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結構歴史の古いものなんだな

お願いします。

ファリアからの聞きなれない言葉に困惑している俺を見て、彼女は何かを思い出したようにハッとなっていた。


「そういえば荒崎さんはこの国のことをまだよく知らないのでしたよね。私としたことが失念しておりました」


そう言ってファリアは頭を下げた。なんだろう、そういえばさっきもベイルにこんなようなことを言われたような気がする。そん時も明後日がどうとかって言ってたし、もしかしてベイルが言ってたのってこのことだったのか?


「いやそんな謝らなくてもいいけど、それって一体なんなんだ?」


とりあえず分からないと話が進まないので俺はファリアに説明をお願いした。


「えっとですね、‘ステビアセスルファム’というのは簡単に言ってしまえば我が国のいわゆるお祭りのようなものなんです。そしてその日は遥か昔に行われていた他国同士との長きに渡る争いが終結し、戦地に赴いていた我が国の兵士達が帰国を果たした記念日でもあるんです。私達は自国のために命をかけ戦い抜いた彼らをたたえると共に、戦場で散っていった尊い命へと祈りを捧げるためその日を‘ステビアセスルファム’と名づけ毎年開催しているのです」


「へぇ~、じゃあ結構歴史の古いものなんだな」


お祭りというからもっとドンチャン騒いで街中がみんな今日は無礼講状態にでもなるのかと思っていたが、ちゃんと意味のある日なんだな。なるほど、よく分かった。よく分かったのだが……その日と俺には何の関係があるのだろうか? 正直繋がりが全くわからないんだが。 


「でもさ、そのことで俺に聞いておきたいことっていったいなんなんだ?」


俺がそう聞くと何故かファリアは顔を赤くして動揺しているようだった。え? なんかまずいこと言いましたか俺? 


「そ、それがですね実はその日にはもう一つ外せない催しというか……があるんです。これはいつからか始まり広まったものなんですが、その日は女性が男性の方にある贈り物をするということになっているんです」


相変わらず顔が赤いファリアはそう説明してくれた。そのことも気になるがそれよりも俺は別のことが気になっていた。ファリアの言っていたある贈り物っていったいなんだろう。


「その贈り物っていうのは?」


「それはですね……」


そう言いかけて彼女は突然、一ついい音のする拍手をした。すると部屋の中にいつから待機していたのか四人のメイドが素早く入り込んでくる。すげぇ、なんか今のかっこいいな! 俺も一度そうやって誰かを呼ぶの憧れたりしたんだよな。まぁそんなことやってくれる相手いないだろうけどね。


そんなメイドからファリアは何かを受け取ると俺の前にそれを広げて見せてくれた。その手に持たれていたものそれは……


「これです。荒崎さん」


「それって……」


彼女が見せてくれたのは長さが全て均等に切られている正方形の白い布だった。よく見てみれば隅の方に網目のような模様がはいっているのが分かる。うっすら透けてるってことはレースみたいな生地でできているみたいだな。


「これはこの国では有名な話なんですが、当時のモートリアムは兵力の不足に伴い国民からも徴兵をしていたんです。その中にお互い婚約を誓い合った仲の男女がいたのですが、そんな彼にも戦地へ呼び出しの命が下されてしまったんです。そして彼が出兵する時、彼女は彼にこれと同じような白い‘ハンカチ’を渡したんです。それを見て自分のことを思い出してくれるようにと。それから彼は無事にこの国へと帰国を果たすのですがその際、怪我をした右腕にこの白いハンカチを巻きつけ彼女の元へ戻りこう言ったそうです。‘あなたがこのハンカチを私に渡してくれていなかったらこの傷口を抑えることができずに私は死んでいたかもしれない。あなたのおかげで私はここに戻ってこられた’と」


ファリアは目を輝かせ、やけに楽しそうにそう語り始めた。これはあれだな。多分なにかのスイッチ入っちゃったなこれ。俺が黙って聞いてたらずっと喋ってんじゃないか。


「な、なるほど。それでそのハンカチを贈るというわけだな」


「はい! ですから女性の皆さんはその日のために好意や想いを寄せる男性のために白いハンカチと手作りのお菓子などを用意するんです!」


ふーん……つまりあれか。日本でいうバレンタインみたいなものか。贈るものや由来は全然違うけど形としては同じようなものだろ。俺はそういったものには今まで全くと言っていいほど縁がなかったからあまり興味はなかったんだけど……ファリアがそれを俺に話してくれたということは、ひょっとしたらひょっとするのか?


「もしかして俺に聞きたいことってそのことでだったのか?」


「あ、い、いえその! ……私いつも荒崎さんにはお世話になってますし、あれからこれといったお礼もきちんとしていなかったのでこれを機にちゃんとちゃんと伝えておこうと思いまして」


「あ、あぁそういう感じか……」


なんだ、ファリアは俺に好意を寄せてくれてるのかとちょっと期待しちゃったけどそう上手くはいかないよな。まぁなんとなく分かってはいたからダメージは少ないけどさ。


「それで荒崎さんはどんな柄のものが好みなのかとずっと考えていたんですが……その、私それからちょっとおかしいんです」


そう言ってファリアは急に顔を伏せた。どうしてかちょっと声も震え気味というか、なんだかおかしい。


「好みのことを考えているはずなのにいつの間にか荒崎さんのことを考えてしまって、すると何でか心臓の鼓動が早くなっていくんです。そうなるといつも体中が熱くなって、考え事が全く出来なくなってしまって……私こんなこと初めてでどうしたらいいか分からなくて、それでこのままじゃいつまで経っても決まらないと思い直接荒崎さんのご意見を聞くしかないと思ったんです!」


「そ、そうなんだ……」


うええええええええ!! そこで俺に聞いちゃうの!! っていうか今のファリアの言い方なんだか色々意味深じゃありませんでした!? まさかの不意打ちに別の意味でダメージをくらってしまった。おいおいおいおい勘弁してくれよ。そんなこと言われたらこっちだって変に意識しそうになっちまうだろ。やべ、体中から変な汗出てきた。だって女性にそんなこと言われたことないし、何より相手もそうなのかの自覚がないみたいだから下手なことは言ったらまずいだろうし。


いや、落ち着け。落ち着くんだ俺。これがまた俺だけの勘違いだったら変な恥をかくのは俺の方なんだぞ。そんな経験なんどもしてきたじゃないか。


「あ、荒崎さん? なんだかご様子がおかしいようですが大丈夫ですか?」


「うえっ! な、何が!? おかしいことなんてなにもないぞ!」


うわあああああ! どうしよう。思いっきり態度に出ちゃってるじゃねぇか俺えええええええ!! 


「そうですか? で、では長くなってしまいましたがこちらに色々な柄のものをご用意させていただきましたので、お好きなものを選んでいただいてよろしいですか?」


ファリアがそう言うと横にいたメイド達が両手に様々なハンカチを抱えて俺に差し出してきた。けどこの状態で選べと言われましても俺も頭の中が熱暴走しそうで、まともなのが選べるかどうか分からないんですが!


「え、えっと……」


どうしよう、どうしよう俺! そう必死に考えるも答えはなかなか出てこない。そしてついに俺の頭は自身で処理できる許容限界を超え、自動的に休止モードへ切り替わり冷却されて落ち着きを取り戻した。そうだよ、無理に選ぶ必要なんか無いじゃねぇか。そして俺が導いた答えはこうだった。


「俺はファリアが選んだものならなんでも嬉しいと思うぞ。だから……ファリアにちゃんと決めて欲しい」


ザッツ・丸投げ!! はい、俺が導いたのは答えではなく只の思考放棄でしたとさ。めでたしめでたし。

 

俺の返事にファリアは目を丸くしていたが、そりゃそうだろうな。選んでくれと言ったのに自分でやってと言われたのだから駄目だコイツとでも思われたかもしれない。俺に足りないものがまた一つ。それは決断力でした。


「わ、私が決めてもよろしいんですか?」


「あぁ、頼むよ」


半ばなげやりになりながら俺は彼女にそう言った。せっかくの気遣いも全部無駄にしちまった。でもここまで来たらもう自分の意見は変えない。決断力を養うための第一歩を俺はここで踏み出すよ!


そんな返事に彼女は前で組んでいた両手をギュッと強く握り締めた。


「分かりました。私、荒崎さんのために精一杯頑張りたいと思います!」


なんだ、ファリアが突然やる気を出し始めたぞ。彼女もやけになったのか? とりあえず怒ってはいないみたいだが。そう思っているといきなり俺は彼女に両手をガシっと握られた。


「荒崎さん、ありがとうございました! 私やってみます!」


「お、おう。頑張ってください」


そして彼女はメイドの一人に俺を玄関まで連れて行くように指示をするとそのままこちらに挨拶をしてどこかに行ってしまった。指示をされたメイド以外もそのままファリアについて行ってしまった。部屋にはそんな後ろ姿をポカーンと眺めている俺とメイドさんだけが残されていた。


「いったいなんだったんだ……」













その後、他の部屋にいたフラウと合流し俺達は城の外へと出ていた。フラウは明らかにおかしな様子の俺を見て首を傾げ心配していたが、大丈夫と伝えるとそれ以上は何も聞いてこなかった。せっかく街中に戻れたのだからまた散策でもすればよかったかもしれないが、今はそんな気分じゃない。とりあえず一息つくために一度家に戻りたい。俺は脇目も振らずに家路を一直線に進んでいった。


しばらくして、家に到着するとタイミングよくセルツたちも帰ってきたようだった。ピィタは俺を見るなり胸にダイビングしてきたが、俺も慣れてきたのか上手くそれをキャッチし頭を軽く撫でてやった。


「二人共おかえり。狩りはどうだったんだ?」


「あぁ、やはり前回とは違って森は平常になっているようだ。ピィタも今日は獲物を一匹仕留めることができてな、なんとか食事にはありつけて一安心だ」


「そうなんですか。すごいですねピィタちゃん!」


「ぴぃいいいい!!」


どうだ! と言わんばかりの鼻息をたて羽を羽ばたかせるピィタ。そうか、コイツもいよいよ捕食者としての一歩を踏み出したわけか。……あんまり想像はしないでおこう。恐怖映像にしかならない気がするから。


「そうか、よく頑張ったな」


俺はお疲れ様という想いを込めて背中をゆっくりと撫でてやった。すると、俺のその手のひらに何やら妙な感触が残っていることに気がついた。ん? なんだこのザラザラとしたものは。俺は一度手を離し自分の手のひらを見る。するとそこには綺麗な紅色をした鱗のようなものがたくさんへばりついていたのだ。って鱗? 俺はハッとピィタの背中を見る。するとそこには鱗が剥がれ落ちピンク色の薄皮のようなものが剥き出しになっているボロボロなピィタの背中が広がっていた。


「ピ、ピィタ……これ」


「ぴぃいいいいいぃ?」


俺の驚きをよそにピィタはそう呑気な声をあげていた。

な、なんだ……この込み上げてくる吐き気。ハッ!! これはまさか……いや間違いない。この感覚これはまさに、かの有名な……ラブコメシュu


「ぴぃいいいいい!!」


「…………」


ピィタが皆さんに褒めて欲しいそうです。

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