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それなんて吸血鬼ですか!!

お願いします。

セルツの言ういい方法があるという言葉に全員の視線が彼女に向けられた。方法があるのはいいのだけれども、なんでそんなに二ヤッと笑って言ってるのかの方も気になる。セリフが違ってたら表情的にはあくどいこと言ってるみたいだぞ。


「その方法って一体なんなんだ?」


嫌な予感はするけど時間も無い。俺は少し急かすような口調でセルツに訪ねた。


「それはだな…………私の中の‘ドラゴンの血’を主に与えるのだ」


「ド、ドラゴンの血?」


え? 血? 血って血液のことですか? なんかドヤ顔で‘与えることだ’とか言ってるけど一体全体どうすりゃいいんだ? 俺達がポカンとしていると城の兵士が後ろからこちらに駆けつけてきていた。かなり慌てている様子で、肩を上下させながら息を荒げている。


「ヒナルク様! 森の獣たちが結界、正門共に接触をし始めました! このままでは長くは持ちそうにありません。今のうちに国民達の避難誘導を開始した方がよろしいかと思われます!」


「やはり来たか。城内に残っている兵を集め、地下の避難通路へと誘導を開始させろ! それと、この場に結界を張り巡らさせている魔術師たちを召集させるのだ!」


ヒナルク国王にそう指示された兵士は一つ綺麗な敬礼と返事をしてすぐに走り去ってしまった。どうやら本当に時間の猶予はないらしい。奴らがこの国の中になだれ込んで来るまで最早カウントダウン状態だ。


「ジアート様、申し訳ありませんが私も皆の指揮をとりに行かなければなりません。結界を作成している魔術師達を呼んでおきましたが、もしこれ以上この場にいるのが危険だと判断されましたら魔術師達が案内を致しますのですぐに城の地下へと避難してください」


「分かりました、私達も出来るだけはやってみようと思います」


まぁこれで手詰まりだったらこんなこと言わずにすぐ避難しようとか言ってるんだろうけど、とりあえずセルツの言ってる方法がどういうことなのかを聞いてみるまではまだ希望が残っているわけだし、諦めるのはまだ早いだろう。

ヒナルク国王が駆け足で走り去っていった後、俺達は改めてセルツにどうするのかを問いただした。


「それでセルツ、俺は一体どうしたらいいんだ?」


「簡単なことだ、主が私の血を受け入れればいいだけのことさ。私の流した血を主の体に流し込む。それだけのことだ」


確かに聞くだけだと単純で簡単そうに聞こえるが、それって俺の体にセルツの体の血を入れるってことだろ? いわば輸血みたいなことをするってことなら色んな問題がありそうな気もするんだけど。しかもこの場合、人間じゃなくてドラゴンの血だろ? いきなりそれはレベル高すぎじゃないですかね? 


「セルツさん、流し込むって具体的に言うとどうやってするの?」


イホームも同じことを考えていたのかセルツにそう訪ねた。


「一番簡単な方法は主に血を‘飲ませる’ことだな。それだけでも充分、私の魔力を分け与えることができるはずだ」


「の、飲ませる!?」


「ぴぃいいい?」


血液を飲めってか!? それなんて吸血鬼ですか!! いや、というか中々難易度が高いことをさらっと言ってくれますねほんと!


「なるほど、飲み込ませるのね。正直な所、ドラゴンの血を体に取り込んだ人間なんて聞いたことがないから不安なところもあるのだけど、血液同士を直接流し込むわけではないのなら命の心配は少なくともないと思うわ」


「命の心配‘は’無いんだな……」


それ以外の心配について詳しくご説明を願いたいところだけど、そんなことしてる時間はもちろん無い。しかも、今まで事例がないことをしようとしているのだから結果はやってみないと分からない。……色んな意味でなんて博打だよ。俺は石橋を叩いて、叩いて、叩きまくってから渡りたいんだけどなぁ!! 


でも、そんなこと言ってたってしょうがない。目の前にある選択肢は二つに一つだ。‘やる’か‘やらないか’。‘挑戦’するか‘諦めるか’だ。あぁ、くそっ! どうする俺! 


「ご主人様!! 大変です、あれを見てください!」


俺がそう悩んでいるとフラウが突然大声を上げた。その視線の先を見てみると、空中にまるでガラスにヒビがはいったかのような模様がくっきりと浮かび上がっていた。その場所にはいくつもの黒い何かが、塊のように集まり不気味に蠢いていた。


「まずいよ! 結界にヒビが!!」


「このままじゃ中に入ってきちゃいますよ!!」


ちくしょう! もう選択してる時間なんてない。このままじゃこの国が滅茶苦茶にされちまう! 考えれば考えるほど心臓の鼓動が早まる。俺はゆっくりとセルツに視線を合わせる。彼女も俺を正面から見据えた。その時重なった視線には彼女からの想いが込められている気がした。更に鼓動が早くなる。心なしかその瞬間だけ周りの時間が遅くなっているようにも感じた。意識が全て持っていかれているのか徐々に音が聞こえなくなってくる。そして、セルツがゆっくりと口を開き始めた。


「主よ、私を信じてくれ」


彼女はそう言い放った。その声が耳の中に響き渡る。たった一言だけだったが、俺はその言葉のおかげでやっと決意することができた。もうやるしかない。ここまで来てただ逃げるだけなのは駄目だ! 固く拳を握り自分の気持ちを奮い立たせた。


「セルツ! 今すぐに俺に血を飲ませてくれ!」


「ご主人様!」


「ジアート、本当にやるの?」


「もう迷ってる場合じゃない。すぐに始めるぞ!」


「了解した!」


俺がそう言うとセルツは右手の指から鋭い爪を伸ばすと、左腕を伸ばし縦に勢いよく切り裂いた。その場所からボタボタと血液がこぼれ始める。


「セ、セルツ!! そんなにして大丈夫なのか!?」


「心配しなくてもこれくらいの傷、たいしたことはないさ」


いや結構な勢いで血が流れ出てますけど……ま、まぁドラゴンにしてみればこれくらい平気なのかな?


「さぁ、主よ。今のうちに私の血を飲み込むのだ」


そう言ってセルツが腕を伸ばしたまま高々と上げる。そこからポタポタと垂れる紅い雫。俺は一瞬ためらったが、意を決してセルツの腕の下に潜り込むと口を大きく開けその雫を数滴、口の中に含んだ。


ひぃいいいいい!! 鉄の味が口の中に広がるぅううう!! そう心の中で叫びながら、俺は一刻も早く口の中からその匂いを消し去ろうと勢いよく飲み込んでしまった。か、考えるな。これは只の薬……只の薬。


「ぬぐぐっ!! …………ぷはぁ!」


「ぴぃいいい! ぴぃいいい!」


「ジ、ジアート大丈夫?」


周りが心配そうな顔でこちらを見てくるが、今のところ俺の体に異変は起こっていない。ど、どうなったんだろうか? この状態で既に効き目が出ている状態なのか? そう俺が混乱しているとテラスの扉が開かれ、こちらに数人の妖精が駆けつけてきた。


「皆様! 遅くなり申し訳ございません。私達、結界を管理している魔術師の者です」


どうやらヒナルク王子が呼んでいた城の魔術師の妖精達みたいだ。


「少々手間取ってしまいましたが結界へ魔力を経由する準備は完了しました。いつでも開始することができます」


どうやら準備は全部完了しているようだが、肝心の俺に異変が起きない。これって…………もしかして、失敗したってことか?


「どうかされたのですか?」


一向に動こうとしない俺達を怪訝に思ったのか一人の妖精がそう訪ねてきた。残念ながら俺達にもどうなっているのかよく分かっていない。


「そ、それが……」


そう俺が事情を説明しようとしたその時だった。突然、心臓がドクン! と勢いよく鳴りだし、体中が猛烈に熱を帯び始めた。

な、なんだこれ!? 体中が燃えるみたいに熱い。それに筋肉が激しく痙攣しているように震え始める。呼吸がしにくく間隔が浅くなる。まるで過呼吸にでもなってるみたいだ。


「ぴぃいいいい!!!」


「ご主人様!!」


「主! 耐えてくれ!!」


「な…………これ…………」


駄目だ、言葉がうまく出せない! 更に右腕へ何かが激しく締め付けているかのような激痛が走り出し俺は思い切り歯を食いしばった。痛えぇえぇぇぇぇえええ!! なんだこれ!! どうなってんだ!! かろうじで視線をその右腕に向けるとそこには驚くべき光景が広がっていた。


異様に盛り上がった筋肉にまるで鱗のような模様が刻まれ、人間の腕というにはあまりにもかけ離れたものへと変貌を遂げていたのだ。さらに手の部分は鋭い爪が生え始め、トカゲなどの爬虫類のような形へと姿を変えていた。


そこからは徐々に痛みが引いていき、体の痙攣や過呼吸も落ち着きを取り戻し始めていた。


「はぁ……はぁ……」


「ジアート、大丈夫!?」


イホームが声をかけてくるが今はそれに答えられる余裕がなかった。一体どうなっちまったんだ。俺は改めて自分の右腕を見つめる。そこにはいつもの見慣れた肌はなく、硬質な赤黒い色のウロコに包まれた腕があった。大きさも恐らく数倍ほどに膨れ上がっている。手を動かそうとすると鋭い爪の生えた指がぎこちなく動いた。これ、本当に俺の体なのか……。あまりの衝撃に言葉が出てこなくなりそうになったが、‘パリンッ’という何かが割れるような音に俺はハッとなり顔を上げた。

結界に今にも破られそうなほど大きな亀裂が入っていた。もう今にも粉々に砕け散りそうだ。


「イホーム! 急いで始めよう!」


「えあ、わ、分かったわ! あなたたち、結界を作り出している魔法陣を展開して!!」


「分かりました!!」


向こうが準備をしている間に俺も力を使うため意識を集中させる。特別なことは何もしない。ただ治すイメージだけを頭の中に広げていく。ここまでやったんだ。絶対に成功させる。犠牲は出さない。みんな治して元通りにしてやる! 閉じていた目を開け右腕を見てみると、今までにない程青白く輝き始めていた。すげぇ……なんかもはや眩しいくらいなんですけど。そして、今回はそれだけにとどまらずそこから更に別のものが浮かび上がっていた。


「あれは…………‘十字架’?」


イホームがそれに気がついたのか小さな声で呟いた。俺の握られた右手に大きな青い十字架が現れていたのだ。しかしよく見ると先端の部分が鋭く尖っているのは何故なのだろうか?


「準備できました! いつでも行けます!」


地面に大きく描かれた丸の中に複雑な様々の模様が描かれた魔法陣が光り始めた。その輪を囲むように魔術師の妖精達が手をかざしている。

俺はその魔法陣の真ん中に入ると、握られていた十字架に目を向けた。もしかして、この尖ってるのって……。俺の憶測が正しければ使い方は恐らくそうなのだろう。俺は右腕を思い切り上に掲げる。頼むからこれで、全部上手くいってくれよ! そう祈った時、ついに限界を迎えた結界が勢いよく破壊され、そこから真っ黒く染まった獣達が一斉になだれ込んできた。


「今だ、主!」

 

その言葉を合図に俺は十字架を握り締めながら全力を込めてその腕を振り下ろした。


「いっけぇぇぇええええええええええええええ!!!!」


十字架が地面にめがけて突き刺さった瞬間、そこから国全体を包むほどのまばゆい光が一斉に広がり始めた。

次回はもう少し早めに更新したいですorz

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