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死にかけの国

お願いします。

ピレアムアの門を閉めた後、それでもまだ諦めていない動物たちが勢いよく体をぶつけ門をこじ開けようとしていたがしばらくして無理なことがわかったのか次第にその激しい揺れがおさまってきた。そんな光景に俺はもう口あんぐり状態でしたよはい。予想以上にひどい状況だぞこりゃ。セルツのこの魔法がかかっていなければ恐らくこの門の内側にたどり着くことはできなかったんじゃないだろうか。


「全員怪我はないか?」


「えぇ、なんとか大丈夫です。ジアートは?」


「幸運なことに無傷だ。他の皆も大丈夫そうだ」


「我々も無事です」


どうやら最初の難関はクリアできたようだ。ってか最初の時点でこんだけ難易度高いって、これなんて鬼畜ゲーですか? 俺はベリーハードなんて選んでませんよ、難易度変更を要求します! イージーモードにしてください! もしくはベリーイージーでも可。


「それにしても今の様子からするとこの結界に囲まれた森の中にいる動物達はほとんどその黒い木の実を食べてしまったようですね」


「あぁ、だがおかしな言い方だが結界の中だけで済んでいるのならまだいいのかもしれないな。もしこれが森全体に広がっていたらと思うとゾッとする」


結界の中だけねぇ……。その中にいる俺達はまさに危険地帯に隔離された状態ってことですか。しかも、ここから安全に出るためにはこの大聖樹とやらを治さざるをえないと。さりげなく逃げ道を絶たれてる気がするなぁ。


「それよりも早速王宮へと案内しよう。ついてきてくれ」


彼にそう言われ俺達も後に続こうとした。が、その時俺はふと気がついた。このままの状態で行ったら俺の姿見えないじゃんと。


「ちょっと待ってください。セルツ、悪いが今俺達にかかってる魔法を消してくれないか? あ、ピィタはそのままでいいから」


「ん? なんだ消していいのか? ほれ」


彼女が指先を一振りする。すると、俺達の姿が急に見えるようになって驚いたのか先程門を開けてくれた妖精が驚きの声をあげた。どうやら魔法の効果は完全に消えたようだ。にしても本当に簡単そうにやるよなセルツの奴。指先一つで魔法をかけたり消したりとか俺も一度やってみたいもんだ。


「すいませんお待たせしました」


「よし、それでは行こう」









王宮に向かいながらピレアムアの国の中を歩いてみたが……何というかモートリアムとは違って街の中に活気というかそもそも人がほとんどいないんですけど。時々すれちがう妖精族の人も皆虚ろな目してるし……ほぼゴーストタウン化してるなこりゃ。しかも、多分こんなことになる前は自然いっぱいの国だったんだろうが……残念なことにそのほとんどが枯れてしまっている。道端にあった花畑も木も、さらには特徴的な木で出来た木造の一軒家型の建物に巻きついている見たことのない植物も全部茶色く変色してしまっていた。これがもし観光で来てたんだとしたらショックすぎて俺しばらく立ち直れんかもしれん。


「これはかなり悲惨な状況ですね」


「あぁ、この国の地盤の下には大聖樹様の巨大な根が張り巡らされていてな、我々はそこから様々なお力を分け与えてもらっていたのだ。しかし、そのお力の供給がほとんど無くなってしまった今、それと同時にこの国も徐々に死んでいってしまっているのだよ」


お力ねぇ……。俺は目の前に見えている大聖樹を見上げてみる。改めて思ったがでかすぎだろこの木。てっぺんの部分なんてもう雲の上とかにあるんじゃないのこれ。ここまで育つのって一体どれくらいの時間がかかってるんだろうか。樹齢うん億年とかそんなレベルだよなきっと。


「ジアート、ジアートってば」


「ん? なんだ?」


不意にイホームが俺の服の裾をつまんで声をかけてきた。


「とりあえず王宮に着いたら話は私がするから、ジアートはあまり余計なこと言わないように気をつけてね」


「余計なことってなんだよ。まぁそのへんはそっちに任せるから俺は大人しくしてればいいんだろ?」


「うん、悪いけど念の為に慎重にいきたいからね」


どことなく今の言い方に引っかかるものがあったが、反論したところでどうなるものでもないので俺は黙って頷いておいた。






そうこうしているうちに俺達は目的地にたどり着いていた。大聖樹の真下、あの馬鹿でかい木にまるでくっつくかのようにその城は建てられていた。大きさはモートリアムの城の半分くらいか? 外面だけ見たら城というよりも神殿みたいな感じがするな。そして、そんな建物に何かものすごくぶっとい根っこみたいなのが絡まってるように見えるんだけどあれはどうなってんだろうか。見ようによっちゃあなんだか巻き込まれているようにも見えてちょっと怖い感じもする。


「なんだかすごいところだな」


「ぴぃいい! ぴぃいいい!!」


「うむ、結構神秘的な場所で私はいいと思うがな」


「こんな建物見たことないです!」


地味に興奮したうちのメンバーは城を見るなりガヤガヤと騒いでいた。ピィタに関しては何を喜んでいるのか翼をバサバサと広げ目をキラキラと輝かせていた。案外好奇心旺盛なのかな?


「さぁ皆中に入ってくれ。国王様達が謁見の間でお待ちになっている」


さていよいよピレアムアの王族様たちとご対面か。お偉いさんとの謁見っていうのはやっぱり何故か緊張してしまう。それだけ庶民魂が強いってことなんだろうか。


彼に案内され城の中をどんどんと進む。ちなみについてきていた護衛の兵士の方々は城の外で待機させらているので今はイホームとうちの面子だけで行動している。歩きながらよく観察するとなんと建物の中にまであの巨大な根っこが這い巡らされている場所があることが分かった。……やっぱりここ巻き込まれてるんじゃないの? もしくは取り込まれてるんじゃないの? そうちょっとだけ不安になってしまった。


「この先の部屋が謁見の間になっている。私は部屋に入ることはできないのでここから先はあなたたちだけで行って欲しい」


「そうですか、分かりました。ここまでご案内していただきありがとうございました」


イホームがそうお礼を言うと彼もぺこりと頭を下げてそのまま元来た道へと引き返していった。


「さてと、それじゃあ行こうか」


「お、おう」


イホームはこういうことに慣れているのかあまり緊張していなさそうだ。俺もできるだけ落ち着いた振る舞いができるように頑張ろう。

そう思いながら俺は部屋の扉を開け謁見の間へと入っていった。中に入るとそこには赤い絨毯が敷き詰められた広い部屋と両脇に色とりどりの花とそれを囲むようにできている小さな水路のようなものが見えた。その部屋の先には数名のメイドさんや執事と思われる妖精の方々と、大きな木製の椅子に座る一人の男性の姿があった。多分あれがこの国の国王とやらなのだろう。こちらの姿を確認すると椅子から立ち上がりこちらの方へと近づいて来た。


「イホーム殿、遠いところからご足労いただき誠にありがとうございます」


「いえいえ、とんでもございません。ピレアムアの危機とあらば駆けつけるのは当然のことでございます」


そう言ってお互いにがしっと握手をする二人。イホームの名前を知ってるってことは二人は顔見知りなのかな。そう思いながらジッと見つめている俺に気がついたのか国王が俺に視線を向けてきた。


「こちらの方が例の魔術師様でございますか?」


「えぇ、今回歌姫様の治療を担当させていただきますジアートというものです」


「よ、よろしくお願い致します」


俺がそう頭を下げると彼はこの方が……と声を漏らしまじまじと見つめ始めた。な、何か変なところでもあるのだろうか。真顔でそんなに見られると色んな意味で緊張するんだが。


「……はっ! これは失礼いたしました。私はピレアムアの現国王‘フィジト・ヒナルク’と申します。今後よろしくお願い致します」


そう言って彼は俺にも握手を求めてきた。俺も反射的に手を出してガッチリと手を握られた。なんだか随分とフレンドリーな人だなぁ。近くで見ると結構若そうな容姿だし、威厳たっぷりなおじさまっていうよりは爽やかな美青年って感じがぴったりくるな。短めの整った黒髪に身長は俺とそんなに変わらないから百七十センチちょっとってとこか? あの特徴的な民族衣装のような服を着ていて背中からあの四枚の綺麗な羽が生えているのを見ると、この人も一応妖精なんだなぁとしみじみ思った。


「ところでジアート様の隣にいるこの方々は?」


そう言って彼はさらに俺の横に視線を向けた。まぁそりゃ気になりますよねこの面子じゃ。とりあえずセルツとフラウは彼にも見えるようになっているがピィタに関しては未だに魔法がかかっている状態で見えていないはずなので紹介は省いても大丈夫だろう。


「この者たちは私のサポートをしてくれるいわば付き人のような者です。こちらがセルツ、そしてこちらがフラウと申します」


「付き人ですか。なるほど流石は一流の魔術師様ですね」


え? そうなの? そんなんで一流の魔術師認定されていいの俺? 本物の一流の人に怒られませんか?


「セルツ様にフラウ様ですね。お二人も今後よろしくお願い致します」


ヒナルク国王がセルツに手を差し出す。しかし、セルツはびどうだにせず只ジッと彼を見つめていた。いやいやいやいや、見つめてないで握手してあげなさいよ。そう思った時だった。


「すまないが私は主以外の人間に触るのは好かないんだ」


ピシッ! と俺はその発言に固まってしまった。セ、セルツさん!? あんた国王に向かってなんば言いよっとですか!! っていうかそうだったのかよ、今初めて聞いたわ!


「そ、それは大変失礼いたしました。軽率な行動をお許し下さい」


「いや、分かってもらえればそれでいいんだ」


おぃいいいいい!! なんでそんなに上から目線なんだよ! 彼はまだ心が広そうだからいいけど、もしそうじゃない人だったら今の空気最悪なことになってんぞ!


「す、すいません! この者はちょっと変わった性格をしておりまして」


「いえいえお気になさらないでください。気安く女性の肌に触ろうとした私も礼儀がなっていませんでいたからね」


彼はそう言って苦笑いで返してくれた。あれ? でもさっきイホームとは普通に握手してまいたよね? とツッコミをいれそうになったが余計な事態を招きそうなので心の中だけに収めておくことにした。きっとそういうのじゃないんだよ。昔からの知り合いとかだからあれは例外なんだよ……多分。


「それでヒナルク様、早速で申し訳ないのですが今回のご依頼にありました歌姫様はどちらに?」


イホームが話の流れを変えるようにそう訪ねた。するとヒナルク国王は表情を少し曇らせどこか戸惑ったような仕草を見せた。


「それが……彼女はその……大聖樹様への歌が歌えなくなってからほとんど自室の方に引きこもってしまっていまして」


「引きこもってる?」


おいおいお姫様がひきこもりってなんだよ。俺はそんな似つかわしくない単語にひっそりと眉をひそめた。

今回ちょっとだけ短かったので今週中にもう一話更新したいです。

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