国王からの依頼
王様から直々に話ってもう何かあるとしか思えないんだよなぁ。というか、俺まだ朝飯も食ってないしこれからきっとベイルが来てくれるんだろうし、それなのに家にいないとか失礼だよな。どうしよう……
「あ、あの実は俺まだ朝ごはん食べてなくて、今からその……知り合いが作りに来てくれるんですけど……」
「なんと、左様でございますか。それは困りましたね」
というかこんなお迎えまでよこして俺と話したいことって一体何だろうか。しかも、相手は国王様。まさか、どこぞのゲームみたいにいきなり‘旅立つのだ!!’ とか言われたりしないよね。壮大な冒険の始まりとか絶対に嫌だぞ俺は。
「後でこっちからそちらに伺うというのではダメなんでしょうか?」
「それが、本日国王様は別に御用があるとのことで、できれば朝のうちに荒崎様とお話がしたいとおっしゃられておりまして」
御用ねぇ……。それなら事前に言ってくれればよかったのに。そうすればこんなに慌てなくても済んだし、こっちだって色々と用意も出来たんだけどなぁ。だからといって国王様からの呼び出しを断るのもなんか後が怖いしなぁ。うーん……どうしたもんか。そう、俺が悩んでいた時だった。
「おーい、荒崎ー!」
ん? この声は……。呼び声のした方を見るとそこには大きく手を振りながらこちらに小走りで向かってくるベイルの姿が見えた。片手には恐らく朝食の材料が入っているであろう大きな麻袋を持っている。ちょうどいいタイミングで来たな。
「荒崎様、もしかしてあのお方が?」
「あ、はい。俺の知り合いです」
とりあえずベイルにも事情を話して、どうするかを決めようかな。もし、あっちが平気なら家で待っててもらうこととかも出来るかもしれないし。
「おはようベイル。今日もわざわざゴメンな」
「あ、あぁ……それよりも、どうしたんだ? 何でここに王宮の兵士達や馬車が来てるんだ?」
案の定、家の前の光景を見たベイルは怪訝そうな顔で彼らを見ていた。そりゃそうだよな。俺だってそうなったんだから当たり前だよな。
「それがな、何やら国王様が俺と話をしたいらしくてわざわざここまで迎えに来てくれたそうなんだよ」
「こ、国王様が!?」
すっげぇ驚いてんなぁ、ベイル。まぁ、こんな一般市民が国王に呼び出されてるなんて思わないだろうしな。
「あ、荒崎は国王様と面識はあるのか?」
「まぁ、一応な。ここに来たばかりの時に色々あって、その時に少しだけ話したりしたんだ」
「そ、そうだったのか。すごいな」
すごいのか? いや、すごいんだろうなぁ。国王なんてかなりお高い存在だろうし、話すことなんてそれこそ他国の貴族とかお偉いさんとかそんな人達ばっかりなんだろうな普通。
「まぁ、そんな訳でこれから王宮に来て欲しいそうなんだけど、ベイルが朝飯を作りに来てくれるからどうしようかってこの執事さんと今話してたんだ」
「何だ、そんなことで彼らを待たせていたのか?」
俺はベイルが言ったその言葉に少しだけムッとしてしまった。
「そんなことって……俺はこれでもベイルが作ってくれる飯を楽しみにしてたんだからな。それに、わざわざ作りに来てくれるのに誰も家にいないなんて何か感じ悪いじゃないか」
「そういうものか? というか荒崎は私の作るご飯を楽しみにしていたのか?」
まあこの子はなんてことを言っとりますか!! 女の子が作ってくれるご飯を楽しみにしない男なんていませんよ! もしいるんだとしたらここに連れてきて欲しいくらいだっつの。小一時間問い詰めてやるわ!
「あったりまえだろ! しかも美味いんだからなおさらだっての!」
少し興奮気味にベイルにビシッと言ってやった。そんなにかと思われるかもしれないが俺にとっては死活問題なんです! ありがたいにこしたことはないのだからこれくらい言っても丁度いいくらいだろう。
「そ、そうか……」
あれ? なんかベイルが顔を俯けてしまった。やべ、ちょっとキモかったか俺?
「あの……ベイルさん? 大丈夫ですか?」
「!? な、何でもない! そんなことよりこれから荒崎はどうしたいんだ?」
そう言って顔を上げたベイルだったが、何かどことなく顔が赤いというか目が若干潤んでいる? というかちょっとおかしな感じがした。はっ! まさか、そんなになるくらい俺がキモかったってことなのか!? ……今度からはああいうの極力控えることにしよう……うん。そう密かに俺は心に誓った。
「ど、どうしたいって言われてもねぇ。俺としてはできればベイルがこのまま国王様との話が終わるまで家で待っててくれるか、もしくは失礼な話だけど料理を作っておいてくれたりするとありがたいんだけど」
「荒崎の家で待っていてもいいのか? それなら今日は特に用もないし国王様との話とやらが終わるまでここにいてもいいが」
「本当か!?」
それならこのままベイルには家で待ってもらって、話が終わったら家で飯を食うこともできる。どうやら国王様も他に用があるみたいだしそこまで長くはならないだろう。よし、そうすることにするか。
「それじゃあ、悪いんだけどこのまま家の中で待っててもらっていいか? 多分そんなに長くはかからないと思うからすぐに帰って来れると思うけど」
「あぁ、分かった。別に私のことは気にしなくていいからゆっくり話してこい」
という訳で俺はベイルに家で待ってもらい、朝食は後で食べることにして馬車で王宮へと向かうことにした。ちなみに中にいたドラゴン達やフラウのことは後で説明するからと言っておいたが、ベイルはその光景にしばらく固まったままになっていた。自分から頼んでおいてなんだけど本当に大丈夫かな?
そんなこんなで俺は馬車に揺られて王宮までやってきた。執事の人にものすごく丁寧にエスコートされながら客室へと案内される。うーん……こういうのって普通女の人とかにするんじゃないのかな? 経験ないからよくは分からないけど確実にこんな平凡な男にすることじゃないと思うんだが……まぁ、いいか。
「それでは、少しの間お待ちくださいませ」
そう言われ俺は一人客室に残されてしまった。やっぱりここは何度来ても慣れないな。妙にそわそわするし、何か落ち着けないんだよな。いや、王様のこれから来る場所でのんびりくつろいでろよってほうが難しいんだけどね。
「それにしても一体何を話されるのやら」
思い当たることといえば昨日の入口破壊の件か、はたまたあのドラゴン達のことかだよな。はぁ~……どちらにせよロクなことじゃねぇよな。俺がそう頭を抱えていると不意に扉の方からノックの音が聞こえてきた。
「荒崎様、失礼致します」
そう言って先程の執事のおじさんが扉を開けるとそこから国王様がゆっくりと部屋の中に入ってきた。そして、
「荒崎さん、本日は朝早くからご足労願い大変申し訳ございませんでした」
入ってくるなりいきなり頭を下げられてしまった。
「い、いえいえそんなのお気になさらずに!」
俺は慌てて椅子から立ち上がり頭を上げてもらおうと一人ワタワタしていた。いきなりすごい先制パンチをくらった気分だ。俺は王様に頭を下げてもらうような身分ではないのだからそんなことはしなくていいのに。そんな俺の様子を見た国王様はなんとか顔を上げてくれた。
「えっとそれで、今日は一体どんなお話があるんでしょうか?」
俺がそう恐る恐る尋ねると国王様は急にどこか神妙な面持ちになってしまった。え? ちょっとなんすかその顔。何かあんの? やっぱ何かあるんですか?
「まずはどうぞ椅子におかけになってください。立ちながら話すのもなんですので」
俺は言われるまま椅子に腰を下ろした。国王様も俺と向かい合うように椅子に座る。何だかまるでこれから面接でも始まりそうな空気だ。
「実は、荒崎さんに頼みたいことがあるんです」
「頼みたいこと?」
おっと、俺が予想していたのとは全然違う部類の話が来たぞ。
「ええ、荒崎さんは‘ピレアムア’という国をご存知ですか?」
「ピレアムアですか? いえ全く知らないです」
というか知ってるのはこの国くらいしかないんだけどな。なんせ違う世界から来てるもんで。
「そうですか、そのピレアムアという国は我が国とは友好関係にある国でして、様々な文化交流や産業物資の輸出や輸入など積極的に関わりを持っているところなんです」
へぇ~、そんなところがあったのか。お国事情はまだ全然わかってないから一つ勉強になったな。
「なるほど、そんな国があるんですね」
「はい、それでその国にはいくつか特徴的な部分がありまして、一つはその国自体が‘大聖樹’と呼ばれる木の中にあること」
「き、木の中にですか!?」
国がまるごと木の中に入るってどんだけその木はでかいんだよ! もしくは国が小さいのか? どちらにせよすげぇところだな。神秘的な感じはするけど。
「そうなんです、とてつもなく大きな木の根の部分から幹の部分まで全てが国として作られているんです。そして、そこで暮らしているのが‘妖精族’いわゆるフェアリーの方々です」
「妖精……」
わお、それなんてファンタジー。おとぎの国の世界の話が目の前にあるわけですか。まぁ、ドラゴンなんかがいたりするんだしそういう存在がいても可笑しくはないんだけど。
「その方たちは常にその‘大聖樹’からの恩恵を受けて日々の暮らしを豊かにしています。また‘大聖樹’も妖精族の方々から送られる貢ぎ物によってその力を日々補っています。いわば、持ちつ持たれつの関係ということです」
「お互いがお互いを必要としてるってことですね」
いわゆる運命共同体ってやつかな。互いに助け合って生きているってことだよね。中々いい国じゃないか。
「そういうことです。ですが、最近そのピレアムアに異変が起こりつつあるんです」
「異変?」
「実は少し前からのことなのですが、妖精族の方々が大聖樹に貢ぎ物を捧げることができなくなってしまったんです」
貢ぎ物ができなくなった? 一体何でだ? そもそもその貢ぎ物って何なんだろうか? 普通に考えたら収穫した作物とかなのかな。
「えっと、すいません。その貢ぎ物ってのは一体どんなものなんですか?」
「ものでは無いのですが、彼らが大聖樹に捧げる貢ぎ物。それは…………歌です」
「歌?」
これまた俺の予想の斜め上をいく回答が帰ってきちゃったよこれ。歌か。そっかなるほどな、そういう感じなのか。とことんメルヘンチックな国だな! 乙女の皆さんが喜ぶんじゃなかろうか。いやほんと、下手なテーマパーク連れて行くよりここに連れて行ってあげた方が盛り上がるんじゃないか。
「はい、彼らの中には‘歌姫’と呼ばれる存在がいましてその方の歌と国民たちの祈りが大聖樹のエネルギーとなり国を支えているのです」
「歌姫……」
つまり大聖樹とやらにその歌を捧げられるのはその歌姫だけだということだよな。そんでもって貢ぎ物の歌と祈りが捧げられなくなったということはそのどちらかに何らかの異常が発生していると。恐らくそういう事なんじゃないだろうか。
「もしかして、その歌姫? さんに何かあったとかですか?」
「実は……そうなんです」
はい、ビンゴ! なるほどそういうことか。それで俺にその歌姫を何とかして欲しいってところだろうな。
「今朝方、向こうの国の様子が伝わってきたのですが……どうやら大聖樹の力がかなり弱まってきていて、歌姫の様子もよろしくないと」
「よろしくないってのはどういう状態なんですか?」
あ、何かちょっと今の医者っぽいかも。そんな知識は一切持ってないけどね。
「どうやら声が出せなくなってしまっているようなんです。原因は分からないのですが」
原因は分からないねぇ……。最先端医療技術も何もないこの世界じゃ分からないことはどうすることもできないってことか。せめて原因が何なのかが分かれば対処も出来るのかもしれないけどな。
「なるほど、それで俺の出番というわけですね」
「えぇ、このままだとあの国はいつか衰退しきってしまい滅びの一途を辿っていくのみになるかもしれない。我々としてもそんな事態だけは何とかして避けたいと思っているんです。荒崎さん、お願いです。我々にあなたの力を貸していただけないでしょうか? どうか、ピレアムアの民を……私の友人たちの命を救っていただけないでしょうか!!」
再び俺は頭を下げられる。民の命を救うねぇ……。はぁ~……こりゃまたとんでもないことに巻き込まれるかもしれんなぁ、俺。俺はそう思いながらため息を一つついた。
次回は来週の火曜日更新予定です。できれば金曜日にも更新したいなぁと思っております。
 




