事情聴取に行ってきます
それからしばらく未だに起きそうにないフラウを見ていると、何やら外が騒がしくざわついていることに気がついた。
「何だ?」
何か起こったのか? 俺は椅子から立ち上がり、休憩室の扉から外の様子をうかがおうと顔だけ出して辺りをキョロキョロと見回した。その時、ヒルグラウンドの入口から誰かが入ってくるのが見えた。
そこから入ってきたのは初めてこの国に来たとき入口で入国を取り締まっていたあの鎧を着た奴らの集団だった。ぞろぞろと中に入ってくると周りを気にする様子もなく、まるで軍隊の行進のように足踏みを綺麗に揃えながら真っ直ぐに受付のカウンターに向かっていく。一気に施設内は物々しい空気に包まれ先程までの穏やかな空気はどこか彼方へと吹き飛んでいった。
俺はゆっくりと扉を閉めてからなるべく音をたてないように静かに椅子に戻る。え? なになに、何なのあの集団。フラウが目を覚ましたら速やかに帰ろうと思ってたのに変なのが来ちゃったよ。とりあえず何事もなければいいのだけど……また面倒なことに巻き込まれたりしないよな。
「大丈夫だよな……多分」
きっとここで大人しくしていれば何も起こらないだろう。別に何か悪いことをした訳でもないしそんなにビクビクする必要もないよな。
そう思った時だった。部屋の外から再びあの綺麗な足踏みの音が聞こえてきた。しかもその音が徐々にこちらの方に近づいてきている。
「おいおい……何でこっちに来てんだよ」
俺の中の嫌な予感メーターの数値が限界突破して振り切れてるんですけど。確定だよね。もうこれ何かしらに巻き込まれるの確定だよね。そして、扉の前で足音がピタッと止みドアノブがゆっくりと回され始めた。
ちょっと待て、なんだこの緊張感。俺何も悪いことしてないよな。してないよな!! 訳も分からず動揺しまくる俺の気持ちをよそに鎧を着た集団は扉を開けズカズカと中に入ってきた。その光景はまるで昔見た‘密着警察24時!!’ という番組の違法賭博場に押しかける警察官のそれと同じような感じだった。あれ? そうなると俺、捕まる側じゃね? ……だめじゃん。
そんなこと考えているうちに鎧の集団が全員部屋の中に入ると、今度は真ん中に通路を作るような感じで左右に向かい合うようにして別れ始めた。そしてピタッと止まると全員ピクリとも動かなくなってしまった。
「…………」
これは……どういう状況なんですかね。あれですか放置ですか。何かのドッキリですか。お願いだから誰か説明してください。
俺がそう困っていた時、また部屋の外から誰かの足音が聞こえてきた。今度は何が来るんだ。俺は生唾を飲み込み扉の方を睨み続けた。そして、足音が目の前まで近づいて来たときそこから現れたのは予想外にも俺の知っている人物だった。
「あれ? イホームにディアさん?」
驚いた俺がそう声にだすと向こうもこちらの顔を見て驚いたように目を見開いた。
「え? あれ、お兄ちゃん? 何でここに?」
「いや、なんでって言われても……色々あって」
フラウが倒れたからここにいて見てただけなんだけど。というか逆に何でこの二人はこんなところまでやって来たんだ。しかも、こんなたくさんの鎧集団を引き連れて。
「ここに荒崎さんがいるってことは、報告で言ってたドラゴンに連れ去られた男性というのはもしかして……」
ディアさんがそこまで言いかけてこちらの方を見る。あーなるほど、そういうことか。
「えーと……じ、実はその男は俺だったりします。はい」
「「やっぱり」」
や、やっぱりって言われた……。もしかして俺、色々と巻き込まれやすい性質だとか思われてんのかな。まぁ、実際こっちの世界に来てからはそうなんですけどね。
「それで二人は何しにここへ来たの?」
「ん? あぁ、そうそう。ついさっき街中に急にドラゴンがやってきて人が一人さらわれたって聞いたから慌てて調査しに来たんだよ。それでその現場のラミスタ広場で聞き込みをしてた城の兵士が、どうやら連れ去られたのは男性でしかもその後この場所に一度帰ってきてからヒルグラウンドに向かったって報告があってそれでここに来たの」
「でも、まさか荒崎さんが被害者だったなんて思いませんでしたけどね」
うん、俺もまさか被害者になるとは思いませんでしたよ。ほんと下手すればトラウマになりかねない状況だったよなあれ。
「まぁ、なりたくなかったですけどね……」
「そ、そうですよね」
「でも、残念なことにお兄ちゃんはもう被害者になっちゃったんだよ。だからね、これからお兄ちゃんには色々と聞きたいことがあるの。それで、悪いんだけどこれから私の研究室に来て欲しいんだ」
聞きたいことか……そりゃそうだよな。あんなことが起きれば当たり前か。
「研究室に行くのは全然構わないんだけど……」
そこで俺はフラウの方に視線を向けた。そう、俺だけなら問題ないのだが今はフラウがこの状態だ。出来れば目が覚めるまではここにいてやりたい。
「あれ? そこに寝てるのってフラウちゃん? どうしたの?」
「そういえば報告ではドラゴンに連れて行かれたのは男性一人でしたね。ということはフラウさんは連れて行かれなかったんですよね」
「ああ、そうなんだ。だから別にドラゴンに何かされたとかそういう訳ではないんだけど、俺が戻ってきたら倒れてここに運ばれたって聞いてさ。俺も慌ててここに来たってわけ」
俺がそう説明するとイホームは顎に手を当て考え込むように小さな唸り声をあげた。
「なるほどね。でも何で突然倒れたりなんかしたんだろう」
「気になりますね」
何やら二人の探究心に火がついてしまったようで、フラウの方を向いたままどちらもピタッと固まってしまった。
すごい食い付きだな二人共……。もちろん俺もフラウのことは気になっているので原因解明の協力者がいるのはいいことなんだけど。
「うーん……あ、そうだ先生。せっかく今日先生の昔の教え子さんが来るんですからそこで一緒に見てもらうっていうのはどうですか?」
「あー……そういえばそうだったわね。確かにいい機会だしそうできればそれもいいかもね」
昔の教え子? そういえばイホーム、魔術について教えてるって言ってたもんな。ってことはその人も魔術師とかだったりするのか。
「ねぇ、お兄ちゃん。出来ればなんだけどフラウちゃんも一緒に王宮まで来てもらうことってできないかな? もちろんフラウちゃんは起こさないように馬車で運ぶし、目を覚ますまでは客室で休んでもらって起きたら少し話を聞いてみたいんだ。……どうかな?」
「そうだなー……」
きちんと馬車で運んでくれるって言ってるし、何かよく分からないけど色々見てくれるみたいだし、本当はあんまり動かしたくなかったんだけど……フラウのためにも今はそうした方がいいかもな。俺は少し考えた結果、結論をだした。
「うん、分かった。そうしてくれると助かるよ。それにどちらにせよ俺は城に行かなきゃいけないんだろうしな。なら同じ場所に居た方が俺も少しは安心するし」
「まぁ、そうだね。よし、それじゃあ決まり! じゃあ早速だけど皆、王宮まで移動してもらおうかな」
という訳で俺とフラウは大勢の城の兵士に周りを囲まれたままヒルグラウンドから出ることになった。……なにこれ歩きづら!! ボディガードなのか何なのか分からんが本当に数多すぎだろ! ほとんど周りが見えないじゃないか。
「え、ちょ、荒崎さん!!」
俺達が入口の目の前に来たとき不意に後ろの方でエストニアさんの声がした。
「エストニアさん! ちょっと王宮まで行ってきます!」
「え、えええええええええええええ!!」
鎧の隙間からかろうじで見えたエストニアさんは面白いくらいにあたふたしていた。
お待たせしました。パソコンの故障と体調不良で更新が長引いてしまってすいませんでした。どちらも治りましたのでこれからはまた定期更新できるように頑張りたいと思います。




