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国の中を探索しよう

お願いします。

中に入ってみて思ったのだがどうやらこの国は洋風チックな建物が多いらしい。どこもかしこもおしゃれな見た目をしている。レンガでできた暖かみのある家。オレンジや赤などの独特な色が壁面に塗られている建物もある。三角屋根の建物、ビルのような形をした建物。形も様々で何とも個性的だ。

中には大きな風車が回っているちょっと変わった建物もあった。これは一体何なんだろうか? 気になったが周りには誰もいない。入口から少し進んだだけだが、まだ誰ともすれ違っていない。恐らくまだ朝になったばかりだから誰も外に出てきてないんだろうな。

そう思いながら進んでいくと、不意にどこからともなく俺の鼻をくすぐるようないい匂いが漂ってきた。


「すんすん、何だこの匂い?」


辺りをキョロキョロ見回すとその匂いの発生源を発見した。通路脇にあるまるでログハウスのような一軒家の窓からもくもくと湯気のようなものが出てきている。

あそこか。気になった俺はその建物に近づいてみた。

何なんだろう、この何か焼いてるような香ばしい匂いは。

すんすんと匂いを嗅ぎながら、その建物の正面まで来て俺は入口の扉のあるところに大きな看板のようなものがぶら下がっていることに気がついた。

そして、その看板を見て俺はこの匂いの正体がなんであるのかすぐに分かった。


「あ~なるほどね、パン屋さんか」


その看板にはデカデカと一斤の食パンのようなものが描かれていた。この香ばしい匂いの正体はパンを焼いている匂いだったのか。

それにしても、いい匂いである。あ、何かお腹すいてきた。


「お腹はすいてきたけどまだやってないみたいだし、それに金も持ってないしな」


そういえば、クーエルがあの儀式をやってるときに俺のための衣・食・住は一通り揃えてくれてるって言ってたっけ。でも、そんなのどこにあるんだ? 衣・食、それだけでもありがたいのに住まで用意してくれたらしいけど……っていうかどうやったんだろうそんなこと。あれか、女神パワーでちょちょいのちょい的な感じなんだろうか。うーーーーん……。

そこで、俺はパーカのポケットに手を突っ込んだ。いつもの癖で何か考え事をするときはポケットの中に手を入れて指をせわしなく動かしてしまうのだ。今もまさにその癖が発動しようとしていたのだが、


‘かさっ’


「ん?」


右ポケットに入れた手に何かがあたる感触があった。俺はそれを掴みポケットの中から取り出してみた。

それは、小さく折りたたまれた一枚の紙切れだった。俺、こんなのポケットに入れてたっけ? ここに来る前は俺何も持たずに出たはずなんだけどな。

そう思いつつその折られた紙を元に戻してみる。すると、その紙にはこう書かれていた。


‘荒崎さんへ


この紙を読んでいるということは無事に目を覚まされたようですね。この紙にあなたがこれからここで住んでいくために必要な家がある場所を書いておきます。まず、あなたが目を覚ました場所はグランヴェル世界の‘モートリアム’という国の入口の場所になります。そこからまずはその国に入らずに、右に進んでください。しばらく道なりに歩くとちょっとした丘のようになっている場所が見えるはずです。その上に一つ建っている木造の建物があなたの家になります。

もし分かりにくいようでしたら下に地図を書いておきますので参考にしてくださいね。

それでは、お元気で!!


                                 ‘クーエルより’



どうやらこれはクーエルからの手紙らしい。こんなものいつの間にポケットの中に入れてたんだ?

そんな疑問が浮かんだが、それよりも気になるところがこの手紙にはいくつもあった。

まず、俺が目を覚ました場所についてだ。この紙には俺が今いるここ、どうやらモートリアムと言うらしい国の入口に倒れているような感じで書かれている。しかし、俺が目を覚ましたのはあのよく分からない森の中だった。一体これはどういう事なんだ? もしかして、クーエルの奴は俺をこっちの世界に送るはずの場所を間違えたのか? 俺を居眠りしてて死なせたような奴だ、可能性は充分ありうる。

……やっぱりちょっとくらい怒ったほうがよかったかな。

まぁ、それはおいといて次に気になったところはこの丘の上の家というところである。どうやら入口から右に進めばいいらしいのだが……何ていうか全体的に説明がふわっとしている。もうちょっと目印になりそうなものとかどれくらいの距離だとかを書いといてもらえるとありがたかったんだけどな。

それにこの下に書かれた地図なのだが、……クーエル、お前さん絵心がないんだな。どう見ればいいのか分からないよ。このミミズみたいなの何だ? 道筋か何かだろうか? とにかく酷かった。

そこで気がついたのだが更に下のほうに小さな文字で何か書かれていた。


‘P.S. この家のことについて何か聞かれても秘密ってことにしといてくださいね。


「秘密って……」


何だか一気に不安になってきた。





という訳で入口の場所まで戻ってきたわけだが、如何せん頼りの地図がこれではどう進んだらいいか全く分からない。とりあえず右に進めばいいんだよな? でも右ってどっちから見て右だ? 

うーん、とそのまま悩んでいたとき後方から何やら聞き覚えのあるような音が近づいてくるのが分かった。

何だ? と振り返ると、


「いいいいいいいいいいたああああああああああああ!!!!」


そう叫びながら一つの鎧が猛ダッシュで近づいてきていた。どれだけ速いのか後ろの方で軽い砂埃が立ち上がっている。


「うお!? な、何!!」


その迫力にビビった俺は思わず走り出してしまっていた。だってあんなの見たら誰だって怖くなるでしょう!!


「にいいいいいいいげえええええるううううなああぁああああ!!」


「いやあああああああああああああ!!」


怖い怖い怖い怖い怖い!! 何!? 何で追っかけてくんのあの鎧!! しかもめっちゃ早えええええ!! あれって相当重いもんなんじゃないのか!?

俺は必死に走り出したものの相手の方がはるかに早くあっという間に距離を詰められてしまい、首根っこをむんずと掴まれてしまった。


「捕まえたぁああああああ!!」


「ひゅぐぷ!!」


思い切り後ろに引っ張られそのまま鎧に背中から衝突した。やっぱり鎧なだけあってその表面はかなり硬く、その衝撃も中々のものである。


「げほっ、げほっ! な、何なんだ一体……」


「手荒な真似をしてすまない。しかし、そなたを一刻も早く王宮に連れて来いとの命令でな」


お、王宮? 一体何の話をしているんだこの人は? いきなりそんなことを言われても全く意味がわからんぞ。


「とにかく急いで来ていただきたい! すまんがこのまま連れて行かせてもらうぞ」


「え!? 連れて行くって……」


そう言うとこの鎧を来た人はいきなり俺を肩に担ぐような体勢にした。これでも一般的な成人男性である。それを軽々と担ぐって一体この人どんな筋肉してんだ!?


「それでは行くぞ!!」


「ちょ、ちょっとまっ!! ああああああああああああああああああああああ!!!!」


そのままものすごい勢いで走り出した。鎧も来てて俺も担いでいる状態でこのスピードを出せるっていうのは最早人間業ではない。

俺は抵抗することもできずそのままされるがままの状態で国の中を駆け抜けていった。あぁ、誰か助けて……。






しばらくその体制のまま過ぎ行く景色を見ていると急に走る勢いが緩まり砂埃をあげながらその場にピタッと止まった。


「うお!?」


全くこの人本当に急発進、急停車である。車の免許を取るための教習車でこんなことしたら間違いなく教官に怒られるぞ。


「第32部隊所属‘レグルド・ケイナック’只今戻りました!!」


ビシッと敬礼をして誰かにそう告げている。どうやら王宮とやらについたようだ。

はぁ~長かった……。うえ、何だか気持ち悪い。


「よし、入れ!!」


すると、何やら重たそうな扉の開くような音が聞こえてきた。ちらりと後ろを見てみるととてつもなく大きい鉄の扉がゆっくりと開いていくのが見えた。すげぇ……あの大きさ、俺の住んでた実家よりもでかいぞ。


「さぁ、行くぞ!」


「え! まだですか!? もうここまで来たんなら自分で歩きますよ!」


「いや、そなたは客人として連れてくるように言われておるのでな。中に入るまでは私がお連れいたそう」


余計なお世話ですうううううう!!!

結局、城内に入るまで俺はそのままであった。





やっとこさ担がれる状態から解放された俺はフラフラの状態で立っていた。

あの後、あの鎧の人は城の玄関のような場所の前で俺を降ろしそのままどこかへと消えて行ってしまった。全く一体なんなんだよあの人は。


すぅ~……はぁ~……。とりあえず落ち着いてきた。が、これから俺はどうすればいいんだろうか? 玄関の前に置かれたってことはこのまま中には入れってことなのだろうか。でも……


「これはちょっとすごすぎないか?」


玄関の前から少し離れ上を見上げてみる。そこにはとてつもなく巨大な建造物がどーーーんと建っている。まるで、どこぞのシンデレラ的な城みたいな場所から世界遺産並みに綺麗で馬鹿でかい建物まで色々な形状の建造物が並んでいる。王宮なんて社会の教科書でくらいしか見たことなかったから全然知らなかったけど、ここまでオーラというか威厳が建物に漂うものなのか? 

圧巻のその光景に俺は只々その場でポカーンとすることしかできなかった。

その時、目の前の玄関部分がガチャりと開き中から一人誰かが出てきた。そして俺と目が合うと、深々とお辞儀をしてきた。


「いらっしゃいませ。あなたがここまでファリア様をお連れくださった方ですか?」


そこにいたのは 一人のメイド服を着た女の人だった。少し茶色めの肌、それから綺麗な青い瞳。すらりと伸びた背に端正な顔立ち。それから印象的な少し赤みがかった髪。彼女はそれを後ろの方で一つに束ねポニーテールのような形にしている。

すげぇ、美人さん……。思わず見とれてしまう。


「あの……」


「はっ!? あ、あああああすいません。は、はい。そうです」


あの時倒れていた女の子、ファリアって言うんだっけか? その子をここまで連れてきたのは紛れもなく俺である。まさか、この国の王女様だとは思わなかったけど。

俺がそう言うと、彼女はまた深いお辞儀をした。


「この度はファリア様の命を助けていただき誠にありがとうございます」


「い、いえいえ」


命を助けたのかどうかは分からないが結果的にはそういうことになったのだろう。全く自覚はないが。


「それでは、早速で申し訳ないのですが謁見の間の方にご案内の方をさせていただきたいのですが」


謁見の間? ってことは俺は今から誰かに合わされるのか。でも誰に?


「そ、それはいいんですけど俺はそこで何をするんですか?」


「我が国の王である‘ジャガル・アディエマス様’とその妃様である‘ゼオラ・アディエマス様’にお会いしていただきます」


…………え? 王様と……妃様に……会う? マジですか。いきなりそんなお偉い方とお会いするんですか俺は!? パーカーとジーンズなんて格好で大丈夫なんだろうか?


「王様と妃様ですか……」


俺の声は明らかに動揺していた。国のトップに立つ人間に会うんだ、そりゃ動揺だってするだろう。

そんな俺の不安を読み取ってくれたのか彼女はニコリと笑うと優しく手を握ってくれた。

どきっ!! 急にそんなことをされて俺の心臓は激しく脈を打ち始めた。女の人に手を握られたのいつぶりだろう。


「大丈夫ですよ。お二方様はとてもお優しい方です。だからそんなに緊張なさらないでください」


優しそうな声でそう言われた。何というか安心できるような声だった。そのおかげで少しだけ緊張が解れてくれた気がする


「わ、わわわかりました」


相変わらず噛み噛みな返答だったが俺はしっかりとした声でそう返した。


「それでは、行きましょうか」


「は、はい!!」


なんだかすごいことになってしまった。俺はこれからどうなるんだろうか?

12月24日、本文修正しました。

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