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ドラゴンも恩は返すらしい

空高くへと連れ去られた俺はどうすることもできず、そのままこのドラゴンの背中に必死にしがみついているしかなかった。やばい! 腕つりそう!! でもここで離したら死ぬ。確実に死ぬ!!


「ういやあああぁぁぁああああ!! ちょっ!! 待って!! 安全運転でお願いしますぅぅぅ!!」


最早、恥も外見もない。俺はひたすら絶叫しこのいつ終わるのか分からない地獄の空中ドライブを耐え抜くしかなかった。あ、やばい……マジで吐きそう……。なんか体がぷるぷるしてきた。


「ぴぃぃぃいい?」


そんな俺の醜態を見かねたのか一緒に背中に乗っていたミニドラゴンがこちらの顔を覗き込むようにして近づいてきた。一瞬目が合うが俺はそれどころではなく何の反応も返すことができない。すると、突然こいつは片方の翼を大きく広げるとそのまま俺を包み込むようにして覆いかぶさってきた。


「な、何だ?」


何してんのこいつ? 俺は突然の出来事に驚いていた。そしてその瞬間、俺は自分の体にある違和感を感じた。驚いたことに先程までの気持ち悪さが一気に吹き飛んでいたのだ。それどころか何故か体が軽く感じる。さらに今まで強風にさらされていたからなのかどうなのかはよく分からないがこの翼の中はほのかに暖かく感じた。


「どうなってんだ?」


「ぴいいいいい」


もしかしてコイツが何かしているのか? 状況はよくわかっていないがとにかくコイツのおかげで俺は少しだけ冷静さを取り戻すことが出来た。


「ありがとうって言うべきなのかこれは?」


いや、そもそもこんな状況になってるのはこいつのせいなんだし別にお礼を言わなくちゃいけない義理はないよな。うん、そういうことにしておこう。

そう思った時だった、しがみついていたドラゴンの体が急に降下をしはじめた。


「うおおおおおおおおおおおお!!」


ちょっ!! なになになになになになになになになになに!! 突然やってきた凄まじい浮遊感に驚き俺はここ一番の絶叫をする。体中の臓器がふわふわするようなこの独特の感覚は俺が最も苦手とする状態だ。これが原因で昔家族と行った遊園地なんかでは絶叫マシーンには乗らず一人で下から見ているお留守番状態だった。


「ギヤアアァァァアアアアアオオオウ!!」


そして、そんな状態が少しの間続いたかと思うと今度は突然大きな鳴き声を上げ、急停止しとんでもなく大きい翼をバサバサと羽ばたかせながらゆっくりと降下をしはじめた。


「はぁ~……はぁ~……」


も、もう嫌だ……。なんで俺がこんな目に遭わなきゃならんのだ。本当だったら今頃、あの広場のいろんな店を楽しく見て回っていたはずなのに……。どうしてこんな絶叫体験せなならんのだ。本当に全くどうしてこうなった!! 俺がそう心の中で泣き叫んでいるとドラゴンは地上に降り立ったのか大きな地響きが聞こえ、翼の羽ばたく音が消えた。


「ど、どうなったんだ?」


ミニドラゴンの翼で包まれているため周りの状況がよく分からない。どこかに着地したのは分かるのだがそれがどこなのかは分からなかった。


「ぴいいいいい!!」


そう思っているとミニドラゴンは俺を包んでいた翼を折りたたみドラゴンの背中から勢いよく飛び立った。その時たまたま上を見上げていた俺は急に視界が明るくなり思わず目をつむってしまった。目の前を手のひらで隠しながらゆっくりと目を開けていく。そして、周りを確認しようと視線を外に向けたとき、俺はとんでもない光景を目にすることになった。


「な、なんだここ……」


俺がいた場所。それは、灰色の岩が所々むき出しになったまさに断崖絶壁の頂上だった。その僅かなスペースの上に俺とこのドラゴン達は着陸していたのだ。


「嘘だろ……」


俺の口から自然とそう言葉が漏れる。やっと解放されたと思ったら今度は断崖絶壁ですか。こんなところ高所恐怖症の自分がいてはいい場所ではない。断じてない!! 


「あ、アハハハ……」


最早笑うしかない。何この八方塞がり……逃げ道ゼロなんですけど。そう俺が半ば白目状態になっているといつの間にか近くを飛んでいたミニドラゴンが再び俺の肩を前足で掴み宙に持ち上げた。


「…………」


先程までだったら俺は大声で抵抗していたのだろうがもうそんな気力もどこかにいってしまった。俺はされるがままになりドラゴンの背中の上から崖のちょっとしたスペースの上にストっと下ろされた。どうしよう……地上についたのに全然嬉しくない。むしろ泣きたい。泣きじゃくりたい。でも、そんなことしたら俺の中でいろいろなものが失われそうなのでぐっと我慢する。


「ぴぃっ!! ぴぃっ!!」


俺の横にミニドラゴンも着地し何故かこちらに向かって鳴き声を上げ体をすり寄せてくる。その鳴き声がやたら可愛らしくて一瞬だけ俺はイラッとしてしまった。俺はしないがこれがもし他の人だったら一発ぶん殴るくらいするかもしれない。


「ってか近い近い。なんだよくっつくなよ。体が揺れるだろうが」


出来るだけ身動きをとりたくない俺はミニドラゴンを離そうとするが、何故かコイツは離れたがらずピトッと体をくっつけてくる。何なんだよ……なにがしたいんだよコイツは。あれか? 何かで聞いたことあるいわゆる‘当ててんのよ’状態をしたいわけかコイツは? そうだとしたら残念だったな。それは人間の女性、しかも胸が大きい人にしかできないんだよ!! はっはっはっはっ!! ……あ、駄目だ。もう俺の思考回路がおかしくなってる。自分でも何言ってんだか分からなくなってきた。


「ヴォオオオオオオオオオオオオオオウ!!」


俺がそう自分を嘆いている時、突然目の前にいたドラゴンが大きな咆哮をあげ、こちらにそのデカイ体と顔を向けてきた。そのまま俺の体よりもでかい顔を目の前まで近づけてくる。


「いいっ!?」


あまりの迫力に俺は後ずさりそうになる。が、ここは断崖絶壁。俺が少しでも移動すればすぐそこは奈落の底である。絶体絶命とはこういうことをいうのか……。どうすることもできず硬直したままの体にどんどん近づいてくるドラゴン。そして、閉じていた口を徐々に開き始める。も、もしかして……俺このまま食べられちゃったりするのか? 体中に汗をかき嫌な予感が頭に浮かぶ。


「お、俺は食べても美味しくないですよ……」


なんともベタなセリフが口から溢れる。まさかこのセリフを本気で口にする日が来ようとは思わなかった。それでも開かれていく大きな口に俺は諦めと覚悟を決め思い切り目をつむった。まさか自分が食べられる日がくるとはなぁ……。そう思った時だった、


「アナタガコノ子ヲ助ケテクレタ人間カ?」


「うぅ!! …………へ?」


いきなりどこからともなく誰かの声が聞こえてきた。俺はつむっていた目を開くとキョロキョロとあたりを見回す。しかし、こんなところに俺以外の人なんているはずがない。じゃあ、今の声はどこから聞こえてきたんだ? 


「人間ヨ、聞コエテイルノカ?」


再びそう声が聞こえてきて俺は目の前のドラゴンに視線を向ける。今、こっちから聞こえてきたよな?


「ドウカシタノカ人間ヨ。質問ニ答エヨ」


「…………」


しゃ、喋った……。このドラゴン喋りおったぞ! 


「お、お前喋れるのか?」


「人間達ノ言語ハ一通リ把握シテイル」


ま、マジですか。この世界の生き物ってフラウといいこのドラゴンといい皆、喋れたりするんだろうか? 予想外の出来事に若干動揺しつつも、俺はこれはチャンスなんじゃないだろうかと考えた。意思の疎通ができるのならば今のこのよく分からない状況について色々聞き出せるのではないかと思ったのだ。それにコイツが本当に俺を食べようとした時に説得することもできる。


「それなら色々聞きたいことがあるんだが!」


「ソノマエニ我ノ質問ニ答エヨ。コノ子ヲ治シタノハ、アナタナノカ?」


この子っていうのは多分、俺の隣にいるコイツのことだよな。


「あ、あぁ。そうだ。俺が治療した」


俺がそう答えるとドラゴンは近づけていた顔を遠ざけ俺を見下ろすように垂直に立ち上がり始めた。


「ソウカ、アナタガコノ子ヲ助ケテクレタノカ」


そう言うとドラゴンの体が突然、眩い光に包まれた。


「うおおっ!!」


あまりの眩しさに俺は顔を手で隠す。何か今日俺、眩しがってばかりだな。視力が悪くなってないか若干心配だよ。そう思いつつうっすらと目を開け目の前を見ると光の大きさが徐々に小さくなり、最終的には俺の背丈より少し高いくらいの大きさになっていた。しかもよく見れば見上げるほどあったあの大きなドラゴンの体はいつの間にかどこかに消えてしまっていた。


「これは……」


そして、その光が弾け飛ぶように消えていくとそこには……一人の若い女性が立っていた。


「ふぅー……この姿になるのは何十年ぶりかな」


綺麗な赤髪をなびかせて彼女はそう言った。俺はそんな彼女の赤髪を呆然と眺めていることしかできなかった。

活動報告を見ていただいている方はもうご存知かもしれませんが、今後の更新についてここでもお伝えしようと思います。今後は週1~2回の更新を目標にしたいと思います。曜日は‘火曜日’と‘金曜日’(金曜日は出来ればするといった感じになると思います)時間は21時で統一する予定です。そんな訳でこれからも色々拙い作品ですが宜しくお願い致します。

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