まるでおとぎ話みたいです!
今回は少し長め+若干シリアス? っぽいです。
さてと、とりあえず家に到着したはいいが……そんなにまったりもしてられないな。さっさとやることやっとかないと。俺は頭の中で色々考えながら玄関の扉を開け中に入った。
「ただいまー」
「あ、おかえりなさい。お早いお帰りでしたね」
「あぁ……ってなんで二人共そんなとこにいるんだ?」
何故かフラウとセルツが玄関で待機していた。部屋でくつろいでいればいいのに、もしかしてずっとここにいたんだろうか?
「いや、ピィタの奴を寝かしておいた後することがなくなってしまったのでどうせなら主が帰ってくるのをここで待っていようと思ってな」
「思ってなって……それはありがたいんだけどさ、二人共疲れてないのか?」
「私は全然平気だぞ」
「私もこの体のおかげなのかあまり疲れを感じていないんですよね」
わーお、マジですか。セルツはともかくフラウまで大丈夫とは。なんだか疲れた疲れたばっかり言ってる自分が情けなくなってきた。今度からはあまり態度に出さないようにしておこう。
「そ、そうか。まぁ、いいや。とりあえず二人に話したいことがあるから部屋の中に入ろう」
「「話したいこと?」」
そう言って俺は二人を引き連れリビングへと入った。あぁ、いつもの部屋だ。やっぱり俺は王宮の広すぎる部屋よりも、適度な広さのここの方が落ち着くな。ふぅ……と一つため息を吐き椅子に腰をかける。それだけでも充分リラックスできた気がした。
「で、主よ私達に話したい事とは一体なんなんだ?」
「ん? あぁ、えと実はこれからベイルとベイルの妹さんが家にやってくることになったんだが、その妹さんは病み上がりというかまだあまり刺激を与えちゃいけない体なんだ。だから彼女を驚かせないように二人にはカモフラージュをして欲しいんだよね」
「カ、カモフラージュですか」
「? なんなんだそれは? 食べ物かなにかか?」
どうやらセルツは言葉の意味がわからないらしく、首を傾げていた。まぁ、ドラゴンはそんな言葉とは無縁だろうし、しょうがないとは思うが何故そこで食べ物という発想がでてきたのかは分からない。とりあえず食えるのか食えないのかで彼女は判断でもしているんだろうか。
「いや、食べ物じゃなくてな……まぁ、分かりやすく言うと二人の正体を隠してほしいってことだ。家に来ていきなりドラゴンやら喋れる動物やらがいたらびっくりしちゃうだろ?」
「しかし、ベイルとやらがこの家に来た時はそんなことしなかったではないか」
「あ、いや……ほらあの時は色々急いでたし、緊急事態だったからしょうがなかったんだよ」
「そうなのか?」
実際あの時ベイルも相当困惑してたし、いくらカルラちゃんの方が落ち着いているとしても流石に驚いてしまうだろう。
「でも、ご主人様。そのベイルさんの妹の方にベイルさんが私達のことを伝えている可能性はないのですか? ここに来るというのであれば多少説明をされているのではないでしょうか?」
そうフラウに言われ俺は固まった。…………た、確かに。言われてみればそうかもしれない。ここに来るということは必然的にフラウ達と出会うわけで、その情報を話している可能性は極めて高いだろう。というか恐らくだけどカルラちゃんの方から俺の家のことについて色々聞いているかもしれない。あの子はしっかりしていそうだから、自分が向かう場所のことくらいしっかり把握してきそうな気がする。だとすると俺の今までの心配は全部無駄ということになる。いや、その前になんでそういう考えを持たなかったのかという話なんだが……。
「うん、まぁそうだな。でも一応念の為にそういう準備も必要だということを俺は言いたかったわけなのだよ。お分かりかね、フラウくん?」
「は、はぁ……」
動揺してキャラがおかしくなっているが今は気にしない。準備はしておくにこしたことはないのだし、それならそれで余計な手間が省けるとプラスに考えておこう。
という訳で、俺はカルラちゃんが来た時のそれぞれの対応を簡単に考えながら二人のことを待つことにした。
それからしばらくしてリビングに扉を叩く音が聞こえてきた。俺はそれを確認すると急いで玄関へと向かう。
「はーい。どちら様ですか?」
「荒崎、私だ。ベイルとカルラだ」
分かってはいたが念のためそう聞くと扉の向こうからそう返事が帰ってきた。それを聞いて安心した俺はゆっくりと玄関を開けるとそこには、先ほど会ったばかりの二人が手に大きな籠のようなものを持って立っていた。
「いらっしゃい、待ってたよ」
「すまない、少し待たせたな。今日は市場で安く食材が手に入ったから何を作ろうかと改めて悩んでしまって」
「姉さんは優柔不断なのよ。ちゃんと決めておいたのに行く直前になって迷うんだから」
カルラちゃんにそう言われうなだれるベイル。俺としてはこっちのために色々考えてくれてるのだから文句は一つもないのだが。むしろ少し申し訳ない気分になる。
「まぁまぁ、ベイルも俺達のために悩んでくれたんだからそんなに言わないであげて。ベイルもごめんな。なんか気を使わせちゃって」
「へ? い、いや……べつにいいんだ。私がその……勝手に張り切っただけだし」
ゴニョゴニョと小さな声でベイルは何か言っていた。なんで突然そんなに小声になったのかは分からないがとりあえずこんなところで立ち話もなんだと、俺は二人に中に入ってもらうことにした。玄関から廊下へと二人があがった時、俺はベイルの肩を叩き一つだけ確認をしておくことにした。
「なぁベイル。聞いておきたいんだが、カルラちゃんにフラウ達のことは話してるのか?」
「フラウちゃん達のこと? あぁ、カルラが荒崎の家のことを色々知りたがってたから一通りは話しているぞ。一応フラウちゃんが話せることやドラゴンがいることは他の人には話すなと言ってあるが。もしかしてなにかまずかったか?」
やっぱり話してたか。フラウの予想は見事に的中していたようだ。じゃあさっきの時間は全部無駄だったということか。まぁ、来ると言われた時に確認し忘れていた俺が悪いな。
「いや、そうならいいんだ。もしまだ知らなかったら今は隠しておいたほうがいいかなって思ってただけだから」
「そうなのか? まぁカルラの場合、多分そこまで驚かないと思うがな」
ベイルはさらっとそう言った。それが本当ならカルラちゃんって結構肝が据わっているような気がするんだが。
そんなこと思いつつ俺は二人をリビングへと案内した。ペコリと頭を下げて中に入るカルラちゃん。キョロキョロと部屋の中を一瞥すると、‘ここが荒崎さんの家……’とぼそっと呟いた。他人の家に来るどころか外に出るのもかなり久しぶりであろうカルラちゃんはそのせいかそわそわと落ち着かない様子だ。そんな反応にいつものしっかりとした態度とは違い、年相応の女の子らしさを感じて妙な微笑ましさが込み上げてきた。
「それじゃあ荒崎、早速だが私は台所を借りるぞ」
そう言ってベイルは持っていた籠をテーブルの上に置くと、そのまま調理の準備を始めた。俺は気になってその籠の中を覗いてみるとそこには肉や野菜。魚に何かの実のようなものなど様々な材料が詰め込まれていた。これだけあれば何品もの料理ができそうだ。自然とそう期待が膨らむ。
「あ、あの荒崎さん。他の皆さんはどちらにいらっしゃるのでしょうか?」
キラキラした目で具材を眺めていた俺に椅子に座っているカルラちゃんがそう訪ねてきた。そうだ、こんなことをしている場合ではなかった。まずカルラちゃんに家の面子を紹介しなければ。
「あぁ、ごめんね。今呼んでくるからちょっと待ってて」
俺はそう言って一度別室に待機しておいてもらった皆を呼びに行く。相変わらずピィタは眠っているのでとりあえずフラウとセルツだけ来てもらうことにしておいた。その時にどうやら全部バレているようなのでいつも通りで大丈夫だと言ったら二人共少し安心した顔をしていた。そんな二人を連れてリビングへと入る。
「お待たせカルラちゃん」
そう声をかけると彼女は何故か緊張した面持ちで椅子から勢いよく立ち上がった。そんなにかしこまる必要もないのに。そう思ったがとりあえずまずは各々に自己紹介をしてもらうことにした。
「じゃあまずはフラウから挨拶してあげて」
「はい。私はフラウと申します。こんな姿をしていますが一応言葉を話すことも聞くこともできます。今は色々ありましてこの家でお世話になっております。こんな私ですがこれからよろしくお願い致します」
フラウがそう言い終えるとカルラちゃんはキラキラと目を輝かせて興奮しているようだった。フラウが普通に喋っているその様子になにやら感激しているようにも見える。
「ど、動物が喋ってる……。すごい、すごいです! まるでおとぎ話みたいです!」
おとぎ話という表現がでてくるあたりカルラちゃんはそういうメルヘンチックなことが意外と好きなのかもしれない。
「あはは、じゃあ次にセルツ」
「あぁ、私の名はセルツと言う。既に知っているらしいが私はこう見えて気高きドラゴンの一族だ。主には仲間を救ってもらった恩があり、頼み込んでここに住み着かせてもらっている。お主も主の知人ということであれば、これからなにかと縁があるかもしれない。その時はよろしく頼む」
セルツがそう自己紹介を終えるとカルラちゃんはじーっと彼女のことを見つめていた。普通に考えればとんでもない事を言っている訳だからそうなるのもしょうがないかもしれないが。
「ド、ドラゴン……このお姉さんが……」
ベイルから聞いてはいても実際に見てみるとやはり信じがたいのか、カルラちゃんはそう呟いていた。やはり分かっていても衝撃はすごいんだな。
その後、二人をテーブルにつかせカルラちゃんからも自己紹介をしてもらったあと、ベイルの料理が出来上がるまでまったりと過ごしていた。その間も部屋の中にはいい匂いが漂い始め、空腹感が刺激されていく。そしてしばらくして、次第に出来上がった料理を順番に皿に盛り付け始めテーブルの上に並べ始めていく。
「おぉ!! すげぇええ!!」
湯気のたっている出来たての料理の数々は見ているだけでもテンションが上がってくる。肉汁が溢れんばかりに滴るステーキや、金色に透き通る少しとろみのあるスープの中に色鮮やかな野菜とぶつ切りにされた白身の魚の入った料理。ふわふわしたまるで豆腐のような色の生地に魚や肉を挟み込み、こんがりと焼き目が付けられた見た目の面白い料理まである。他にもサラダに魚介類をふんだんに使ったパエリアのようなものまである。そのどれもがそれぞれ魅力を備えていて、口の中から唾液が溢れ出しそうになるほどだった。
本当にベイルの調理の腕は凄まじいな。前から思っていたが彼女の料理の腕は人並みを超えているのではないだろうか。それともこれくらいがこの国の一般的な料理スキルなのだろうか。
「よし、それじゃあ皆。冷めないうちに食べてくれ」
そう言ってベイルは出来た料理を全てテーブルの上に並べ終えると軽く手を洗い席に着いた。それを合図に俺は用意したフォークとナイフを持ちそれぞれの料理に手をつけ始める。小皿の上に取り分けた料理を次々並べていくが、その様はちょっとしたバイキングのような感じだ。そして一通りよそい終えると片っ端から食らいついていった。
「そんなに慌てなくてもまだまだあるから大丈夫だぞ」
そんな俺の様子を見てベイルは苦笑いしていた。それだけ俺の姿が滑稽だったのだろう。
「いい食べっぷりだな主よ」
「ご主人様、よく噛まないと喉につっかえますよ?」
「ん? あぁ、わふぁふぇる!」
そうは言ったものの料理を運ぶ手は止まらない。美味いものには食が進む。まさに必然的な摂理だ。口の中に広がる味を楽しみつつ胃の中にどんどん流し込んでいく。徐々に満たされていく感覚がなんともいえない安心感を俺に与えてくれた。
そして早々によそっていた料理を全て食べ終えた俺はふと視線を感じて一度手を止めた。その方向を見てみればカルラちゃんが料理を食べつつチラチラとこちらを見ていたのだ。
「どうしたのカルラちゃん? 俺の顔になんかついてる?」
「い、いえ。そうではないんですが……」
なにやらそわそわしている彼女を見て俺は首をかしげた。どうしたのだろうかと考えたとき、俺はふと先程のことを思い出した。テンションが上がりすぎて一瞬忘れかけていたが、そういえばカルラちゃんは俺に話したいことがあるといっていたのだ。もしかしたらそのことについて俺に話しかけるタイミングを伺っていたのかもしれない。
「もしかして、さっき言ってた‘夢’の話のことかな?」
そう聞くと彼女はこくりと頷いた。それを見た俺は持っていた食器を一度テーブルの上に置き、コップに入った水を一口飲み干す。そして、気持ちを落ち着け改めて彼女の話を聞く姿勢を整えた。
「夢の話? 一体何のことだカルラ」
「え? ベイルは聞いてるんじゃないのかよ?」
てっきりそうだと思っていた俺は思わずそう聞いてしまった。しかしベイルは‘いや初耳だ’と首を横に振っていた。ということはカルラちゃんは治ってから今まで誰にも喋ってなかったということか。
「本当はすぐに姉さんにも話そうとは思っていたんだけど、せっかくなら荒崎さんにも一緒に聞いて貰おうと思ったの。この話を聞いてもらった意見はたくさんあったほうがいいと思ったから」
どうやらカルラちゃんはなるべく多くの人に自分の話を聞いて欲しかったらしい。それだけ彼女にとっては重要なものということだろうか。
「意見か……俺にちゃんとできるかどうかは分からないけど、とりあえず話してみてくれないかな」
俺がそう言うと彼女はゆっくりと目を閉じまるで思い出すかのようにゆっくりと喋り始めた。
「実は私、自分の体があんなふうになってから眠る時に‘同じ夢’を頻繁に見るようになっていたんです。と言ってもその夢を見始めたのは体が動かせなくなってからだいぶ経ってからなんですけど。意識が暗闇の中に落ちるたびに私、誰かに声をかけられるんです。すると目の前に何かもやのかかったような人のような姿がぼんやり浮かび上がってきて、その度に私に向かってこう言うんです。‘ごめんなさい、ごめんなさい’って。私は何も言い返せずにただひたすらそれを聞いていることしかできないんですが、何故か私その声に聞き覚えがあるような気がするんです。でも覚えがあるだけで全くそれが誰だったのかは思い出せないんですが」
そう彼女が語った夢の内容は決して楽しいものではなくむしろ奇妙というか不思議なものだった。まぁ、夢自体そういうものであるのだから別段おかしい訳ではないのかもしれないが。
しかし、内容も然ることながら気になるところはたくさんある。まず同じ夢を頻繁に見るというところだ。夢というのは狙って同じものを見ることなんて普通ならほぼ無理だろう。しかもその内容全てが同じだなんて最早奇跡に近いかもしれない。そもそも夢っていうのはどこかで聞いた話だが、その直前やその日のうちに最も印象深かった事柄や出来事、意識していたことが現れやすいんじゃなかったか?
まぁ仮にそうだったとして、何度もその夢を彼女が見るということはその謎の人影とやらと彼女があぁなってしまう前に何らかの接点的なものがあったかもしれないという考えはあり得るだろう。ただそこまで印象深かった人物がはっきりと見えていないことや、声を聞いても聞き覚えがあるだけというのは少し妙な気がするけど。
そんでもって内容についてもかなりおかしなところがある。その人影がカルラちゃんに向かって謝り続けるというのは一体どういうことだ? 謝るということは少なくとも何か彼女に対して罪悪感を感じているということだろう。しかも一度ではなく何度も謝るとなると相当なものだ。となると普通に考えればその人影は彼女に対して何らかの謝らなければならないようなことをした。もしくはしてしまったと考えるのが妥当だろう。
では一体どんなことをそいつはしてしまったのか。それを考えるには俺からもいくつかカルラちゃんに質問をしなければならない。
「あのさカルラちゃん。聞いてもいいかな。カルラちゃんはその夢を見るようになる前、もしくは自分の体があんな風になる前に誰かと会ったりした覚えはある?」
「えーと……それが私、あぁなる前の記憶というか自分がどうしてあぁなったのかを覚えていないんですよね」
「覚えてない?」
カルラちゃんからの回答を聞いて俺は眉間に皺を寄せた。あんなことになっていたのに自分がどうしてそうなったのか分からない? そんなことあるのか?
「そういえば荒崎には詳しく話していなかったが、実はカルラの体があぁなる前に私はこの子に森で薬草を集めてくるようにお願いしていたんだ。そしてその時、いつまで経っても帰ってこないカルラを私は探しに森に入った。しばらく探した後、私は草むらの上で倒れているカルラを見つけ、急いで医者へと連れて行ったんだ。その時にはもうカルラの体の石化は始まっていた」
俺が考え込んでいると、ベイルはカルラちゃんの体に異常が現れ始める前のことを話してくれた。どうやらそんな一連の経緯があったようだ。それを聞いた俺は一つある予想を思い浮かべた。
夢の中の人物。繰り返される謝罪。抜け落ちた記憶。森の中で倒れていた彼女。全部を組み立ててみた俺の考えはこうだった。
「あのさ、あくまで一つの考えとして聞いて欲しいんだけど。カルラちゃんが森で薬草摘みをしていてその時、その夢の中に出てくる人影の人物とたまたま出会ってたとするよね。仮にだけどカルラちゃんとその人との間でなんらかのやりとりがあって、その時にその人物にカルラちゃんはあんな風にされてしまう何かをされた。そしてその後、ベイルが森に入りカルラちゃんを見つけた。なんていう風な考えがあるんだけどどうかな」
そう俺の憶測を話してみると二人は顔を見合わせて考え込んでいた。これは今俺がさっと考えてみたものだがありえなくはない話だとは思う。直前の記憶がないということは森の中で何かがあったのは必然的だろう。そして夢の中にいつも出てくる人物。そこまでして印象に残っているということは彼女の意識に残るようなことをしたと考えてもおかしくはない。
「あの森で……誰かと会った……」
「しかし荒崎。もしそうだったとして何故そいつはカルラにあんなことをしたんだろうか?」
そんなベイルの疑問に対しても俺には一つの考えがあった。
「これも俺の考えだが、謝ってくるということはそいつはその時そうせざるを得ない状況にあったのかもしくは、不可抗力でそうなってしまったんじゃないかと思うんだ」
自ら進んであんなことをしたのならば謝罪なんてするわけがないだろう。だとするとその辺の考えが妥当な気がする。
「そうせざるを得ないねぇ……。もし、本当にそうだったとしても私は許せないけどな。何の罪もない妹をあんな風にされたのだから」
「まぁ、全部俺の想像の話だけどな」
そうこれは全部そうだったらの話だ。もしかしたらその夢の人物とカルラちゃんの体のことは全く関係ないのかもしれないし、考え難いがカルラちゃんの夢も只の偶然の産物かもしれない。
「そもそもそうだったとして人体をあんな風に変えることなんてできるのだろうか?」
「いや、それはほら。なにか魔法的なものとかさ」
「上級の魔術師に頼んでも解除できない魔法なんて相当なものだぞ。そんなものを使える奴があんな森の中にいたとは思えないんだがな」
ベイルにそう言われ俺はもう一度考え込む。そうだとしたらあの考えは外れている可能性が高いかもしれないな。結構いい感じだと思ったんだけどな。そう思った時だった。
「一つ意見を出してもよいか?」
不意にセルツがそう切り出したのだ。今の話を聞いて彼女はなにか言いたいことがあるらしい。
「昔、知り合った者に聞いたことがあるのだ。お主たち人間と呼ばれるものの中には強大な災厄の力。所謂‘呪い’というものを背負い生まれ落ちるものが時折おるとな」
「「「「呪い?」」」」
なんとも不吉なワードに一瞬空気が凍りつく。しかしセルツはそれを気にせずに再び話を始めた。
「あぁ、何でも希にそのような現象が起きるらしくてな。それを背負いし者はその場にいるだけで土地を穢し、人を不幸へと導くという。そのため一つの場所に定住するということができずに世界中をさまよい歩いているそうだ。その話をしていた者によればそ奴らと関わりや接触を行おうとすると何かしらの災厄に見舞われるらしい」
「災厄……」
どうにも恐ろしい存在がこの世界にはいるようだ。しかも厄介なことにそれは俺達と同じ人間であるらしい。さまよい歩いているということはこの場所にもいつか来るかもしれないということか。
「もしやその娘がその呪いとやらに罹った人間と接触をしてしまっているのならば、そのようなことになってもおかしくはないと思うが」
セルツのその考えに部屋が静まり返る。もし本当にそうだったとしたら、彼女はただ運悪くその人物に出会ってしまったということになる。‘呪い’。その未知の力の前に彼女はさらされてしまった。抵抗する間もなくたった一人で……。
「…………」
カルラちゃんは俯き加減で黙っていた。今の話を聞いて色々と考えてしまっているのだろう。そんな彼女の様子を見て俺はこの話はとりあえずもうやめておこうと思った。これ以上彼女に余計なことは考えさせない方がいいだろう。
「あのさ、今日はせっかく皆で集まったんだしこれ以上この話をするのは止めておかないか? ベイルが作ってくれた料理もまだあるしさ」
「そ、そうだな。まだたくさんあるしどんどん食べてしまわないと冷め切ってしまうからな」
「そうですね! 食べましょう、食べましょう!」
俺達は沈んだ空気を再び明るくするべく勢いよく料理に飛びついた。ほんの少し冷めてしまっていても味は落ちるわけではなく、先程と同じペースで俺は料理を口に運んでいった。
「カルラちゃんもどんどん食べな! ほら!」
「あ、ありがとうございます」
空いた皿に料理をよそい彼女に差し出す。やはり先程よりも元気はなくなっていたが、それでもなんとか俺達のペースに合わせようとカルラちゃんは料理を口に運んでいた。
しばらくして、全ての料理を食べ終えた後、食器類も全て綺麗に洗い終えたベイル達は持ってきた籠を抱えて自宅へと帰ろうとしていた。それを見送るため俺も玄関までついていく。
「今日はありがとな。おかげで腹いっぱいになったし美味いもの食えて最高だったよ」
「いや、いいんだよ。たまにはたくさん料理を作るのも悪くないからな。それにこっちもカルラの話を聞いてもらったんだしおあいこ様だ」
そう言われてカルラちゃんを見るがやはり少し元気がない。俺はそんな彼女の視線に合わせるようにしてしゃがみこむと、ポンポンと頭に軽く手を置いた。
「カルラちゃん、大丈夫だよ。これからは何かあっても皆がいるからさ。元気出して。な?」
「荒崎さん……はい」
俺がそう言うと彼女は笑顔でゆっくり一つ頷いてくれた。よかった、これでもし手を振り払われでもしたらどうしようかと思った。そうなったら今日の俺の枕はビシャビシャに濡れることになるだろう。
「よし、それじゃあそろそろ行くか。荒崎、また明日な」
「荒崎さん、お邪魔しましたです」
「おう、また明日な」
俺はそう言って外に出た彼女達を姿が見えなくなるまでの間見送り、ゆっくりと家の中へと戻っていった。
その後、さっと風呂に入りべたついた体をスッキリさせ、疲れはてた体をそのままベッドに預けると俺の意識は驚くべき速さで安らかな眠りの中へと飲み込まれていったのだった。
次回予告
久しぶりに街に出る荒崎。するとなにやら街の中がそわそわした空気に包まれていることに気がつく。何事かと思っているとイホームからファリアが呼んでいるから城に来てくれと呼び出され……




