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逃走劇

前回のあらすじ

本性を表したレミアムはフラウを誘拐しどこかへと消えてしまう。特性のしびれ薬で動けなくされ、絶体絶命の彼らにドラゴンたちの救いの手が伸びる。そんな彼女らのおかげで動けるようになった荒崎達はいっせいにフラウ達の捜索を開始した。

あー……もうなんでだろう。なんで俺高いところ苦手なのにまた空中に浮いてるんだろう。もうこれを機に高所恐怖症治らねぇかな。


「ぴぃい! ぴぃいい!!」


そんな俺の気も知らないでミニドラゴンはどこか楽しげに聞こえる鳴き声を上げた。多分こいつはこれから何か楽しいことが起こるかもくらいにしか考えてないんだろうなぁ。いや、本当に楽しいことならどんなに良かったことかって話なんですけどね。


「おい、チビ助! そこから少し離れていろ!」


いつの間にか窓枠に立っていた彼女がこちらに向かってそう叫んだ。ミニドラゴンは言われた通り先程飛んでいた場所よりもさらに高く、そして後方へと移動した。後方に行くのはいいんですけど更に高く飛び上がる必要はあるんですかねぇ……。


「よし、行くぞ!!」


彼女がそう言い放ちひと型の体のまま外へ飛び出した。そしてその瞬間、神々しい程の光に包まれたかと思えばその体が一気に膨張しあの凛々しい姿のドラゴンがその場に現れた。まぁいつ見ても迫力満点なお姿ですこと。さっきまであんな女性の姿をしていたなんて未だに信じられないもんなぁ。


「サテ、ソレデハコレカラドウスル?」


「えーっと、とりあえず街の方に行ってみよう。多分まだそう遠くには行ってないはずだから」


「ワカッタ、オイチビ助! 彼ト一緒二我ノ背中二乗レ」


「ぴぃいい!」


その指示通りミニドラゴンは彼女の背中にゆっくりと着陸した。俺もいつぞやのようにその硬いウロコで覆われた背中の上にしがみついた。


「シッカリ掴マッテイロヨ!」


俺達が乗り込んだのを確認した彼女は勢いよく翼を羽ばたかせ、急上昇するとそのまま街の方めがけて全速前進を始めた。

先程飲み込んだドラゴンの鱗のおかげで浮遊感などの違和感は全くなくなっているが、それでも完全に恐怖心が消えたわけではない。叫び声の一つでも上げてやりたがったが今はそんなことをしている暇はなく、とにかくフラウを見つけることに集中しようと俺は体を少しだけ乗り出し遥か下の方に見える街中に目を凝らした。この中から見つけるっても結構広いんだよなぁこの国。どう探せばいいものか……。っていうか高すぎて街の中の様子がよく見えねぇなこれ。


「あ、あのさ!! 悪いんだけどもっと街の方に近づいて飛ぶことってできないか?」


「近ズケバイイノカ?」


「あぁ、出来れば街中の様子が見えるくらいまで近づいてくれ!!」


俺がそうお願いするとドラゴンはこくりと頷き一気に高度を落とすように降下を始めた。それはさながら絶叫系アトラクションなんてものではなく、もはやスカイダイビング並の衝撃体験だった。もちろんそんな急降下に俺の精神が耐えられるはずもなく……


「うぃいいいいいい!! そんな急降下しなくてもぉおおおおおおお!! あああああああああああ!!」


そんな俺の叫び声が空中に響き渡っていた。いや、これは無理ですよ!? 何も言われても構いませんが無理ですよこれは!! 叫ぶなって言う方がどうかしてますよ!? だから俺は悪くない! もうそう思ってないとやってられませんです、はい……。

でも、そんな急降下のかいもあって先程よりもかなり街中の様子がはっきりと見えるようになった。なったのだけど……。


「お、おい! 何だあれ!?」


「あれって……まさか!!」


「ド、ドラゴン!! なんでこんなとこに!!」


「に、逃げろ!! 逃げろおおおおおおお!!」


今度は近すぎてドラゴンの姿を見た街の皆さんがパニック状態になり一気に混乱状態になってしまった。


「お、おい!! これは近すぎ!! もう少し上、上!!」


「モウ少シ上? 全ク注文ガ多イナ……」


いやそんなやれやれみたいな感じで言われても……俺別に悪いことは言ってないんだけどなぁ。いつか彼女には程々というものを教えてあげたほうがいいかもしれない。


そして、程よい高さまで上昇した俺達は再び街の上空を飛び回った。陽が沈みかけ、街の中で所々明かりが灯り始めている。まずいな、このままだとどんどん見つけにくくなる。早く見つけないと。そんな焦りが時間とともに積もっていく。しかし、そんな思いとは裏腹にフラウの姿はどこにも見えない。やはりもうここにはいないのか。だとしたら今から見つけるのはかなり厳しくなる。このまままたフラウはあいつの実験台にされて……。

……いや、そんなことは絶対にさせない。あいつをこれ以上好きなようにはさせない。絶対に見つけてみせる。そう自分を奮い立たせ再び街中に視線を落とした。その時、俺は少し気になる光景を目にした。


「あれって……」


イホームが街中に手配した城の兵士たちが同じ場所に向かってせわしなく動いていくのが見えた。あんなに慌てて何かあったのか? 少し気になった俺は彼らの後をつけてみようとした。もしかしたらフラウのことで何か見つけたのかもしれない。そう思った時、街中から突然紫色の光のようなものが浮かび上がったのが見えた。


「な、なんだ?」


その光が見えた方に視線を向けるとそこには先程追いかけようとしていた城の兵士たちがぞろぞろと集まっていた。

何か小屋のようなものを取り囲むようにしている。もしかして……あそこにフラウ達がいるのか? 

俺達もその小屋の上まで移動し少し様子を見てみることにした。その間にも城の兵士たちが続々と集まってくる。そんな物々しい空気に周辺にいた住民たちもいつの間にか皆いなくなってしまった。

そして、包囲が完了したのか兵士のうちの一人がジリジリと小屋に近づき扉の前で何か指示を出し始めた。周りの兵士が何人かその指示通りに素早く動く。まるで映画とかで見た特殊部隊みたいだな。

全員の移動が完了すると、ついにその扉を開けるため兵士が手を伸ばし始めた。その時だった、突然凄まじい衝撃音と共に小屋が一気に弾け飛び、扉の前にいた兵士を含め数人が吹き飛ばされた。


「うお!?」


そして、その吹き飛んだ小屋のあとから勢いよく何かが飛び出していった。それは崩れてしまった兵士達の包囲網の間を見事にすり抜け街中の方へと駆け出していく。


「おいおいおいおいおい、何だよあれ!」


そこにいたのは一つの馬車だった。しかし、只の馬車などではなくその周りにはまるで装甲のような赤いオーラを放っている。そんな馬車が街中の通路を爆走していたのだ。行き先は恐らく街の出口だろう。このまま逃げ切ろうってことか。


「マズイな。なぁ、頼むあの赤い馬車を追いかけてくれ!」


「ワカッタ!!」


俺達も後を追うようにその馬車を追いかける。速さとしてはこちらの方が上なのですぐに追いつくことはできたが、このままでは近づくことができない。こんな馬鹿でかい図体のドラゴンが街中を飛び回ったら大惨事になるだろう。どうする、どうすりゃいい。


「ぴぃい!ぴぃいい!!」


そう俺が考えている時だった。突然ミニドラゴンが俺の耳元で鳴き声を上げ始めた。何事かと顔を向けたとき俺は一つある方法を思いついた。


「お前くらいの体なら飛び回っても大丈夫だよな」


「ぴぃい?」


いくらか不安は残るけど、とりあえずこの方法に賭けてみるしかないか。


「よし、いいかよく聞いてくれ! 今からこのチビ助と一緒にあの馬車まで近づいてくる! 何とかして俺達で止めてくるからあんたも一緒に追いかけてきといてくれ!!」


「止メルッテ、ドウスルツモリダ!!」


「何とかする! とにかく早く止めないと!!」


自分でも何言ってんだって思った。何の策もないのにどうにかできる自信もほとんどなかった。でも、やるなら今しかない。

俺はドラゴンの背中にゆっくりと立ち上がるとミニドラゴンに肩をガッチリと掴ませた。


「よし、チビ助!! 行くぞ!」


「ぴぃいいいい!!」


あぁ、本当にどうかしてる!! 俺は覚悟を決めてドラゴンの背中から勢いよく飛び出した。その瞬間、俺の体は宙ぶらりん状態で街の中へと突っ込んでいった。


「ぬうううおおおおおお!! くっ!! いいか、チビ助!! あの赤い馬車を追いかけるんだ!!」


「ぴぃ!! ぴぃいいいい!!」


俺の言葉が通じているのか分からなかったが、コイツは俺の言ったとおりあの馬車が通った跡の道を飛び抜けていった。

少しして、目の前にあの赤い馬車の影が見えてきた。相変わらずものすごい速さで走っているようで街中のものを色々吹き飛ばしながら進んでいる。

危険運転にも程があるぞおい。もはや街の人のことなど気にもしていないようだ。そんな馬車を止めるため俺は更に近づいていく。


「おい!! そこの馬車!! 止まれ!」


大声で呼びかけてみるも全く止まりそうな気配はない。それもそうか。素直に止まるはずないもんな。それじゃあもう強制的に止めるしかないよな。

つってもあの赤いオーラみたいなのが消えないとどうしようもないよな。どうしたもんか。


「とりあえず色々やってみるしかないか。チビ助、もっとあの馬車に近づけるか?」


「ぴぃい? ぴぃいいい!!」


なんて言ってるのかは分からないがとりあえず了解してくれたんだと思う。先程よりも飛ぶスピードを上げどんどん距離を縮めていく。そして、ついに馬車のすぐ横にまでたどり着いた。確認するとやはりそこにはレミアムが手綱を持ち馬達を操りながら乗っているのが見えた。恐らく後ろの箱型の乗車部分にはフラウが乗せられているんだろう。


「おい!! レミアム!!」


俺がそう叫ぶと向こうもこちらの存在に気がついたようで、何か信じられないものを見たかのような表情で綺麗なニ度見をかました。まぁ、普通はそうなりますよね。


「馬車を止めろ!!」


「なんだって? 全然聞こえないな!!」


この野郎!! こうなったら何が何でも止めてやる!! 俺は馬車に近づくと試しにあの赤いオーラに向かって軽く蹴りを放ってみた。すると、その瞬間触れた部分から赤い稲妻のようなものが走り、衝撃が俺の体を襲った。


「ぬおわっ!!」


「ぴ、ぴぃいいい!?」


そのせいでバランスを崩したミニドラゴンがグラグラと上下に揺れながら馬車との距離を開いた。


「だ、大丈夫か?」


「ぴぃいいい……」


やっぱりあれには触ったらアウトだな。クソッ、どうする!! そう、考えている間にも出口は刻一刻と近づいていた。



人生を劇的にしたいのならば変化を起こせばいい。自分が今、起こせる変化は何かを書き続けること。……なーんてかっこいいことを言ってみたい今日この頃であります。次回はなるべく早めにあげるつもりです。よろしくお願いします。

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