一夜明けて……
よろしくお願いします。
という訳で、俺達とこのドラゴンコンビはこの家で一緒に暮らすことになった。同居する相手が出来るなんて思っても見なかったよ。しかも、その相手がドラゴンだなんてのはもっと思わなかったというか……いやほんと人生何があるか分からないよな。
「はぁー……とにかく今日は疲れた。飯食って、風呂入ってさっさと寝よう」
明日のことは明日考えればいいよね。そんなダメ人間思考で俺は今日一日を終わらせることにした。
ちなみに、ありがたいことに飯は今朝ベイルが朝食と一緒に夜の分まで残るように多めに作ってくれたので、俺達はそれをありがたくいただくことにした。帰ってきたら飯があるってこんなにありがたいことなんだな。いままであまり考えたことがなかったけど、改めてそう実感した。
一応ドラゴン達にも‘食べるか?’ と聞いたのだが大丈夫だと言われた。遠慮しているのかどうなのかは分からないがあまり無理にすすめるのもあれなので、俺とフラウで全部完食した。うーん……さっきはあんなこと思ってたけどやっぱり一緒に住むってなるなら飯くらいは皆で食べたいかもなぁ。まぁ、そのへんもこれから考えるとするか。
風呂に関してはどうするのか気になっていたけど、どうやら彼女お得意の魔法でどうにかなるらしい。‘浄化の魔法’というのが使えるらしくそれをかければ清潔な体を保てるとのことだ。昔あったことのある魔術師に教えてもらったものらしい。試しに使うところを見せてもらったのだが、まず彼女が何か呪文のようなものを唱えると空中にまるでシャボン玉のような水色の大きな膜が出来上がり、それが指定した対象の体を包み込むようにする。そして、頭の方からゆっくりとその膜が割れていくように消えていくと同時に浄化作用が対象の体に反映し、汚れや汗なんかの排泄物を取り除いていくらしい。何ていうか……普通にシャワー浴びるよりも簡単というか、それで本当に体がさっぱりするなら絵面的にはかなり近代的だ。まぁ、向こうの世界には無い力だからそう見えても不思議ではないんだろうけどな。
その後、俺は風呂に入りそのままベッドに潜り込んだ。ドラゴン達には隣の部屋が空いているからそこを使ってもらうことにした。のだけど……
「ぴぃいいい~……」
このミニドラゴンは一向に隣の部屋に行こうとしなかった。それどころか俺の背中に捕まったまま一緒にベッドに入ってきた。
「…………」
「ご、ご主人様?」
その光景を見たフラウが大丈夫かと心配してくれていた。
「だ、大丈夫だ。問題ないから……」
いや、問題はあるか。色々と……。さっき寝る前に彼女が魔法でどうにかしようか? と聞いてきたがまた起きた時にタックルでもかまされちゃあたまらないのでもう諦めてこのままにしておくことにした。きっと今はこうだとしてもいつかは飽きて離れていってくれるだろう。ドラゴンだって成長しないわけではないだろうし、まだ子供だからこういうことしてくるだけかもしれないしな。っていうかそうであってほしい……。
「よし、んじゃ寝るぞー」
「ぴぃいい!」
「はい」
そんな二人の返事を聞いたあと、俺は目を閉じ意識を闇の中へと落としていった。
翌朝。俺はうなされていた。何だか知らんが体が重い。寝返りをうとうにも体を動かすことができない。これってまさか……あれか? 金縛りってやつか? いやでもあれって確か科学的に解明とかされてるんじゃなかったっけ? 脳が起きてて体が寝てるみたいなそんな感じだったと思う。ってことは俺の体が疲れてるってことなんだろうか。まぁ、色々あったし疲れててもおかしくはないか。とりあえず目だけでも開けよう。そう思いゆっくりと瞼を開ける。すると、まず俺の目に映ったのは……
「ぅにゅ~……ぅにゅ~……」
……何故か俺の腹の上に乗っかって寝息を立てているミニドラゴン。なるほど、体が重かったのはコイツが原因か。でも、体が全く動かないのはなんでだ? というか今気づいたが右腕に何か違和感が……そう思い顔を右に向けると俺は驚くべき光景を見てしまった。
「んぅ……」
「…………」
いつの間に潜り込んでいたのか俺の右腕にしがみつくようにして眠っているドラゴン(人間バージョン)の姿があった。
世の男性は朝起きたとき隣に美女がいたらどう反応するのだろう。それが一緒に寝てた相手ならまだしもいつの間にかいたらどうするのだろうか。まぁそんなことは人それぞれなので考えても分からないが、一つだけ今の俺に言えることがある。
「あぁ……やわらけぇ……」
しがみついているということは必然的にあの豊満なバストが当たってるわけだ。それが俺の右腕を見事に包み込んでいる。昨日も同じ感触を味わったが俺だって男なのだ。自然と心臓の鼓動が早くなっていく。だって今までこんなことなかったんだぞ!? そりゃあ世のイケメンやら彼女のいらっしゃる方々は体験したことあるかもしれませんが女性とあまり関わり自体がなかった男には貴重な体験なわけですよ!! いいじゃないですか感触を味わってみたって! 冴えない男にも分けてくださいお願いします!! そう俺が無駄なお願いをしていると不意に彼女が体制を変え始めた。
「んっ……」
「!?」
な、何か更に強く押し付けられてる。っていうか足が俺の体の上に乗っかってる!? や、やばい……どうしよう。朝から何なのこの展開。色んな意味で体に悪いよ!! 体に悪いよ!! 大事なことなので二回言いましたが何かああああああ!!
「んっく……ふぁああああ……」
そんな俺の激しい動揺が伝わってしまったのか、彼女は目を覚ましたようだ。何とも可愛らしい声を上げてゆっくりと目を開け始める。そして、彼女の方を見ていた俺の視線と彼女の視線が重なってしまう。
「おぉ、起きていたのか。おはよう」
「お、おはようございます」
普通に挨拶をされ思わず俺も返してしまった。いや、他に言うべきことなんてたくさんあるけど挨拶は大事だよ挨拶は、うん。
「えーっと……あなたはそこで何をしていらっしゃるのでしょうか?」
「ん? あぁ、これか? いやなに、せっかく一緒の家に住んでいるんだし一人で寝るのも寂しいなと思って」
寂しいなんて言葉が超似合ってないんですけど!! だってこの人ドラゴンだよ? 街の入口を滅茶苦茶にしたあのドラゴンだよ!? いや、まぁ仮に女性だしそういう気分にならないとも考えられないけどさ。うーーん……。
「それに、こうやって体を密着させてやると男は喜ぶものなんだろう?」
そう言って彼女はどこかいたずらっぽく笑った。
「どこでそんな知識を手に入れた!?」
「昔知り合った人間の魔術師がそう言っていたぞ。こうすると男は元気になるんだろ?」
「元気?」
……まさか……そういうことか?
「どうだお主も元気になったか?」
「い、いや……」
なんなのこの時間。天国なのか地獄なのかはっきりしてくださいいいいいい!! やばいよ、すげぇ汗かいてきた!! 色んな意味でとんでもない状況だよこれ!!
「にゅ……ぴぃいいいいい~……」
「お、チビ助も起きたな」
俺の腹の上に寝ていたミニドラゴンが大きく口を開け体を起こした。口を開けた瞬間ちょっと怖かった。そのおかげか少しだけ気分が落ち着いた。
「んっ……ふぁー……おはようございますご主人様……」
ミニドラゴンの鳴き声につられたのかフラウもむくりと体を起こした。ってフラウさんはできればもう少しだけ寝ていて欲しかったんですが。この状況を見られるのは少し気まずいんですよね。
「ふ、二人共おはよう」
「ぴぃい、ぴぃいいいい!!」
ミニドラゴンは朝から元気だなー。きっと寝起きがいいんだろうな。いいことだ。
そして、フラウはというと……
「ご、ご主人様……この状況は一体?」
こちらを見て首を傾げていた。まぁ、そうだよな。普通はまず聞くよな。
「フラウ、俺が言えるただ一つの事実はこうだ。起きたらこうなっていた。以上」
「そうなんですか……」
嘘は言ってないんだし別に大丈夫だよね。むしろはっきり言ったほうが清々しいよね。朝だけに。
その後、全員起きた俺達はリビングに座っていた。なんか朝から大変な目にあったきがする。そして、またもや貴重な体験をしてしまった。この温もり……忘れない。
「ご主人様? 大丈夫ですか?」
「へ? あぁ、大丈夫大丈夫。何も問題ないぞ」
うわー……フラウがどことなく怪しいものを見るような目で見ている気がする。もしかして顔に出てたか今の。だとしたら……うん、相当気持ち悪いな。
「いやーこうして人間と朝を迎えるなんて初めてだ。何だか面白いな!」
「ぴぃいいい!! ぴいいい!!」
何が嬉しいのかさっきからやたらとテンションが高いこの二匹。ほんとこいつら元気だなぁ。俺はあんまり朝に強くないから少しだけ体がだるい。
「あーはいはい、あんまり朝から騒ぐなよ」
俺は軽く二人をたしなめつつ今日はどうしようかと考え始めた。まずベイルが朝飯を作りに来てくれるだろ……って、あ! そういやベイルはこいつらがこの家にいることを知らないんじゃないか。あー……また面倒なことにならなければいいけどな。特にこっちの彼女のことを説明するのは面倒くさそうだなぁ。ミニドラゴンとは孤児院で面識があるはずだからいいとして、ドラゴンが人間の姿に変化しているなんて絶対に驚くよなぁ。
そう考えていたとき、俺はふと思った。
「そういえば、飯はいらないって言ってたけど朝飯はどうするんだ?」
「あぁ、それなら問題ないぞ。私とチビ助で狩りに行ってこようと思ってる」
「狩り?」
「ぴぃ?」
いやお前も首を傾げるなよ。これからお前と行くって言ってんだから。
「恐らくこのチビ助はまだ親から狩りの仕方を教えてもらっていないだろう。となるとこれからコイツには自分の食料を確保する術を教え込まなくてはならない」
「俺達が食べる飯なんかじゃダメなのか?」
「人間が食べる食料じゃあチビ助の腹は満たされないぞ? 何せ我らは人間が食べる量の数十倍は食べるからな」
す、数十倍って……マジかよ。俺、昨日一緒に飯食えたらとか思ってたけど絶対に無理じゃん。
「それに、自分で食べるものくらい自分で何とかできないといつまでも自立させることができないしな。だから最低限これだけは教えておかなければならない」
「なるほどねー」
自分で食べるものくらい自分で何とかかぁ……。あれ? 俺、自分でなんとかできてなくねぇか? ……ベイルに料理でも教わっておこうかなぁ。自分のためにも。
「じゃあ、朝はお前達はいないんだな」
「あぁ、まぁそんなに長くはかからないと思うがな」
「ぴ、ぴぃいい!! ぴぃいいいい!!」
ん? なんだ? ミニドラゴンが俺の脇でぴょんぴょん跳ね始めた。何だ、トイレか?
「ん? 彼と離れたくないだって? 駄目だ、こればかりはお前にも覚えてもらわなければならない」
「ぴぃいいいい!!」
「駄目なものは駄目だ。それにこれはお前のためでもあるんだぞ? お前だって彼に迷惑をかけたくはないだろう?」
「ぴぃいい……」
彼女にそう言われたミニドラゴンはしょぼんと顔を俯けてしまった。どうしよう、なんて言ってるのか全然わからないからどうしてしょぼくれてるのかもわかんねぇ。何となく声のトーンではそういうのわかるんだけどな。
「ま、まぁほらお前のために必要なことみたいだし頑張って行ってこい。な? 帰ってきたらいっぱい遊んでやるから」
そう言うとミニドラゴンは俯けていた顔を上げこちらを見上げながら首をかしげた。
「ぴぃいいい?」
多分これは……本当に? てきな感じだろう。よくは分からないがそんな気がする。
「おう、だから少しだけ頑張ってこい。な?」
「ぴぃいいいい……」
そう頭を撫でながら言うとミニドラゴンは目を細めつつ渋々といった感じでこくんと頷いた。何だか子供をあやしてるみたいだな。見た目はモンスターなんですけどね。
そう思った時だった。突然、玄関の方から誰かが扉をノックするような音が聞こえてきた。もしかして、ベイルかな?
「はーい! 今行きます!」
俺はリビングを後にし玄関に向かう。
「どちら様ですか?」
念の為に俺は扉の外から誰が来たのかを伺った。ベイルならとりあえず中に入ってもらおう。それから色々説明すればいいよな。そう思っていた。
しかし、そこから帰ってきた返答は俺の予想を完全に裏切るものとなった。
「こちらは荒崎様のご自宅でよろしいでしょうか?」
え? 誰だこの人? 扉の外から聞こえてきたのは少し老いを感じさせるような男性の声だった。俺の知り合いに今のところその声と当てはまるような人はいない。
「そうですけど……」
俺は怪しみながらもとりあえずそう返してみた。
「左様でございますか。私、国王様の命により城から参りました執事のものでございます」
国王様? 一体どういうことだ? まさか昨日のことで呼び出しでもくらったのか俺? 警戒をしつつも玄関の扉をゆっくりと開ける。するとそこには……
「おはようございます、荒崎様」
家の前に立派な白い馬車と数人の兵士達がまるで道を作るかのように立っていた。えーーーーーーと……これは一体?
「いきなりお尋ねしてしまい申し訳ございません。実は、国王様がどうしても荒崎様とお話されたいことがあるということで、大変失礼なこととは存じますがご一緒に来ていただけますでしょうか?」
「は、話したいこと?」
どうやら今日も朝からイベント盛りだくさんみたいです。
すいません! 色んな都合が重なって中途半端な時間に投稿してしまいました。申し訳ありませんでした。
後、こんなところで言うのもアレなのですがpvが400万、ユニークが100万を超えました。皆様のおかげでございます。本当にありがとうございます。これからもゆっくりではありますが気長に付き合っていただけるとありがたいです。




