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俺の無駄な信念が勝利を導いたんです

今回でピレアムアとはお別れします。お願いします。

ピレアムアに襲い来る脅威が去り事態が落ち着いたその後、地下通路に避難していた妖精達が街に返されることになった。俺達はそれを遠目に眺めていたのだが、あきらかに皆先程までとは違う街の様子に動揺を隠せていない。

まぁそれが正しい反応だよな。ここまで劇的に自分の住んでいる場所の風景が変わればそうなるのも当然だ。だがしかし、その変化はマイナスの方向ではなくプラスの方向に働いている。しばらくして徐々に落ち着きを取り戻した彼らは、そのことに気づき始めたのか所々で歓喜の声が上がり始めていた。


「おぉ、なんか一気に活気が戻ったな」


「そりゃあ全部元通りになったんだからそうでしょ」


全部元通りねぇ……。まぁ、活気はあるに越したことはないからいいんだけど。ただ、なんというか未だに実感がわかないんだよなぁ。


「魔法……か……」












それから俺達は一通り街中の様子を確認した後、再び王宮に戻ってきていた。とりあえず結界は正常に活動しているみたいだし、心配するようなことは今のところなさそうだった。


「さて、これからどうするんだ?」


「一応予定としては今日はここに泊めてもらって、明日の朝出発するって感じかな」


「なるほど、りょうか……」


……ん? 今イホームはなんて言った? ここに泊めてもらって? 


「え? 泊まりなの?」


「あれ? 言ってなかったっけ?」


「全然聞いてませんけど! 俺何も持ってきてないんだけど!」


……いや、とりたててこれを持ってきたかった!! ってものもないんだけどさ。でもそれならそうと言っておいてほしかった。ましてや王宮に泊まるんだぞ。友達の家とか親戚の家とかに泊まるのとは訳が違う。


「大丈夫だよ。今日一日だけだし、明日の朝早くには出発するから。それに、これもいい経験でしょ? なかなかないよ? 他国の王宮に泊まれるなんてこと」


「そりゃそうだけどさ……」


俺自分の家とかでゆっくり寝れる方が好きなタイプだからなぁ。広い旅館とかホテルとかに行くと妙にそわそわしちゃってダメなんだよね。イホームは少なからずそういうの慣れてそうだからいいとして、他の皆はそういうのどうなんだろうか。


「わ、私お城にお泊りしてみるのって夢だったんです!!」


あれ? フラウさんがやけに目をキラキラさせていますが……もしかして意外とテンション上がってる? 尻尾もブンブン揺れてるしなんだかすごく嬉しそうだ。そうか、見た目はこれでも中身は女の子だもんな。やっぱりお城とかそういうワードに反応するあたりが微笑ましくてよろしいと思います。


「私は主が一緒ならどこでもいいぞ」


「ぴぃいい!!」


残りの二人はいつも通りでした。というかいつも通りすぎました。君たちはもう少し自主性というものを持ったほうがよろしいのではないでしょうか? なんでもかんでも自分に合わせられると逆に気を使いそうになるしな。


「ほら、皆もこう言っていることだし。ね?」


「……はぁ~、まぁそうだな。せっかく来たんだしすぐに帰るのはもったいないか」


という訳で、俺達は今日一日この王宮で過ごすことになったのだった。











しばらくして、客室でくつろいでいた俺達にヒナルク国王からお食事のお誘いがあったため食堂へと移動したのだが、そこにはとんでもない量の料理の数々が並べられていた。なにこれ、パーティーでも始まるんですか? 固まっている俺達をニコニコと眺めながら席に着くヒナルク国王。そしてその隣にはリアさんも座っていた。広い大理石でできたテーブルの上に料理は更に並べられ続けているが、座っているのは俺達とヒナルク国王達だけだ。


「さぁ皆様、我々からのささやかなお礼ではございますがどうぞお食べ下さい!」


お食べくださいって……この量を俺達だけで食えっていうのか。いや、どれも美味しそうで食べがいはありそうだが……完食をこの人数で目指すのは色んな意味で試練だと思う。


「そ、それじゃあ……いただきましょうかね」


「そ、そうだな……」


「あ、おかわりもありますので遠慮なく言ってくださいね」


リ、リアさん……そんな笑顔で言われても……なんてこったい。






その後、出された料理を俺とイホーム、そしてフラウと応援に駆けつけてもらった護衛の兵士さん達のおかげでなんとか完食した。えぇ頑張りました。頑張りましたとも!! 料理美味しかったし、なによりだされたものは意地でも食い切る俺の無駄な信念が勝利を導いたんです。でもその代償として激しい腹痛が襲いかかってきたんですけどね。

俺は一刻も早くここから脱出をしたかったためヒナルク国王とリアさんに‘ごちそうさまでした。美味しかったです’と一言挨拶をし、お腹をさすりながら食堂を後にすることにした。


「主、大丈夫か?」


「ぴぃいいい?」


「ご主人様、顔色がなんだか青いですよ」


「ふぅー……ふぅー……」


か、体が重い! 歩くだけでもこんなに辛いなんてことなかなかないぞ。今にも破裂しそうな腹を抱えながら俺は食堂からある程度距離をとると、周りに誰もいないことを確認した。


「よ、よし……うっぷ、誰もいないな」


「? どうしたんですか」


不思議そうな顔でフラウが訪ねてきたが口で答えるよりもとりあえず何をしようとしているのか見せたほうが早いだろう。自分の腹に手を掲げ、いつもの言葉を俺は唱えた。


「レイズ!」


その瞬間、腹部全体が黄色い光に包まれ体内に吸収されていく。そう、俺がここまで無理をして飯を食べたのはこうすればいいんじゃないかという考えがあったからだ。腹痛というのも言ってしまえば身体への異常と言えるはずなので、この力の効果が有効に働くはずだと考えていた。

流石に皆が見ている前でそんなことをしてしまうと、無理して食べていることが丸分かりになってしまうので、それならば全部完食したあと人目のつかないところでこっそり治してしまえばいいという作戦だ。


「ふぃー……楽になった」


どうやら上手くいったようで先程までの腹痛は完全にどこかえと消え去っていた。だが、満腹感がなくなったわけではなくあくまで痛みとなっていた部分だけが取り除かれている。なるほど、これはいい経験になったな。これからもし同じ目に遭ったとしてもこの方法で切り抜けられるぞ。……あるかどうかは分からないけどな。


「なるほど、そういうことか」


セルツは俺の意図が分かったようでクスクスと笑いながら俺の肩をポンポンと叩いた。フラウも今の行動を見てなんとなく察してくれたようで、軽く数回頷いていた。


「ぴぃいいい?」


ピィタは首を傾げていたが、別に説明するほどのことでもないのでスルーしておいた。










再び客室に戻ってきた俺達だが、俺は腹が満たされた満足感と今までの疲れのせいで急激な眠気に襲われていた。

この客室には二、三人が寝れそうなほど大きなベッドが左右に向かい合うようにして四つ並べられている。俺は部屋に入ると一番右手前にある真っ白なシーツと毛布が敷かれているベッドにそのままダイブし、ふかふかの枕に顔をうずめた。


「主よ、もう眠るのか?」


「ん~……今日はちょっと疲れたからな」


「ご主人様、せめてそのローブと口元の布は取ったほうがいいですよ? 後でシワになったら困りますし」


……確かにそうだな。どうせ明日も着るんだろうし、それはちょっとまずいかもな。ゆっくりと体を起こして素早くローブと口元の布を取り、近くにあった椅子の背もたれに簡単にかけておく。


よし、これでいいな。俺は再びベッドの上に体を投げ出し、今度は仰向けに寝転がった。本当は柔らかすぎる枕ってあまり好きじゃないんだけど、今はそんなこと気にならないくらい眠いせいもあって目を瞑るとすぐに意識を持っていかれそうになった。


「ぴぃいいいい!」


ピィタが腹の上に乗っかってきたが最早それも気にならない。あ、駄目だ。皆、おやすみ……。そう頭の中で告げると俺の意識は完全にブラックアウトしてしまった。














そして翌朝、俺が目を覚ますとそこにはとんでもない光景が広がっていた。まず左腕に柔らかい感触。見てみればセルツが抱きついて眠っていた。そして更に右腕にはなにかモフモフとした感触。そこには何故かフラウが静かな寝息をたてて眠っていた。最後にピィタだが……お前はなぜいつも頭の上にしがみついているんだ。


「…………」


広いとはいえなんで皆一緒のベッドで寝てんだよ!! ってかフラウまでどうしたんだ! 


「あ、お兄ちゃんおはよう」


俺が混乱してるとイホームが部屋に入っきて何くわぬ顔でそう挨拶してきた。この状況で俺はどんな顔で挨拶し返せばいいんだよ。


「お、おはようイホーム」


「んふふ、お兄ちゃん皆にモテモテだね」


「モテモテって……そういうのじゃないだろこれは」


「あはははは、まぁいいじゃない。それよりももう少ししたら出発するからね。皆のこと起こしといてあげてね」


「え? あぁ、分かった」


イホームにそう言われ俺は各々の面子をなんとか起こしてベッドから離れさせた。セルツとピィタに関しては悪気は一切なさそうだが、フラウだけは起き上がった後しきりに頭を下げてきた。フラウはあれか? 一時の気の迷いってやつだったのかな。



それから俺達は軽い身支度をしてから、ヒナルク国王達に挨拶をし王宮を後にすることにした。

それにしても、別れ際ヒナルク国王の‘いつでもまたこの国に来てください! なんなら永住していただいても!’って言ってた時の顔がマジすぎて怖かったな。イホームとリアさんが苦笑いしながら止めてたけど。


「それにしてもまさかこんな大事になるとはな」


「私もここまで大変な目に遭うとは思ってなかったよ。でもそのおかげでピレアムアは救われたんだし、こっちとしては友好関係がさらに深まってくれてよかったと思うけどね」


「まぁな」


街の中を歩きながらそんな会話をしつつちょくちょく辺りを見回してみる。今はまだ朝早い時間帯のせいか外に出ている妖精達は少ないようだ。


「それにしても本当に綺麗な街ですね、ご主人様」


「そうだな、空気も美味いし風は涼しいし散歩するにはもってこいな場所だよな」


この街は朝には朝で別の顔があるらしく、朝日が反射してキラキラ輝く小川やそのおかげでよりいっそう彩りを鮮明にした植物たちが爽やかな気分にさせてくれた。


もし俺が最初にこの世界に来た時の場所があの森ではなくここの森だったら俺はこの街で暮らしていたかもしれないんだな。……ちょっとそれも悪かないかもと思っちまった。まぁ、それも運命ってやつなのかな。




そして街を抜け、いよいよ問題のあの森の中に突入したわけだが今回は前回の時とは違って、事前に警備隊の妖精達が森の中を調査してくれているようで周囲の動物たちに目立った以上は見えなかったということだ。更に大量に実っていたあの黒い謎の木の実もどういうわけかどこにも生えていなかったそうだ。

それを聞いた俺達は護衛に囲まれながらもそこまでの緊張感はなく、あの時とは違って無事に森を突き抜けることができた。いざとなったら全力ダッシュできるように覚悟してたけど、それも無駄だったな。


入口には結界の見張りをしていたあの妖精が乗ってきた馬車を準備して待機していた。どうやらハプニングもなく無事に帰れそうだ。


「やっと帰れるのか。はぁ~……」


それから馬車に乗り込んだ俺達はモートリアムに向かって出発を開始した。

こうして俺のここに来て初めての国外派遣? は終了したのだった。

次回はついにあの人の妹が登場。……する予定です。

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