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蒼の三日月

遅くなりました。

イリヤさんに案内されファリアと一緒に城の中に入ると、そのまま大広間のある場所へと向かっていた。そこでイホームが待ってくれているらしい。


「にしても、まさかファリアがわざわざ外で迎えてくれるとは思わなかった。あんなことしちゃって大丈夫だったのか?」


「本当はここから出るときは必ず許可と護衛の兵士を数人引き連れなければいけないのですが、門の前までだったのでイリヤがそばにいてくれていればいいとのことでした。入口の周りには兵もたくさんいますしそこまで心配する事ではないと思うのですけどね」


その言葉にイリヤさんがぴくっと反応した。


「そうは言われますけどファリア様はまだご病気が治ってから少しの間しか経っていないのです。もし、万が一にでも何かありましたらどうするのですか?」


「大丈夫よイリヤ。私の病は荒崎さんのお力のおかげで全て治ったのだから。何も心配いらないわよ」


ファリアのそんな返答にイリヤさんは、はぁ……と一つため息を吐きどことなく困ったような、呆れたような顔をしていた。この二人って結構、親しい関係なんだな。様子を見ていると、あまりやりとりにぎこちなさというか上下関係からくる独特の空気というものを感じ取れなかった。


「なぁ、イリヤさんとファリアって一体どういう関係なんだ? メイドとか王女とかそう言うのとは別の意味で」


俺がそう聞くと二人はお互いの顔を一瞬見合わせた。


「そうですね、私とイリヤは簡単に言ってしまえば小さい頃からの遊び相手兼お世話係と言ったところでしょうか。イリヤは代々この城に仕えてきた一族の者で、私が小さい頃からこの城で給仕などに励んでいました。その当時は私と同じ程の年齢の子供はこの城にはいませんでしたので、よく隙を見つけては遊んでもらっていたのです」


「へぇ~、ってことは二人は小さい頃から今までずっと城の中で一緒に育ってきたってことか」


小さい頃からとなれば、そりゃあ親密な関係にもなるよな。ましてや歳が近くて一緒に遊んでいた相手だ。気心も知れてるってとこか。


「えぇ、そうです。ですからファリア様も私とは気軽にお話なさってくれるんですよ。ついこの間だって、荒崎さんのことでそうだ……」


イリヤさんがそう言いかけたときだった、ファリアが急に大声を上げながら彼女の口元を両手で押さえ込んだ。


「イ、イリヤ! 何を言ってるのよ!! あ、荒崎さん今のことは気にしないでくださいね!」


「あ、あぁ」


イリヤさんは俺の名前を口に出していた気がしたが、気にするなと言われたのでとりあえず今は聞かないようにしておこう。女性同士の話だ、きっと色々あるのだろう。色々がなんなのかは分からないが。











そうこう話しながら歩いているうちに俺達は大広間へとたどり着いていた。中に入るとそこには既に待機していたイホームと数人のメイドさんたちの姿があった。って、何でメイドさん達がここに?


「お待たせいたしましたイホーム様。荒崎様達をお連れいたしました」


「うむ、ご苦労だった。ではこのままこの後の手伝いを頼む」


イホームにそう言われたイリヤさんは何故か後ろにいるメイドさん軍団に合流した。この後の手伝いってなんのことだろうか?


「お兄ちゃん待ってたよ。さっき疎通石で聞いた話の通り、ピレアムアのことについて私に話があるんだよね?」


「あぁ、そうだ。国王様に頼まれたあの依頼の事なんだがイホームはもう知ってるんだよな?」


「えぇ、ピレアムアに異常が起きてるってことでしょう? 聞いてるわ。でも、先程お兄ちゃんが帰ったあとの国王様からの話ではその依頼を考えさせて欲しいと悩んでいたって言ってたけど」


「そ、そうなんだけどさ……ちょっと状況が変わったというか、無視できないような事態が発生したみたいな?」


俺がそう言うとイホームは首を傾げた。


「あの、荒崎さん。無視できないような事態って?」


イホームと同じでファリアも気になっていたのか興味津々といった顔でそう訪ねてきた。このことについてはしっかりと伝えておいた方がいいだろう。恐らく今回のその異常とやらと何かしらの関係があるのは明確なわけだしな。


「実は、うちに今一緒に住んでる小さいドラゴンがいるんだけどそいつが付き添いと一緒に狩りの練習に出かけたんだ。で、その時多分そのピレアムアの近くにある森の中に入ったんだけど、そこで何やらウサギに襲われたとかで怪我して帰ってきたんだ」


それを聞いたイホーム達はみんな驚いた顔をしていた。後ろにいるメイドさん達もお互いの顔を見合わせてざわざわと小さな声で騒ぎ出していた。


「あ、荒崎さん、ドラゴンと一緒に住んでるんですか?」


「うん、まぁつっても小さいやつだけどな」


大きい方もいるってのは今ここで言うと更に騒ぎになりそうだから言わないでおこう。イホームはそのことを知ってるからいちいち説明する必要はないだろうしな。


「たとえ小さいドラゴンだとしても、生態系のトップクラスに位置するドラゴンが野生のウサギに怪我をさせられるなんて聞いたことないよ。そもそもドラゴンなんて見たら普通、大抵の生き物はすぐにどこかへ逃げ出すはずだし……」


イホームは眉間に皺を寄せながら考え込んでしまった。やはりこの現象は異常らしい。


「やっぱりピレアムアの被害が近くの森に何かしらの被害を及ぼしていると考えるのが妥当なんじゃないかと思うんだ。ともすれば、これから被害はどんどん拡大するかもしれない。そうなればうちのミニドラゴンが狩りの練習をする時の場所も環境も失われていく可能性がある。もちろんそれだけじゃなくてピレアムアの国だけじゃなく、その近隣国にまで被害は拡大していく危険性は捨てきれないだろう。それにだ、ピレアムアはこの国の友好国だ。産業、文化、その他にも色々な交流がある。きっとこの国にだって影響を与えるだろう。そう考えてみると、今回の依頼を受けなければ俺はこの国に降りかかるかもしれない驚異を無視してしまうことになる。だから、俺はこの依頼を受けようかと考え直したんだ」


自分で言っていてよくもまぁこんなにペラペラと言葉が出るもんだと少し呆れてしまった。責任が何だとさっきまでグダグダ悩んでいた男が言うようなセリフじゃあないよな。


「なるほど。それで早速、話しをつけようと城にやってきたと。ということは、もうお兄ちゃんはその気でいるんだよね? 国王様の依頼受けてくれるんだよね?」


「あぁ、そのつもりだ」


俺がそう言うとイホームはにやっと笑ってこちらを見てきた。な、何ですかその意味深な笑みは。


「そう、じゃあ問題ないよね。あなたたち、お願いできる?」


「かしこまりました」


イホームが後ろで待機していたメイドさんの軍団に何やら指示を出し始めた。すると、全員が一斉にこちらに向かってぞろぞろと詰め寄り始めた。な、なんだこの光景。こんなにたくさんのメイドさんが見れるだけでも貴重なことなのに、更に詰め寄られるとかそんなマニアックな経験までしちゃうんですか俺は。いや、結構迫力あって中々怖いもんだね。


「イ、イホーム。これは一体」


「大丈夫ですよ、ファリア様。ちょっとお兄ちゃんの体を調べさせてもらうだけですから」


え? 何か今ものすごい発言が聞こえた気がしたぞ。そう思った時、メイドさんの一人が俺の腕をがしっと掴んできた。


「いぃ!? な、何すか!」


「荒崎様、少しの間動かないでくださいね」


ニコッと微笑まれるとそのメイドさんは裾のポケットから何かを取り出した。


「え、それって……」


その手に握られていたのは柔らかく細長い白い布のようなものに、いくつもの細かい小さな縦線のメモリが付けられた言わば、


「メ、メジャー?」


何でそんなものを取り出しているのだこの人たちは。さっぱり訳が分からない俺のことをよそに、メイドさん達はテキパキと俺の体のあらゆる部分をそのメジャーで測っていく。その傍らで次々に告げられていく数字を素早く紙に書きとどめているのはイリヤさんだった。


「イリヤさん、これは一体何をしているのでしょうか?」


「大丈夫ですよ、すぐに終わります。それにこれは荒崎さんの為でもあるんですから」


俺のため? ますます訳がわからなくなってきた。







しばらくして結局、俺には何の説明もされないまま全ての採寸が終わり、メイドさん軍団はどこかえと消えてしまった。あんなことして本当に何の意味があったんだろう? 


「さぁ少しの間、時間があるから皆さんでお茶でもしませんか?」


イホームにそう提案され俺達は大食堂と呼ばれる場所にやってきた。部屋に入るとそこには数十はくだらない程の綺麗な刺繍が施された椅子と、どこまでも続く長いテーブルがいくつも並べられていた。そして、そのテーブルの上にいつの間に用意されていたのか湯気のたっているお茶と、小さな茶菓子が盛られた二段式の皿が置かれていた。


「うっわ、何ここ」


「ここは各国の王や女王、それに貴族などをお呼びしてパーティーやお食事会をする時に使われる部屋なんです。まぁ、と言ってもここ最近は私が病に倒れていたこともあってそういったことはひらかれなくなってしまいましたが」


「そうなんだ。でもさ、もうその病気は治ったんだしいいんじゃないの? 別にパーティーとかひらいても」


「それがそうもいかないんだよねぇ……」


イホームが首を横に振りながらそう言った。そうもいかないとは一体どういうことだ?


「ねぇ、お兄ちゃん。ファリア様が罹っていたご病気の名前は何だっけ?」


「何だっけって……あれだろ、黒死病ってやつ」


「そうだね、じゃあその病気の最大の特徴は何だったか覚えてる?」


「特徴? 確か体がどんどん黒くなっていくのと、それから……」


そこで俺はふと気づいた。そうだ、あの病は今ある医療や治療魔法の技術じゃ治せなかったものだったんだ。それがもし治ったということが他国に伝わったらどうなる? 恐らく大騒ぎになるだろう。そうなったらきっと他の国たちはどうやってあの病を治したのかが絶対に気になるはず。そしてその時、俺の存在がバレてしまったら……興味は一気にこちらに集まってくる。下手したらどこかの国に連れて行かれてしまうかもしれない。多分イホームはそういった危険性を示唆しているのだろう。


「気づいた? お兄ちゃん。その力はこの国にとって失い難いものだってことに」


イホームの今の言い方から察するに俺の考えはどうやら正解らしい。この力にはそういった問題もでてくるのか。とても便利だけど時には厄介になるのかもしれないなこれは。


「でもさ、いつまでも隠し通せるわけもないだろう? いつかは必ずファリアの病気が治ったことは知られてしまうだろうしさ」


「えぇ、そうですね。恐らくそう遠くないうちに明るみになる可能性はあります。そうなればそのことについての言及は免れられないでしょうね」


ファリアは少しだけ顔を俯けてしまった。もしかして、何か負い目でも感じているのだろうか? 


「いや、ファリアは何も悪いことをしていないんだから別に気にする必用はないんだけどさ。でも、何かしらの対策はうっておかないとなぁ」


お互いのためにも何とかこの問題は解決しておかなければならない。と言ってもそんな簡単に解決できるはずもないのだが。そう思った時だった、


「ふふふふふ、お二人共大丈夫でございます! 既にそのための対策はうってあるのでありますよ!」


「え? ま、マジでか!?」


まさかの解決ですか! さっき浮上したばかりなのにもうですか! 


「本当なのイホーム!?」


「えぇ、これを使えばピレアムアに行く時もお兄ちゃんの正体をバラすことなく任務を遂行できるはずです。多分もうそろそろできるんじゃないかなぁ?」


あぁー、まさかさっきの採寸ってそのアイテムを作るために必要なことだったのか。だからあんなに細かいところまで図られてたんだな。あの時、メイドさん達にいろんなところを触られて若干いい気分になってたのはここだけの話だ。男だもの、しょうがないよな。うん。


「にしても、何作ってんだ?」


「むふふふ~それはねー……」


イホームがそう言いかけた時、部屋の扉がノックされる音が聞こえてきた。


「イホーム様、お召し物が完成いたしました」


「お、きたきた! 入っていいぞ」


そうイホームが言うと扉が開き中にまたもやメイドさんの集団がぞろぞろと入ってきた。その手には白い大きな布のようなものが握られていた。


「さぁ、お兄ちゃん。これが今日からお兄ちゃんがその‘驚異的な回復魔法の力を持つこの国の魔術師’として働いて貰うときに着る特殊加工を施した‘蒼三日月のローブ’だよ!!」


その言葉を合図にメイドさん達が一気に手に持っていた布を空中になびかせる。その瞬間、俺の目に映ったのは、真っ白な布の真ん中にデカデカと陣取っている蒼い三日月のマークだった。



今年最後の投稿になりました。2013年は何だかんだでだらだらとしてしまったので、新年からは小説もその他のこともしっかりとしていきたいですね。

そんなこんで2013年ありがとうございました! 2014年もまだ続けていくのでよろしければ皆様どうぞよろしくお願い致します。では、よいお年を!!

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