新たな同居……人?
お願いします。
とにもかくにも一段落だな。はぁ~……本当に今日は色々ありすぎた。1日の間にイベントが起こりすぎだろ。平穏な時間はどこ行ったんですか! お願いだから帰ってきてくださいお願いします!
「あの、ご主人様? 大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫。ちょっと疲れただけだ」
主に精神的にね。人からあんな明確な敵意を向けられたのは初めてだったからなぁ。正直な話、殴りかかられそうになったときちょっとだけビビったし。いや、だって痛いのは誰だって苦手でしょう? そうでしょう? 熱血漫画みたいな男同士の殴り合いで血みどろ展開はノーセンキューなんです。……まぁ、どちらにせよそんなことはしないけどね。
「ぴぃいいい!!」
「ん? ぬがっ!」
俺がそんなこと考えていたとき、後ろからミニドラゴンが飛んできたかと思えば俺の頭に勢いよく捕まってきた。しょ、衝撃が……脳が揺れるううう!
「本当にお主はチビ助に好かれてるな」
いつの間にか近くに人化したドラゴンも来ていた。好かれるのはいいけどその好意をもう少しオブラートに包んでくれませんかねぇ……。このままじゃいつか俺の体をズタボロにする勢いで突っ込んできたりするんじゃないだろうか。……そんなのは勘弁願いたいな。うん。
「うにゅ~……きゅ~……」
「完全に甘えているな。まぁ、まだまだ子供だからな仕方あるまい」
「…………」
あ、頭の上でスリスリされましても……。お、重い……。試しに離そうとしてみたが、がっしり捕まっているようで全然剥がれなかった。何か見ようによっては斬新なデザインの帽子にでも見えるんじゃないだろうかこれ。いや、そんなものを着こなすセンスは俺にはないけどね。
「ご、ご主人様? その頭に乗ってるのって……もしかして」
「へ? あ、あぁこいつら? そう、今朝俺のことを連れて行ったあのドラゴン達だよ」
「達?」
フラウが不思議そうな顔で首を傾げる。あ、そうか。フラウは彼女がドラゴンの姿から人間の姿に変身できることを知らないんだっけか。どうしようかな、一応軽く説明しといたほうがいいよな。
「えーとなフラウ。ここにいる女の人は実はあの時のでかいドラゴンなんだ。俺もよくは知らないんだけど、何か魔力? とかをたくさん持ってるらしくて色んな魔法を使えるらしいんだ。それを使ってこの姿に変身してるらしい」
「そ、そんなことができるんですか……」
「俺も最初はびっくりしたけどな。そういうことらしいんだ」
フラウに説明している時、俺も改めてとんでもねぇなと思った。人間の姿に変身とか本当、映画の中の世界だもんなぁ。それが目の前に普通にいると思うと何とも言えない気分になる。まぁ、この世界自体が映画の中の世界みたいなもんだしな。今はこんな風に色々気になるけどその内全然何も思わなくなる日が来るんだろうな。多分……。
「ほう、これがお主が探していた相棒というやつか。中々可愛らしい見た目をしているじゃないか。それに人の言葉を喋るとは、何とも変わった生き物だな」
いや、それをあなたが言っちゃいますか? フラウ以上に変わってるあなたがそれを言っちゃいますか!? レベル的にも結構いい勝負だと思うぞ。
「あんたらも人のこと言えないと思うけどなぁ……」
「ん? そうか? まぁ、そんな些細なことはどうでもいいじゃないか。とにかくこれから宜しくな。相棒殿」
「は、はぁ……」
些細なことねぇ……。よくよく考えてみれば俺の周りに着々ととんでも生物たちが集まってきてる気がする。おかしいな……俺の平和な日々にこんな刺激はなかったはずなんだけどな。本当、どうしてこうなった……。そう考えていた時だった、
「あ、いた!! お兄ちゃん!!」
「あれ? イホーム?」
馬車に乗ったイホームがこちらに向かって手を振っていた。その後ろにもいくつか同じ馬車が連なるように走っている。恐らく城の兵士達が何人か乗り込んでいるのだろう。そんな馬車達は俺達のいる場所の前で止まり、中からイホームと城の兵士達がぞろぞろと出てきた。イホームはこちらの方に来たが、他の兵士たちは倒れた馬車を起き上がらせようと作業に取り掛かろうとしていた。
「お兄ちゃん達大丈夫だった?」
「なんとかな。とりあえず皆無事だよ」
「そう、よかった」
イホームはホッと胸をなでおろした。いくらか肩の力が抜けたってとこかな。
「ところで……お兄ちゃん。その頭に乗ってるのは?」
ですよね、そこに突っ込みますよね。むしろ突っ込んでくれてこっちもホッとしたよ。ついでにどうにかしてくれるともっと嬉しいんだけどな。
「え、えっと……色々ありまして。とりあえず気にしないでください」
「ぴぃいい?」
おいそこ、呑気な鳴き声をあげるんじゃないよ。なに自分じゃないよね? みたいな感じでいこうとしてるんだよ。違和感すごいんだぞこんちくしょう。
「な、なるほど。色々ね。とりあえず……わかったよ」
流石は王宮専属の魔術師様。理解が早い子で本当助かりますです、はい。
「あ、それよりもあの子は? レミはどこに行ったの?」
「レミアムさんならさっき駆けつけた城の兵士たちに拘束されて連れて行かれたよ」
イホームはそれを聞いて顔を少しだけ俯けた。もしかしたら連れて行かれる前に何か話したいことでもあったのかな。
「そう……。彼についてはこれから魔術協会で処分を下されると思うわ。まぁ、只では済まないと思うけどね」
イホームは眉間に皺を寄せ何ともやるせなさそうな表情でそう言った。自分の教え子がこんなことになったんだ。きっと色々な感情がイホームの中で渦巻いているんだろう。
「……そうか」
だから俺は一言そう返しておいた。それ以上の言葉は思いつかなかったし言う気にもならなかった。下手な慰めなんてきっとウザったいだけだろう。そう思っていた時、不意にイホームはこちらに向かい合うように姿勢を整えた。何だ? どうしたんだ? そして、俺と視線を合わせるようにこちらを見上げた。
「あのお兄ちゃん、フラウちゃんも今回は本当に私の生徒が酷いことをしました。謝って済む話じゃないけど、でも……本当にすいませんでした!」
イホームは勢いよく頭を下げた。なんでだろうか。こっちの世界に来てから本当にやたらと人に頭を下げられている気がする。ここに来る前はむしろこっちが頭を下げることのほうが多かったきがするんだけどなぁ。まぁ、今回に関しては彼女も責任を感じての事なんだろうが……それでもやはり俺は人に頭を下げられるのは好きじゃない。
「終わったことをいつまでも言ってたってしょうがないしな。だから、頭を下げるのはそれで最後にしておけよ。な?」
「そうです、イホームさんが謝る必要はないですよ」
フラウも俺に続いてそう言った。甘いって言われるかもしれない。でも、それが俺なんだと思う。それによく言うだろ? 終わりよければ全て良しってさ。
「……うん、ありがとう。お兄ちゃん、フラウちゃん」
礼を言われるようなことを俺はしたのかねぇ。もっと俺がイケメンならかっこよさもアップしたんだろうが……悔しいのぉ……悔しいのぉ……。
そう俺が一人、ネガティブ思考で悔しがっている時ふとあることを思い出した。
「あ、そういえばディアさんは? ディアさんはどうなったんだ?」
レミアムに捕まっていたらしいがあの馬車の中にはディアさんの影はなかった。ということはどこか別の場所に捕まっているかもしれないことになる。
「えーと実は、ディアは城のトイレの用具室の部屋の中に閉じ込められてて……睡眠の魔法をかけられてたから今はそのまま寝かしてある」
「よ、用具室って……」
ディアさん、本当に散々な目に遭ってるな。今度会うときは何か差し入れを持って行ってあげよう。
「にしてもレミアムは本当に人質をとったわけではなかったんだな」
「うん、きっと最後の良心ってやつがまだあったんじゃないかな?」
最後の良心ねぇ……。それが残ってるのならまた彼はやり直すことができるのだろうか。それは、神のみぞ知るってところなのかな。
その後、城の兵士たちにあの馬車は回収され、今日のことはまた後日話すということになり解散することになった。その際に、このドラゴンがやった地面の損傷と門や看板のことも色々と話すことになった。
「色々と派手にやったんだね……」
イホームはしょうがないとは言ってくれたが一体どうなるのかは分からないそうだ。もしかして、何かしらの処分がくだされるとかあるのかもしれない。今から色々と不安だ。
そして、もう一つ不安なことがある。それは……
「ぴぃい!! ぴぃいいい!」
「おぉ、これがお主の家か! 結構しっかりしているじゃないか」
「あ、あのご主人様?」
「…………」
この人達、家まで付いてきちゃった!! 何か知らんけど成り行きで付いてきちゃったよ!! 相変わらずミニドラゴンは頭の上に乗ってるし、そんでもって二人共何か家に着いたら急にテンション上がってるし! もう何なの!! っていうかこのチビ助はいつまで俺の頭に乗ってるの!? いい加減暑苦しいんですけど! 誰か助けてください!!
「あの~……何でここまで付いてきてるんでしょうか?」
「何でって、決まっているだろ。いつかお主と私達は一緒に住むのだ。だから自分の住処くらい把握しておかねばならないだろう?」
「ぴぃ!!」
えーーーーーと……あなたたちまだそれ諦めてなかったんですか。というかもう住む気満々なんですか。いや、そりゃね。見た目はあんなに美人さんだし、魅力的な姿をした女の人と一緒に住めるとなれば普通はウハウハなんだろうけど……そもそもあんたら人間じゃないじゃない。ドラゴンじゃない。何か希少種とかものすごい貴重な種族なんでしょ? そんな貴重な存在が俺みたいな平凡な男と暮らしたらあかんですって。
「ご主人様、これは一体どういう」
「さぁな、俺にもよう分からん」
「な!? 何を言ってるんだ! 私達はきちんと言ったはずだぞ! お主と一緒に住みたいと!」
「ぴ、ぴぃいいぃいい!!」
「いや、確かに聞いたよ? 聞いたけどさ、そんな簡単に一緒に住んでいいですか? はい、いいですよ。って訳にもいかないだろう!?」
ましてや俺はこの世界に来てまだ数日だぞ。色々と知らないことも多いし余裕だってそんなにあるわけじゃない。え? そこは男の気概を見せろって? 気概でどうにかなればこんなに悩んでないんですよ!! それにそんなものは俺にはあまりないのですよ!! ここであまりということで全く無いわけではないことを確認したのは秘密です。
「なら、どうすれば私達のことを迎え入れてくれるのだ!」
「だからああああああああ!!」
その時だった、俺の頭の上に何か生暖かいものが落ちてきた。それはまるで水滴のようにポツポツと落ちてきている。
「ぴ、ぴぃいい~……みぃいい~……」
「い、いぃいいい!?」
何これ、まさか……コイツ泣いてる? え、っていうかドラゴンって涙流せるの? そもそも泣くの?
「お、おい。ちょっ、何泣いてるんだよ」
俺はミニドラゴンの体に触れようと手を伸ばす。
「ぴぃいいいいい!!」
が、それがコイツのことを引き離そうとしていると思ったのか、まるでイヤイヤをするように首を左右に振り更にきつく頭にしがみつき始めた。
「いや、痛い痛い痛い痛いいたああああああい!!」
食い込んでる! 食い込んでるから!! 爪の部分が食い込んでるからああああああ!!
「分かった! 分かったから一旦落ち着け! な!」
そう言うとミニドラゴンは捕まる力を緩め、再び俺の頭に顔をこすりつけてきた。あ、焦った……。小さくてもやはりドラゴンってことか。力は凄まじいってことを身をもって体感しました。
「ご主人様、どうするんですか? このままでは話が進みませんよ?」
どうするって言われても。どうしたらいいんでしょうか? 逆に教えてください。
「お主はどうしてそこまで私達と一緒に住みたくないんだ?」
「どうしてって……そりゃあ余裕がないし、あんたらのことよく知らないし」
「余裕がないとは金銭のことを言っているのか? それならば問題は無い。私達は食事などは外で狩りをすればいいし、衣服なども魔法を使えばどうにでもできる。チビ助に関しては衣服の必要もないしな。お主の金銭事情に関わることは全くないぞ。それに私達のことをよく知らないと言うならばこれから色々と知ってもらえればいい。無論、私も色々と教えるしお主の迷惑になるような行為はなるべく控えるようにする。お主の生活のサポートだってもちろんさせてもらうつもりだ」
「…………」
生活のサポートねぇ。ある意味、今の提案は俺が懸念していた問題をほとんど解消している。俺と一緒に住むためにそこまで色々と考えていてくれるのも正直言えば少しだけ感激した。
「なぁ、どうだろうか? これでもお主は私達と共に暮らすのが嫌か?」
近づいて来た彼女が俺の腕を掴み引き寄せる。そのせいで俺の腕は彼女の柔らかい胸に挟み込まれていった。
ぬおおおおおおお!? な、何かすごい柔らかいんですけどおおおお!! こ、これが……お、女の人の……。いや、人じゃない。人じゃないんだけどおおおお!!
「頼む、お主のためならなんでもする。だから私達を……お主のそばにいさせてくれないか?」
若干、上目遣いになりながらそう彼女は言ってきた。その言葉に俺の中の天秤が激しく揺れる。ぐ、ぐぬぬぬぬぬぬ! どうする!? どうすればいい!! 俺の天秤はどっちにかたむけばいいんだぁああああああ!! そんな葛藤を頭の中で繰り広げる。既に天秤は壊れているんじゃないかという速さで傾きを繰り返していた。そして、ついに結論が出ることになった。その結論は……
「……った」
「え? なんだ?」
「だぁああああああ!! もう、分かったよ!! あんたらがここに居たいっていうなら好きなだけいればいいよ!!」
「ご、ご主人様……」
すまない、フラウよ。俺の天秤は誘惑には勝てなかったよ……。
「い、いいんだな? ここにいてもいいんだな!?」
「はぁ~……あぁ、でも快適な生活は保証できないからな」
俺がそう言うとミニドラゴンと彼女はお互い抱き合うようにして歓喜の声を上げた。あ、ようやく頭から離れてくれた。
「はぁ、ゴメンなフラウ」
「何がですか? 私はご主人様の判断に従いますよ。それに、何だか賑やかになりそうでいいんじゃないでしょうか?」
賑やかにか。その限度もある程度だといいんだけどな。
という訳で我が家に新たな住人が出来ることになりそうです。本当にこの家どうなるんですかね。
「あ、髪の毛抜けた……」
……とりあえず、頑張ろう。
次回予告
共に暮らすことになった荒崎とドラゴン達。果たして彼の明日はどうなっていくのか。そしてドラゴンの新たな秘密が明らかになる。
次も早めに更新したいと思います。




