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事件の終わり

お願いします。

やばいぞ、このままじゃ逃げられちまう。早くなんとかしないと。でもどうやって止めりゃあいいんだ? この馬車を止めるにはまず何をすればいい。落ち着け、落ち着いて考えるんだ。

馬車の動力源はあの馬だろ。ってことはあの馬さえ止めることができればこの馬車も止められるよな。でもあの馬の周りにも変な赤いオーラがまとわりついてるし、こっちから触ることはできないよな。ってことは方法としてはこの馬車が突破できないような行き止まりかなんかを作るか、もしくは……馬が走れないようになる障害とかを用意するしかないよな。行き止まりか障害か……っていうか、自分で考えといてなんだけどそんなもんどうすれば作れるんだ? 残された時間は少ない。もちろん材料なんて用意してる暇もないわけで。

そうこう考えている間に街の入口が遠くにうっすらと見えてきた。やばい、このままじゃ本当に逃げられる。考えろ、この状況を打破する最善の方法!

行き止まりを作るためには何が必要だ? 簡単に考えれば頑丈で大きなものだ。例えば壁みたいな。障害はどんなものがあればいい? 馬がこれ以上進もうとしたくなくなるものだ。つまり馬にとって驚異になるものだ。そのどちらも兼ね備えられているもの。驚異になってでかいもの。でかいもの、でかいもの…………ん? でかいもの? 


「あっ、あった」


障害と驚異そのどちらも兼ね備えているもの。割とすぐ近くにありましたよ!! 


「チビ助!! もう一回上に!! あのドラゴンの背中に戻ってくれ!!」


「ぴ、ぴぃいい!!」


なーんですぐに気づかなかったんでしょう。ものすごい頼りになる助っ人がいるんだから活躍してもらわない手はないよな。……だとするとこの時間ずっと無駄だったよな。なに俺、勇気を出して空中ダイブとかしてたんだろ。滅茶苦茶恥ずかしくなってきた。と、そんないらぬ恥を後悔しつつ再びドラゴンの背中に戻ってきた。


「ム、ドウシタノダ? アノ馬車ヲ止メルノデハナカッタノカ?」


「そ、そうしようと思ったんだけど……俺たちには無理なことが判明したのであなた様のお力を借りようと思いまして……」


「フム、我二ドウシロトイウノダ?」


「今から街の入口の前に降りてくれ。そこで奴らの通行を妨げる。お前さんのでかい体なら入口を完全に封鎖することもできるだろ。それと、あの走ってる馬達のことを威嚇して怯ませて欲しいんだ」


街の人たちの反応を見る限りドラゴンという存在は脅威的で恐れられている印象を受けた。人間にも恐れられている生き物ということはそれだけ生態系の中でも上位に位置する場所にこいつらはいるのだと思う。そんな奴らが全力で威嚇でもすれば向こうもわざわざこちらに突っ込んでこようなんてことはしないのではないかと考えた。ましてや相手は草食動物だ。自分よりもはるかに強い相手に好戦的になるとは考えにくい。しかし、この俺の考えはあくまでも推測である。もしかしたらそのまま突っ込んでくる可能性もあるだろう。でも、仮にそうなったとしても彼女のあの多彩な魔法と力があればきっと進行を妨げることもできる……はずだ。いや、確信があるわけではないのだが、きっと大丈夫だと思う……多分。


「できるか?」


俺のその問いかけに彼女はちらりとこちらを一瞥するとフンと軽く鼻息を鳴らした。


「我ヲ誰ダト思ッテイルノダ? ソンナコトタワイモナイ」


おぉ、何とも心強いご回答で。流石はドラゴンってことですかね。それなら早速ご活躍してもらおうじゃありませんか! 俺達は街の入口めがけて急降下を始めた。






という訳で街の入口に到着したのはいいのだけど……これ大丈夫かな? 色々と。

まずここに着いた時この門を見張っていた城の兵隊が数人いたのだが、このドラゴンのあまりの迫力に相当驚いたのかこちらの話に耳も貸さずに何処かへと逃げていってしまった。そりゃそうか、いきなりこんなのが空から落ちてきたらそうなりますよね。何か悪いことしちゃったな。 

そんでもってこのお方、何か勢い余って門とか破壊しちゃったりしないかな? というのもここに着いてからこのドラゴンさん異様に張り切ってるんだよなぁ。口から時々火のブレスみたいなのが飛び出してるし……お願いだからやりすぎないでね? 止めるだけでいいんだからね? 火炎放射で街中焼いちゃいましたとか絶対ダメだからね? 事前にそうお願いしてはおいたのだが


「大丈夫ダ。心配スルナ」


そう一言だけ言われた。心配するなというのならその火のブレスを何とかして欲しいんですが……まぁ、やる気を削いでしまうのも悪いのでそれ以上は何も言わないでおこう。

そんなことよりもそろそろ奴らがここに到着するはずだ。今一度気を引き締めておこう。ここを突破されたらますます面倒なことになる。それだけは絶対に避けなきゃいけない。フラウはここで助け出す。必ず!


「来タゾ!!」


そう言われ視線を前に向けるとあの馬車が全力疾走でこちらに向かってきていた。あの場所から入口まではもう馬車が通れるような大きな通路はない、ほぼ一直線だ。つまり逃げ道はない。


「さぁ、そのまま突っ込んで来い」


向こうはこちらの存在に気づいているのかいないのか分からないが、見た限りではスピードを緩めそうな気配はない。このまま突破する気なのか? だが、そんなことはさせない。


「頼んだぞ。あの馬車を……奴らを止めてくれ!」


そして、いよいよその距離も数百メートルくらいにまで近づいて来た。その時だった、


「チビ助!! 彼を守れ!」


「ぴぃいいいい!」


彼女の指示で俺の体がミニドラゴンの翼で覆われた。とたんに視界が暗闇に包まれる。ってこれじゃあ何にも見えないじゃねぇか! 彼女は一体何をするつもりなんだ? そう思った時、外から何か凄まじい咆哮のようなものが聞こえてきた。覆われた翼の中から微弱だが確かに振動も感じる。どうやら彼女が馬達に対して威嚇行動を行っているようだ。けれど、何も見えないので外がどうなっているのかは全く分からない。果たして作戦は成功したのだろうか? 気になってしょうがない。ミニドラゴンに俺を守れって言ってたから相当すごいことをしてくれたんだろうけど……。彼女のスケールは何事も壮大だからなぁ。まさか……馬車を吹き飛ばしてたりはしないよな? …………早くここから出してくれないかなぁ!! ソワソワが止まらないんですけど! 別に楽しいこと何もないんだけどなぁ!! ちくしょうめ!!

そう俺がぐるぐると考えていると突然、俺を覆っていた翼がどかされ外の景色が見えるようになった。その瞬間、俺は心臓の鼓動をバクバクと鳴らせながら祈るような気持ちで前を覗き込んだ。




すると、そこには…………地面にできた大きな窪みに横たわる馬車と馬達がもがきながらも起き上がろうとしている光景が広がっていた。


「と、止まってる?」


せ、成功した。馬車を止めることができたんだ! 何か地面がひび割れてたり門とか看板とか色々吹き飛ばされてたりするけど、とにかく成功したんだ!! 


「マァ、コンナモノダナ」


どことなく自慢げな口調でドラゴンはそう呟いた。いや、まぁ成功してるんだし言うことないんだけど……若干やりすぎかなドラゴンさん。色々吹き飛んじゃってるし、地面にヒビ入ってますし。門とかあれもう絶対にダメだよね。あらぬ方向に曲がってるよね。看板なんてかの字も無くなってるしね。これは後々謝らないとダメだよなきっと……。


「って、それでころじゃない! フラウ!!」


横たわった馬車の中にはフラウが乗っているはずだ。すぐに助けてやらないと! 慌てて背中から降りた俺は馬車まで駆け寄った。相変わらず馬達は起き上がろうとしていたが足を怪我でもしたのか中々うまく立ち上がれないようだ。後で治してやらないとな。


「うっ……ぐっ……」


ん? この声は。聞こえてきた方を覗き込んでみるとそんな馬達の横に仰向けの状態でレミアムが倒れていた。馬車から投げ出され体を強く打ったのだろう。苦しげな声を出している。とりあえず今はあのままにしておこう。下手に手を出されたら困るしな。それよりも今のうちにフラウの安否を確かめたい。俺は馬車に近づくと周りにあの赤いオーラがないかどうかを今一度確かめる。よし、もう消えてるな。安全を確認し俺は馬車の扉を開けた。


「フラウ!! 大丈夫か!!」


「ご、ご主人様?……」


そこには弱々しい声で反応を示すフラウの姿があった。あの鳥籠のような檻は消え去っていて、とりあえず体にも大きな外傷はなさそうだ。反応できるってことはとりあえず意識ははっきりしてるな。ほんの少しだがほっとした。


「待ってろ、今出してやるからな」


体を乗り出しフラウの体を支えるように持ち上げる。なるべくフラウが辛い体勢にならないように心がけながらゆっくりと外へと引っ張り出していく。こういう時、軽々と持ち上げられたらかっこいいんだろうな。……俺に筋力をください。

そして、完全にフラウの体が馬車の中から降ろされた。優しく横にさせると俺は力を使いフラウの治療を早々に開始した。


「レイズ!!」


いつものようにあのフレーズを唱え、フラウの体は一瞬で全快にまで回復した。とりあえずこれでひとまずは安心だな。


「フラウ、大丈夫か?」


「は、はい。もう平気です」


よし、じゃあ後は……。あいつらだな。馬達は別に治してやるのは問題ないだろう。問題は……


「あんただよな。レミアムさん」


俺がそう声をかけると凄まじい目つきで睨み返してきた。こんなになってまで敵意丸出しですかこの人は。こんな状態の人間を果たして治したらどうなるか。想像しなくても結果は見えている。悪いけど俺は自分に危害を加えてくる可能性のある人間をホイホイ治してやれるほどお人好しな訳ではない。第一そんなことをしてもデメリットしかないのだから言わずもがなだ。


「一応聞いておく。大丈夫か?」


「君は自分が何をしているのか分かっているのか? この研究が途絶えれば治療法の進展は無くなるかもしれないんだぞ?」


「治療法? 只の違法実験の間違いだろ?」


「ふっ、何も分かっていないな凡人が。私の研究は必ず将来役立てられる。何も知らない脳無しが口を挟んでいいことではないんだよ!」


脳無しねぇ……確かに俺は頭はよくない。それにこの世界に来たばかりでどんなことが起こっているのかもよくは知らない。もしかしたらこの人だって今まで散々苦労して遠回りしてここまでたどり着いたのかもしれない。それを失いたくない気持ちは痛いほどわかる。そんな苦労も遠回りも今まであまり経験したことのない俺が言う言葉は彼にはきっと届かないだろう。でも、これだけは言っておこうと思った。


「確かにあんたが今まで苦しんできた人達のためにやろうとしてきたことは素晴らしいことかもしれない。でもな、あんたが実際にやってしまったことは間違ってる。例えそれが将来のためになるとしてもな」


そんな俺の言葉を聞いた彼は血が滲むのではないかというほど拳を力強く握りしめていた。


「お、お前なんかに何が分かる!!」


彼は勢いよく起き上がりこちらに掴みかかろうとする。しかし、その体はこちらに届くことなく途中で崩れ落ちてしまった。どうやら体のダメージは抜けきっていないようだ。


「クソッ!! クッソオオオオ!!」


彼は悔しそうにそう叫びながら拳を地面に叩きつけた。そんな時、遠くから誰かが走ってくる音が聞こえてきた。振り返ってみれば鎧を着た城の兵士達が数人こちらに向かって走ってきていた。





それから少しして彼は集まってきた城の兵士たちに拘束され連行されていった。悲痛な叫び声を上げながら連れて行かれる彼を見送りながら、俺は複雑な思いとともに終わったのだという実感を噛み締めていた。



次回も早めに投稿したいです。あと、時間が少し過ぎちゃってすいませんでした。次回からはまたほのぼのとした回にしていきたいなぁ……

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