーん……とりあえず今はいいか。しょうがない後で色々また調べてみるとしよう。

そういうことにして俺は家から離れて街のある方向に歩き出した。




それにしてもこの辺はいい風が吹いてるなぁ。昼寝とかしたら気持ちよさそうだ。

そんなこと考えながらすぐ近くにあるあの一本だけ生えている木の辺りまで来た時だった。


「ん? 今何か聞こえたような……」


何だ? 誰かの声みたいなものが聞こえた気がしたんだが……気のせいか?


「ぃゃぁぁぁ……」


そう思ったのだが今度は先程よりもはっきりと誰かの声が聞こえてきた。な、何だ? どこから聞こえてくるんだ? 辺りをキョロキョロするが誰もいない。


「いやあああああああ!! 誰か止めてぇええええ!!」


さらにはっきり今度は何て言っているのかも分かるほど近くに声が聞こえてきた。ってか、え? 今の声上から聞こえてきた?

俺は慌てて上を見上げてみる。すると上空の斜め前方から何かがこちらに向かって突っ込んでくるのが見えてきた。何だあれ? こっちに来てるぞ。


「きゃあああああ!! あ、そこの人どいて!! どいてぇえええええ!!」


「え? え?」


何が何だか理解できずに俺はどいてと言われたのにもかかわらずその場に立ち尽くしてしまった。

そして、謎の飛行物体はどんどん高度が下がっていき、ついに俺の目の前までやってきた。


「いやぁあああああああ!! 避けてええええ!!」


そんなこと言われてももう手遅れ。その謎の飛行物体は俺に向かって全力でぶつかってきた。


「ひゅぐぴょ!?」


今まで出したこともない変な声を出して俺は思い切り後ろに吹き飛ばされた。すげぇ……人間って本当に漫画みたいにこんなに吹き飛ぶんだなぁ……。あぁ……周りの景色がゆっくりに見えるよ。

そんな考えがよぎりながら俺の体は地面に背中から落ちていった。


「ぐがっ!! あぁ~……痛ってぇ~……」


腹が破裂しそうなんですけど。やばいよ完全に打撲以上だよこれ。俺は腹をさすりながらそう思った。

あ、でもそうかあの力を使えばこの怪我も一瞬で治るんじゃ? ふむ、早速試してみるか。

俺は自分の腹に右手を当て、あの言葉を唱えた。


「レイズ」


すると右手が青く光りだし俺の腹の部分が一瞬光ったかと思うとすぐにその光が吸収され消えていった。

その動作が終わった瞬間、俺の腹部にあった痛みは綺麗さっぱり無くなっていた。


「ふぅ~……やっぱすげぇなこの力」


選んでよかったとつくづく思った俺であった。あ、それよりもさっきのぶつかってきたものは何だったんだ?


「うぅ~……痛い~~……」


体を起こし前を見てみるとそこには一人の女の子がいた。

髪は青色でセミロングくらいの長さ。顔立ちは少し幼さが残る気がするが中々の美人さんである。瞳の色は茶色。体つきは良く言えばスリム。悪く言えば凹凸のない体であった。……って冷静に観察してる場合か!!


「だ、大丈夫ですか!!」


慌てて彼女に近寄る。怪我でもしていたら大変だ。


「あ~はい~。そっちこそ大丈夫ですか~?」


中々おっとりした声でそう言いながら彼女も起き上がろうとした。咄嗟に手を伸ばそうとしたのだが俺はそこであることに気がついた。

え? 腕に羽が付いてる? いや違うな。腕の部分がまるで鳥の翼のようになってるんだ。

真っ白で綺麗な羽の大きい翼が彼女の両腕の部分から生えている。見てみれば彼女の手の部分もまるで鳥のように三本の細い指と鋭い爪で出来ていた。

手がこうなってるってことは足も? 見てみると彼女の足はふくらはぎの辺りまでは人間のような足なのだが、そこから先は鳥のような細い足首と三本の指それから鋭い爪がついていた。

この人もいわゆる多種族のうちの一人なんだろうか。




彼女は自力で起き上がると、こちらに向き直りぺこっと頭を下げた。


「本当にごめんなさい、まさかあんなところに人がいるなんて思ってなくて……大丈夫でしたか?」


大丈夫か、と言われれば大丈夫ではなかったが俺の力で自分を治したのでまぁ何もなかったことにしておこう。


「あぁ、大丈夫ですよ。そっちこそ大丈夫ですか? 怪我とかしてません?」


見たところあまり大きな怪我はしてないように見えるが念のために確認しておく。


「はい~私は大丈夫です。……多分」


そう言いながら彼女は自分の両腕の翼を広げて確認した。よく見てみれば彼女の翼にはいくつもの小さい傷や怪我の跡があり、左側の翼に関しては白い羽の中に痛々しく残り赤黒く腫れ上がっている大きな傷跡もあった。

恐らく今付いた怪我の跡ではないにせよ彼女の翼はどっからどう見ても大丈夫な状態ではなかった。


「あ、あの……失礼かもしれないんですけどその傷は?」


そう聞くと彼女はあーこれですかと、恥ずかしそうにぽりぽりと頬を掻いた。


「実はこれ私が小さい時につけたもので、風の強い日に無理して空を飛ぶ練習をしてたら風に流されて森の中に突っ込んじゃいましてね。で、その時たまたま突っ込んだ木に太い折れて尖った状態の枝があってそれに翼をぶつけてしまって……」


うわ、尖った枝とか何それ痛い。それであんな痛々しい傷が残ったと。


「なるほど」


「お恥ずかしい話なんですが私それ以来、空を飛ぶのが怖くなってしまってずっと飛ぶ練習をしてなかったんですけど、最近になってちょっとずつ練習しようと思って風があまり強く吹いてない日はこの辺りで飛び回っていたんです」


「それで飛んでいたところ俺に激突したと」


「ご、ごめんなさい、ごめんなさい!! 私、着地もまだうまくできなくて……」


またペコペコ頭を下げる彼女。


「あ、違うんです。そういう意味ではなくて」


別に彼女を責め立てる気はない。むしろこっちこそ練習の邪魔しちゃったしな。それに避けろと言われたのに何もできなかったのは俺の方だし。


「うぅ~……。あ! そういえば私まだ自己紹介してなかったですよね。私‘ヴィオーラ’と言います。こんなんですが一応ハーピー族です」


ハーピーか……何かどこかで聞いたことあるような。えーと、何だっけ? 何かの神話的なもので見た気がするんだけど、うーん思い出せない。まぁ、いいか。


「俺は荒崎 達也。最近この辺に引っ越してきたんだ」


俺も軽く自己紹介をする。ちょっとそっけない感じもしたがこれくらいが妥当な自己紹介であるだろう。


「お引越しですか? あ、もしかしてあそこにある建物ってあなたの家だったんですか?」


俺の後ろに建っている平屋の家をヴィオーラは指差した。


「うん、そう」


「ああー、やっぱりそうだったんですか。あんなところにあんな建物あったかなと思ってたんですけど最近建てられたものだったんですね」


建てられたというより俺があそこに着いた時にはもうあったんだけどね。


「そ、そうだな最近建てたんだ」


「そうなんですか。でもここ街から少し離れてるし何かと不便そうですよね」


確かにあの街に行くまでは少し歩くし普通に考えれば不便かもしれない。しかし俺はふらりと散歩するのが好きなので多分そこまで気にならないんじゃないかと思う。


「はは、そうかもね。まぁでも、なんとかやっていくさ」


「引っ越してきたってことはこの辺のこともまだよく知らないですよね?」


「まぁ、そうだね」


「それなら今回ご迷惑をおかけしたこともありますし私が知ってる限りの範囲になりますが、何でも聞いてください!!」


そう言ってどんと胸を張るヴィオーラ。うーん……もうちょっと出るとこ出てれば眼福だったんだけどな。なんて失礼な考えが一瞬頭に浮かんだがすぐにかき消した。

何でもねぇ……あ、それなら丁度いいや。この石のことについて色々聞いてみようかな。出来ればあのテーブルに置いてあったあの謎の食材らしきもののことも聞いておきたいな。

けど、その前に俺は一つ彼女に気になっていた質問をしてみることにした。


「あの、ヴィオーラさん」


「さん、だなんて付けなくていいですよ。気軽に呼び捨てにしてください」


またか。俺あんまり女の人を呼び捨てにするの慣れてないんだけどなぁ。


「じゃ、じゃあ……ヴィオーラ……も、もしもその翼についてる傷とか怪我の跡、治せるって言ったら治したい?」


そう聞くとヴィオーラは首をちょこっと横に傾けた。あ、何か今のちょっとだけ可愛かったかも。


「この傷を治すですか? うーん……そうですね。治せるんならやっぱり治したいかな」


治したいのか、なるほど。


「でも、ここまで大きな傷だともう手遅れだと思いますけどね」


「じゃあ、もしその傷治せますって言ったらどうします?」


するとヴィオーラはそんなことを言う俺のことを驚いた顔で見てきた。何言ってんだって感じにも見えるかも。


「荒崎さん、この傷治せるんですか?」


「うーん……やってみないことには何とも言えないんですけど。試しにやってみますか?」


「え?」


そう言うと俺はヴィオーラの左翼を狙うように右腕をかざした。そして、彼女の翼がみるみるうちに治っていく姿をイメージした。

そして、


「いきますよ」


「な、何をするんですか?」


俺の右腕が青く光り始める。俺は少し多めに息を吸い込むと例の言葉を唱えた。


「レイズ!!」


その瞬間ヴィオーラの翼は黄色い光に包まれた。そして全体を覆うように光るとその光は翼の中に吸収されていった。

光が消えた翼を見てみるとそこには先程までの赤黒く腫れ上がった大きな傷は無くなり、その変わりに綺麗な白い羽の生えた翼が見えていた。

ふぅい~うまくいきましたー。

ヴィオーラはというとそんな一瞬の出来事で何が起こったのか分からないといった感じで固まっていた。光った方の翼を見つめたままピクリとも動かない。


「あれ? ヴィオーラ? ヴィオーラさーん?」


そう呼びかけると体がぴくんと反応した。そして我に返ったようにこちらを見てきた。その顔は驚きで満ち溢れていた。そりゃそうか、って話なんですけどね。


「荒崎さん。え、これって……」


「え? いやだって治したいって言うから、治しちゃいました。あの傷もうどこにもないでしょ?」


「そんな、あんなに大きい傷だったのに……も、もしかして荒崎さん、魔法が使えるんですか?」


でたよこのフレーズ。さっき男の子を治した時もそんなこと言われてなかったっけ?


「まぁ、そんなようなものですかね」


俺自身もこれがどういった原理で使えているのかわからないけどね。

そう言うとヴィオーラは目を見開き突然俺の手をがしっ! と握ってきた。


「うえ!? あ、あの」


「すごいです!! 荒崎さんは魔術師さんなんですね!!」


ものすごいキラキラした目で俺のことを見てくるヴィオーラ。あー何かこれは……ちょっと面倒なことになりそうな予感。しょうがない、そのへんのことも含めて色々聞いてみることにしようか。



12月24日一部修正しました。

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