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ステビアセスルファム(ファリア編)

結局、俺はあの後ベイル達に事情を説明しファリアの元へ向かうため馬車へと乗り込んでいた。一応後で合流できたらするという約束はしておいたが、どうなるのか。そう思いながら俺は外へと視線を向ける。さすが記念祭というだけあってか街の中ではいつも以上に様々な屋台や、見せ物がそこかしこに見える。


なんだか地元の神社の縁日を思い出すな。そういや今年も開催されるってポスターが貼ってあったっけ。まぁいつもほぼ一人でちょっと見ていくくらいだったから、こっちとはだいぶ状況が違うけど。


「……今年はみんな行くのかな。夏祭り」


俺は王宮に着くまでの間、流れていく街中の光景を見つめながらそんなことを考えていた。







王宮に到着すると数人のメイドさんに案内され、ファリアのいる客間へと俺は向かった。それにしても……ファリアは一体何を俺に贈ってくれるんだろうか。朝からいきなりクオリティの高いものを貰ってしまったこともあって、期待と不安が入り混じっている。もちろん貰えるだけありがたいというのが前提だが。


「ファリア様、お客様をお連れいたしました」


メイドさんがドアを数回ノックすると中から彼女の返事が返ってくる。それを確認し、ゆっくりと中へ入っていくとそこにはいつものように煌びやかなドレスを着たファリアがいた。


「荒崎さんお待ちしておりました」


そう言ってファリアは後ろにいるメイドの人達に目配せをすると、綺麗なお辞儀をして全員部屋から出ていってしまった。

恐らく何かあった時のために扉のすぐ近くには誰かが立っているだろうが、実質的には今この部屋に俺とファリア二人きりという空間が出来上がる。


「なんかいつも悪いな。迎えに来てもらっちゃって」


「いえ、私がお招きしているのですからこれくらいのことは当然です」


そう言ってファリアは少し伏し目がちになると急にもじもじと指を動かした。


「あの……荒崎さん。以前私がお招きした時に仰っていた事なんですが、あれからいろいろ考えて私なりに何を贈ったらいいのか考えてみたんです。わ、私の個人的な思いでこういうことをするのは初めてなのでお気に召されるかは分からないのですが……」


落ち着かないのか慌ただしい動きでテーブルの上に乗っていた綺麗な花模様のついた袋を手に取ると、こちらに勢いよく差し出してきた。


「どうか受け取って頂けませんでしょうか?」


そう言われ俺はできるだけ優しくその手から袋を受け止めた。近くで見ると見た目だけでもう高級そうなオーラの漂うそれに俺も知らぬうちに色んな意味での緊張をしていたのだ。


「あ、ありがとなファリア。すごく嬉しいよ」


その一言を聞いた瞬間、彼女の表情が明るくなっていった。それと同時に緊張の糸がほぐれたのか、体の力が少し抜けていったようにも見えた。


「開けてみてもいいか?」


「は、はい! どうぞ……」


彼女の了承を得た俺は丁寧に袋を開封した。そしてまず出てきたのはお約束の白いハンカチ。四隅に細かな刺繍が施されており、真ん中には大きな三日月模様がうかんでいる。いかにも高そうなハンカチだな。使うのはいざって時になりそうだ。

そして、もう一つ袋の中に小さな小包が入っていることに気がついた。それも手に取り開けてみると、中からは銀色で綺麗な蒼い小さな石が埋め込まれた十字架の装飾が付けられたアクセサリーが出てきた。チェーン部分の長さからいって恐らく首からかけるタイプのものだろう。


「ファリア、これって……」


「それは‘精霊石’という希少な鉱石を使ったものです。見た目は小さいですが中には多くの魔力が含まれていて、その色の石は持ち主の身に何か危険が及んだときその力で守ってくれるという効力があるそうなんです」


「へぇー……すごいんだな」


こんなに小さいのにそんなことができるなんて、さすが希少なだけはあるな。


「ちなみにその装飾品を作ったのは私なんですよ」


「え!! これファリアが作ったの?!」


「はい、こう見えても結構器用なんですから私」


そう言って自慢げに胸を張るファリア。確かにファリアの選んだものならなんでも嬉しいとは言ったけど……まさかここまでのものを作っちまうとは。素直に俺は驚いていた。


「ちょっと付けてみてもいいか?」


「はい、サイズがあっていればいいのですけど……」


俺はチェーンを首に通しファリア自作のアクセサリーを身につけた。長さもちょうどいい具合で、緩くもなくきつくもなくの完璧なサイズだった。


「おぉ……こういうの初めてだけどなかなかいいな」


「よかったぴったりですね」


嬉しそうに笑う彼女はその姿を見て満足しているようだ。さっきの説明があったからなのだろうけど、確かに何かに守られているような気がする。


「いやぁここまですごいものくれるとは。なんか逆に悪いな」


「そんな気にしないでください。私がしたくてしたことですし、それに……荒崎さんのために何かを作れるのは私も楽しかったですから」


「ファリア……」


なに今のセリフ。俺のハートにグッときた。ありがてぇ、ありがてぇよ。


「それでですね荒崎さん。この後何かご予定があったりはしますか?」


「予定? あぁ、まぁ一応あるちゃああるけど」


ベイル達と街中を見て回ろうって約束しちゃったもんな。こればっかりは先約だから守らないといけないし。


「そうですか。よろしければお食事をと思っていたのですが」


「あーそうなのか……うーん」


そういうことならファリアも一緒に街の中を見て回れればいいと思うんだけど、流石にそこまで自由にはさせてもらえないよな。そう思いいつつも念のため俺はファリアに確認してみることにした。


「なぁ、ファリア。実は……」


しかし、そこまで言いかけた時だった。突然部屋の扉がノックされ外からファリアを呼ぶ執事さんの声が聞こえてきた。何事かとファリアは扉を開ける許可を出し、中に彼を招き入れた。


「ファリア様。緊急のご用件でございます」


そう言って彼女の耳元で囁くように執事さんは何かを喋っていた。そしてそれを聞いたファリアは驚きの表情をしながらそれが本当なのかと彼に確認をしていた。一体何があったのだろうか。


「荒崎さん、申し訳ございません。少し急用ができましたので本日はここでお暇させていただきますね。きちんとしたおもてなしもできずに本当にごめんなさい」


「いやそんな、こちらこそこんなにすごいものもらっちゃって悪かったな。何があったかは知らないけど、まぁ頑張れよ」


「ありがとうございます、それでは!」


彼女は俺ににそう言って足早に去っていった。それを見送った後、俺も彼女からのプレゼントを持って王宮から速やかに退散したのだった。









ファリアがあそこまで驚くようなことって何なんだろうか。俺は城から出たあと街中を進みつつそう考えていた。緊急の用件とも言ってたし、なにか起こったんだろうとは思うのだけど……。


「面倒なことじゃないといいなぁ……」


俺は自分に関係があるのかも分からないのにそんなことをぼそっと呟いていた。まぁ、考えたってしょうがないのだけど。それよりも今はこのお祭りを楽しむとしよう。とりあえずベイル達と合流しなくちゃな。あ、その前に家に帰ってフラウを呼んでとセルツ達が帰ってきてるかどうかも一応確認しておいた方がいいか。賑わう通りを歩きながら俺はそうすることに決めて、まず自宅へと向かうことにした。














そんな賑わいをみせる荒崎達のいる街から程遠く離れたとある森の中。黒く大きなフードに身を包み並んで歩く二つの影があった。決して早くはないがその歩みは確実に森を抜け出そうと前に進んでいる。

そんな二つの影の前に突然、進行を妨げるかのように一匹の狼が現れた。明らかな敵意をむき出しにし、鋭い牙を見せつけながら唸り声をあげる。それを見た大きな片方の黒い影がもう片方の小さな黒い影を庇うように前に立つ。そしておもむろに背に手を伸ばすと、そこから二つに折り畳まれていた不気味な光を放つ巨大な銀色の大鎌を取り出した。それを勢いよくはらうように振ると結合部が変形し、柄が長く伸びた本来のあるべき姿へと戻った。

その光景に驚いた狼は一瞬ひるむがそれでもなおここを通すまいと威嚇をやめようとはしなかった。


「これでも逃げないか。ならば仕方ない」


それを見て武器を構えた影はそう呟き、手に持つ大鎌を振り上げようとした。


「待ってお兄ちゃん!」


しかしその瞬間、後ろに隠れるようにして立っていた小さな黒い影がそう制止の声をかけた。その声に従うように振り上げた鎌を止め、首だけをそちらに振り向かせる。


「私に任せて」


そう言って小さい影は威嚇を続ける狼に向かって近づいていく。それに対しよりいっそう警戒を強める狼だったが、それを気にせずに影はすぐ手が届く場所まで距離を詰めた。そして狼に向かい手を伸ばす。


「ごめんね」


そう一言短く呟いた瞬間、狼の体に異変が起き始める。まるで吸い取られるかのようにみるみる生気が失われていき、体中から血管の管がくっきりと浮かび上がる。狼は何もすることができずに体を硬直させ口からはとめどなくよだれが垂れ落ちる。


「ララ、もういいだろう」


それを後ろで見ていたもう片方の影はかざしている腕を掴みその行為をやめさせた。すると狼は解放されたように動きを取り戻し、えづきながらもなんとか呼吸をしようと不可思議な声を漏らしていた。なんとか息ができるようになると先程とは一変して大慌てでその場から逃げ出していく狼。それを確認し、掴んだ腕を放すと大きな影は取り出していた鎌を再び折りたたみ、背中へと背負い直した。


「なんであんなことしたんだ?」


少し強い口調で大きな影は小さな影にそう質問した。


「だってあのままだとあの子を殺しちゃうかと思ったから……」


そう弱々しい声で返した小さい影に対して、大きな影はやれやれと首を横に振った。


「だとしても今後はああいうことは控えるんだ。誰かに見られていたらどうなるか分からないんだからな」


「……うん。ごめんなさい」


「分かってくれればいいんだ。さぁ、行こう」


そう言って再び歩みを進める二人。その向かう方角の遥か先には……モートリアムの街の姿があった。



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