とてつもない覚悟
中途半端な時間の投稿で申し訳ございません。
さて、どうしますかねぇ……。俺は家に向かいながらそう考えていた。結局、俺はその場ですぐに返答することができず、考えさせて欲しいとお願いして城を後にしていた。だって国を救ってくれだなんてそんなとんでもない事を簡単に引き受けるなんて出来るわけがない。責任の大きさも規模も桁違いすぎる。
「でも、俺にしかできないって言われたしなぁ」
ということは俺が断ったらもうどうにもならない訳だ。まぁ、それ以前に断りきれるのか怪しいもんだけどな。なんせ国の存続がかかっているわけだし、友好国ともなればなんとしてでも助けたいってのが国王様の本音だろう。それでも一度、俺を大人しく返してくれたのはきっとあっちなりの気遣いなんだろう。その気遣いを無駄にするわけにはいかない。時間もあまりないみたいだし、よく考えないとな。
そうこう考えているうちに俺は家の前までたどり着いた。考えごとをしながらだと王宮から家まで結構短く感じるな。
「そういえば、ベイル大丈夫だったかな」
冷静に考えるとあんな濃い面子の中にベイルを一人置いていったのって結構まずかったんじゃ……。家から出た時も固まってたし、何事も起きてなければいいけど。俺はベイルの無事を祈りつつ玄関を開けた。
「ただいまー」
あれ? 何か静かだぞ。もっと色々騒いだりしてるかと思ったんだけど……。そう不思議に思いつつも俺は廊下を進んでいく。そして、リビングの扉を開けると部屋には椅子に座っているベイルとその横にちょこんと佇んでいるフラウの姿があった。
「あ、ご主人様。おかえりなさい」
「おう、ただいま」
「お、おぉ……おかえり荒崎」
えーと……フラウに関しては何ともなさそうだけど、ベイルはなんか疲れてるみたいだな。やっぱり何かあったんだろうなきっと。
「ベイル、大丈夫か?」
「大丈夫かと言われれば大丈夫だが、なんというか色々と理解するのに大変でな」
ですよねー。そもそもいきなりあの状況を把握しろって方が無理だよな。フラウは喋れるようになってるし、家にはドラゴンのコンビが上がり込んでるしで訳が分からないよな普通。むしろ理解しようとしてくれたことがすごいと思う。
「そういやあいつらは?」
家の中にあのドラゴンコンビの気配がない。多分いたのならあのミニドラゴンは俺にくっついてくるはずだし。
「あいつら? あぁ、彼女たちなら狩りがどうのこうのと出て行ったぞ」
そういやそんなこと今朝言ってたな。あのチビ助にやり方を教えなきゃいけないって言ってたっけ。ということは今頃、彼女は本来の姿に戻ってどこかで狩りをしているのだろう。本来の姿で……狩り…………やばい、血みどろな絵面しか思い浮かばない。あのミニドラゴン大丈夫だろうか? そう思っていた時、ベイルが不意に椅子から立ち上がった。
「なぁ、荒崎。彼女達は一体何者なんだ? それにあのドラゴンやフラウちゃんが人の言葉を話しているのは一体どういう事なんだ?」
ベイルが我慢できないとでも言うように俺に詰め寄ってくる。これに関してはまぁ、しょうがないよな。こうなるのも納得できる。
「わ、分かった。ちゃんと説明するから落ち着いてくれ」
はぁ~……さて、何から説明したらいいのやら。とりあえず俺はベイルを椅子に座らせ最初から全て話すことになった。
「という訳でございます」
俺はベイルに一通り説明をし終えると彼女は何とも呆れたような顔をしていた。
「なるほど、あの後そんなことが起きていたんだな。にしてもだ、ドラゴンと一緒に住むなんてとんでもない事をしているな」
分かっていたがやはりとんでもないことなのか。そもそもあいつらが人間と一緒にいるということ自体がありえないんだろう。まぁ、俺の場合はそれの更に上のことをしてるんだもんな。ベイルがあんな顔になるのもしょうがないか。
「しかも、ドラゴンが人化するなんて話も初めて聞いた。フラウちゃんに至っては元人間だったなんて……正直、信じていいのか分からないよ」
「信じられない気持ちも分かるけど、これが真実なんだから俺にはそう説明するしかないんだよ」
ベイルは腕を組みながら一つ短いため息を吐いた。朝っぱらからこんなこと言われたらそうなるよな。でも、彼女はきっと俺が嘘をついているとは思っていないんだろう。だからこそ、この話を受け止めるのに少し時間がかかっているんだ。
「まぁ、荒崎がそんな嘘を言うような奴じゃないってことは分かっているからな。それに、荒崎はとんでもない事をするような奴だし、こんなことが起きていても不思議ではないというか何というか」
そう言って彼女はクスリと笑った。とんでもない事ねぇ……。確かに俺の力はとんでもない。恐らくこのとんでもない力を使っていなければ、今まで出会ってきた人達とは何の関係も持てなかったかもしれない。そう考えると、こうなったのは自分のせいでもあるのか?
「自業自得ってことなのかねぇ……」
自分で言って妙にその言葉がしっくりきた。四字熟語って偉大だわぁ。
「とにかくだ、その話はもういいとして荒崎も帰ってきたことだしご飯にするか」
あ、そうだった。俺まだ朝飯を食ってなかったんだった。ベイルはキッチンに立つと今朝見た大きな麻袋から次々と食材を取り出していく。色とりどりの野菜。細かくブロック状に切られた肉。それから、見たこともない薄い緑色をした何かの卵。……あれ中身は普通の卵なんだよな? 見た目だけだと何かスライムでも出てくるおもちゃみたいなんだけど。
「ご主人様、そういえば国王様とは何を話されてきたんですか?」
ベイルの後ろ姿を眺めていた俺にフラウがそう聞いてきた。
「あぁ、ちょっと頼まれごとというか、何か俺にやってほしいことがあるみたいなんだ」
「やってほしいことですか?」
「ほう、それは興味深いな」
俺とフラウの会話を聞いたベイルも野菜を心地いいリズムで刻みながら興味津々といった感じで耳を傾けてきた。あんなの俺がやったらきっと、注意力が散漫になって指でも切るに違いない。
「ベイルは‘ピレアムア’って国を知ってるか?」
「あぁ、確かこことは友好国な場所だな。その国がどうかしたのか」
「実は、今その国が大変なことになってるらしくて……なんだっけ‘大聖樹’とかいう国を支えてる木がやばいらしいんだ」
俺がそう言うとベイルは調理をしている手を止めこちらに振り返った。その顔はどこか驚いているように見える。
「大聖樹って……あの国の核みたいなものじゃないか。そんなものがどうして」
どうやらベイルは大聖樹について知っているらしい。流石は有名なヒルグラウンダーってことなのかな。それともここでは常識みたいなもんなのかな。
「それが何でも‘歌姫’っていう人がその大聖樹に捧げなきゃいけない歌を歌えなくなっちゃったらしいんだよね。それでどんどんその木が衰退しているって言ってた」
「歌姫が……それで、荒崎に力を貸して欲しいってことだな」
「まぁ、そういうことだ」
歌ひとつが国の存続に関わるって思ってみればすごいことだよな。よっぽど特別な力がその歌にはあるんだろうきっと。
「なるほど。で、荒崎はこれからどうするんだ?」
「どうするって?」
「その国王からの頼み引き受けるのか?」
ベイルは再び調理の手を再開させながらそう俺に聞いてきた。まさに、今そのことでどうしようか考えてたんだよなぁ。いい機会だしベイルにも相談してみるか。
「どうしようか考えててさ、いくらなんでも今回のこの依頼は規模もでかいし責任だって相当なものだろう? 助けてあげられるのならそうしたい気持ちもあるんだけど、正直色々不安なんだよね」
俺は今の思いを正直にベイルに話してみた。はてさて彼女はどんな反応を示すだろうか。
「……そうか、そうだな。確かに今までのこととは訳が違うくらいにとんでも依頼だと私も思う。荒崎はこの国に来たばかりで、まだ自分の生活も不安定なときに他国を救ってくれなんて少し荷が重すぎるよな」
「少しどころか、かなり重い気もするけどな」
背中にトラックでも背負って坂道歩いてきてくださいって言われてるようなもんだ。
「でも、それは荒崎にしかできないことで、もし荒崎がその依頼を受けなかったらきっとピレアムアの住人達はとんでもないことになる。住む場所を失い、下手をすれば愛するものを失うことになるかもしれない。それも大勢の民がそうなる可能性がある」
「…………」
「荒崎がどうするかは荒崎自身が決めることだが、どちらを選んだにせよその選択にはとてつもない覚悟が伴うことになる。それだけ荒崎のあの力は大きいということだな」
……とてつもない覚悟。救うためにも見捨てるためにもそれ相応の覚悟が必要になる。どちらにせよ俺は覚悟を決めて選ばなければならないんだ。‘救う’のか、それとも‘見捨てる’のか。
「覚悟なんてそう簡単にできるもんじゃないと思うけどな」
「まぁ、荒崎はそうだろうな。そういうことには慎重になりそうなタイプみたいだし」
う……ベイルに全てを見透かされているような感じがする。結構、優柔不断な所あるからなぁ俺。
「ベイルはもし俺と同じような状況になったらどうする?」
「私がか?」
俺は参考までにとベイルにそう訪ねてみた。彼女がもし俺だったらどう行動するのだろう。やっぱり性格的に引き受けて格好良くピレアムアを救っちゃうんだろうか。
「私だったら…………きっと引き受けているだろう。昔の私達のような境遇の子供達を見ることになるのはゴメンだからな」
そう言った彼女の背中はどこか寂しそうに見えてしまった。俺は彼女が昔どんな目にあってきたかは知らない。けど、きっと相当辛い毎日を過ごしてきたんだろう。それだけは彼女のその言葉から汲み取ることができた。
「なんか、今の言葉聞いたらますます責任が重くなってきた気がする」
「す、すまない! 別にそう言うつもりはなかったんだが」
「いやいや気にしないでくれ。俺が勝手に思ってるだけだから」
俺は顔の前で手を軽く振り苦笑いをした。俺が力を使わないことで不幸になる人はきっとたくさんいる。それを、救える確率があるならやらない手はないんじゃないか? 誰かを見捨てるなんてことが俺にできるのか? と言われたら恐らく無理だろう。俺はそういう性格なのだ。それに、結果はやってみなければ分からない。やってもいないのに勝手に出してる結果なんてものは、只の諦めなだけであって結果ではない。
「覚悟か……」
俺はその言葉を噛み締めるように呟いた。
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