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俺は高所恐怖症なんです

それから少しして、ベイルに作ってもらった朝食をぺろりと完食し俺達は満腹感に満たされていた。いやー、やっぱり料理には技術とセンスが必要だな。もし俺が今日の朝食を作ろうとしたら……うん。大惨事しか思いつかない。やっぱり俺のお願いは間違っていなかったんだと改めて実感した。


「ふぅい~、うまかった。ごちそうさまでした」


「ヴァヴ!」


「おぉ、二人共綺麗に食べてくれたな」


ベイルはどこか嬉しそうにそう言いながら空になった食器を片付けようとしてくれた。料理を作らせて更に片付けまでさせるのは流石に悪い気がしたので止めようとしたのだが


「気にするな。これも料理人の仕事だからな」


そう言って言いくるめられてしまった。……もしかしてベイル、意外とこの料理人っていうの気に入ってるんだろうか。何か結構ノリノリで作業とかもしてたし。


「ところで荒崎、今日はこれからどうするんだ?」


皿を水で洗い流しながらベイルがそう訪ねてきた。


「ほい? どうするって……特に何も決めてないけど」


「そうなのか? そういえば荒崎はヒルグラウンドに登録していたよな。何か依頼を受ける予定とかは無いのか?」


「依頼ねぇ……」


そういや俺、この間の薬草集めをしてから何の依頼も受けてないな。まぁあの後色々あったから仕事依頼の確認とかも全然できなかったし、しょうがないんだけど。


「俺ヒルグラウンドでまだ薬草集めしかしたことなくてさ。どんな仕事があるのかとかもまだ詳しくは知らないし」


「薬草集め……本当に簡単な依頼しか受けてないんだな」


ベイルからしたら簡単な依頼なんだろうが俺からしたら中々大変な仕事だったんだがな……。最後の方なんてフラウに手伝ってもらわなかったら見つけられたかどうか分からなかったし。


「なぁ、荒崎。荒崎はこれからヒルグラウンダーとして生きていくのか?」


「ヒ、ヒルグラウンダー?」


「もしそうなのだとしたらそんな低級依頼ばかりを受けていたらまともな生活なんて出来なくなっていくぞ。言っちゃ悪いが荒崎はヒルグラウンダーには向いてないと思う。別段、体なんかを鍛えているわけでもなさそうだし、何よりこの辺りの環境のことを知らなすぎる」


確かに俺は体なんか鍛えたことは一度もない。学生時代にムキムキなボディに憧れて筋トレなんぞをしたことはあったがそれも長くは続かなかったし。

環境についてはそもそもこの世界に来たばかりなのだからどうしようもできない。これに関しては徐々に順応していく他ないのだ。そう考えるとベイルの言っていることはまさにその通りで、そういった知識や技術が必要な仕事は俺には向いていない。


「まぁ、確かにそうだよな。でも、俺は別にそのヒルグラウンダーってやつになるつもりは今のところないし。むしろこれからどうしようかなって感じだな」


「そうか。ならこれから街の中でも散策してみたらどうだ? この国は結構広いから探そうと思えば仕事なんてたくさんあるし、それにどこに何があるのか自分の足で見つけて覚えたほうがいいだろう」


「散策ねぇ……」


まぁ、俺は散歩なんかも好きだし何の目的もなく歩き回るっていうのは得意分野でもある。


「ちなみにベイルのここは見ておいたほうがいいって場所とかあるの?」


「見ておいたほうがいい場所か。それなら……‘ラミスタ広場’なんてどうだろう」


「ラミスタ広場……」


何ともおしゃれそうな名前の広場だこと。そう思いながら俺はその場所について詳しくベイルに訪ねた。











という訳であの後、俺とフラウはそのラミスタ広場とやらに来ていた。ベイルはこの後仕事があると言っていたので街の入口で別れることになった。その時ベイルに


「明日は私が直接荒崎の家に行くからそのまま待っていてくれ」


そう言われた。女性が俺の家に自らやってきて朝食を作ってくれる。よく考えれば貴重以外の何物でもない体験だ。そのためかその言葉に少し感動してしまったのは誰にも言えない秘密である。そっと胸の奥にしまっておこう。



「まぁそれはいいとしてここがラミスタ広場か」


丸く開かれたその場所は結構な広さで、石畳が敷き詰められ綺麗に整備されていた。所々に通路がつながっており、そこから街の人々が盛んに行き来を繰り返している。どうやらこの場所は街のいたるところにつながっているようだ。そんな広場の真ん中には大きな白い噴水のようなものが有り、ドーム型のアーチを描くように水が射出されていた。流れる水やその涼やかな水音のおかげもあってか、この場所は他の場所よりも少し涼しいように感じた。


「なるほどね、確かにいい場所だな」


広場の周りには様々な店も並んでいるようで色々な形や模様をした看板がぶら下がっている。こちらには音符のような模様が刻まれた看板が、あちらには本のような形に切り抜かれた銅色の看板が、というようにパッと見で何の店かわかるようなのから透明な水晶玉と紫色の台座のような模様が取り付けられた暗く怪しげな雰囲気を醸し出す何の店か分からないものまで様々であった。


「これだけあると今日一日で見て回るのは流石に無理だな」


とりあえず怪しげな店は一旦スルーしてとりあえず興味を惹かれた店に今日は立ち寄ってみるか。そう決めて俺は辺りをキョロキョロと見回す。さてまずはどこに行こうかね。そう考えた時だった。

急に俺の周りにうっすらと影が差し込んできた。先程まで陽が周りを照らしていたのに、雲でもかかったか? そう思い何気なく上を見上げてみる。そして、俺はそこで驚くべきものを見た。


「ぴきぃぃぃぃいいいいいい!!」


「へ?」


俺の真上から何かがこちらに向かって飛んできているのが分かった。しかも驚くべきことにピンポイントで急降下してきている。その物体がこちらに近づいてくる事にその大きさがはっきりと分かってくる。あの赤い体……どこかで……。


「って、んなこと考えてる場合じゃない! 何だあれ! 何でこっち来てんの!?」


「ご主人様! 逃げてください!!」


フラウに言われ俺は慌ててその場から動くがその物体もそれに合わせるようにして向きを変えてくる。それを見た俺は確信した。あの物体はこちらに向かってきてる! しかも知らぬ間にもうかなり近くまで迫ってきていた。そんな様子を見ていた周りの街の住人も次第にざわつき俺の周りから避難するように遠ざかっていった。


「何なんだよもう!!」


俺は走り出すがその時にはもうすぐ後ろで何かが大きく羽ばたくような音が聞こえていた。後ろを振り返るとその瞬間、凄まじい風圧に襲われ俺とフラウの体はその場に倒れ込んでしまった。


「ぬあっ!!」


「きゃう!!」


目が開けてられない俺は腕で顔を隠しそのまま思い切り目をつむる。一体何が起こってんだよ!! そして次の瞬間には何かが勢いよく地面に降り立つような衝撃が辺りを襲った。軽い地響きが起こるほどで周りからもいくつか悲鳴が上がっていた。


「なんだってんだよ!」


風圧が次第に薄れ、俺はゆっくりと目を開けた。腕をどかし前を見る。そしてまず俺が見たものは陽の光が当たりキラキラと反射して輝く真っ赤なウロコのようなものだった。


「……は? なにこれ……」


そしてゆっくりと顔を上げていくと、そこには


「ハァー…………」


まるで小さい頃に見ていた怪獣映画にでも出てきそうな、とんでもなく大きい生き物が口から煙を吐き出しながらこちらを見つめていた。その顔はまるでトカゲのような爬虫類顔。頭からは立派な角が二本。目は大きく蛇のような翠色の眼球がギョロギョロと動いている。体はそこらに建っている建物よりもはるかに大きく、二階建ての一軒家なんて胸の辺りまでしかない。翼も今は折りたたんでいるが広げたらどれだけ大きいのか想像ができない。


「ド、ドラゴンだ……ドラゴンが出たぞ!!」


「逃げろ!! 食われるぞ!!」


一瞬で広場はパニックになった。みんな我先にと広場から逃げ出していく。


「…………」


俺はその場で固まってしまっていた。というか体が咄嗟に動こうとしなかった。そして、その時ふとある光景が思い浮かんだ。ちょっと待て、この姿どこかで見たことがあるぞ。この赤い体に翼。それにこの顔。もしかして……今朝助けたあのドラゴンとかいうのの仲間か何かなんじゃないか?


「うく……ご主人様、大丈夫ですか?」


「あ、あぁ。俺は大丈夫だけど。お前は? どこか怪我とかしてないか?」


「私は大丈夫です。それよりご主人様、早くお逃げください!」


そう言って俺の前に立ちはだかるフラウ。威嚇するように唸り声を上げているが正直効果はなさそうに見える。


「ぴきぃいいいいいいいいい!!」


その時だった。あの馬鹿でかい体の後ろから何かがこちらに向かって更に飛んできた。コイツよりも大きさはかなり小さくなっているがそれでも近くに来るとその大きさに思わず後ずさりしそうになる。そいつは俺達の前で着地するとテコテコとこちらに近づいてきた。


「あ! お前、やっぱり今朝の!!」


そこにいたのは孤児院で助けたあのドラゴンだった。この無駄につぶらな瞳……絶対にそうだ。


「ぴきぃいい」


見た目にそぐわぬ可愛い声をあげコイツは俺のことをジッと見つめると急に羽ばたき軽く宙に舞い上がった。かと思えば羽ばたいたままの状態でこちらに近づいてくる。


「何がしたいんだよ……」


フラウが威嚇し吠えてみるもののコイツは全く気にもせずそのまま俺の真上までやってきた。な、何だ? 何してんだこいつ。そう思った瞬間、コイツは驚くべき行動に出た。


「ぴぃいいいい!!」


そう声を上げ俺の両肩を小さな前足? でがしっと掴み始めたのだ。


「はい?」


そして信じられないことにそのまま俺を宙に持ち上げどんどん上昇し始めた。それを見たフラウが止めさせるため噛み付こうとするが時すでに遅し。俺の体はあっという間に空中に浮かび上がっていた。


「ちょ、おまっ!! 何すんだ!! やめろ!!」


抵抗しようと体を動かすがコイツには全く意味がないようで、俺はなすすべもなくそのまま空高くに持ち上げられてしまった。


「だああああああああ!! ちょっと待って!! マジで!! マジで止めて!! 俺は高いところ駄目なんだからあああああ!!」


そんな俺の必死な訴えを聞いてくれたのかこのミニドラゴンは先程よりも高度を下げてくれた。それでもまだまだ高いんですけどね! ちくしょう!!


「ぴぃぃいいい?」


そしてコイツは俺を掴んだままあの大きなドラゴンに近づいていくと、俺をその背中にゆっくりと下ろしそのまま自分も背中に張り付くようにして着地した。


「グアアアアアアアアアアアアアアウ!!」


するとそれが合図にでもなっていたかのようにこのビックドラゴンは大きく翼を羽ばたかせ始めた。


「え、ちょ、まさか今度はお前が飛ぶの!!」


「ご主人様!!」


そんな俺の予想通りコイツの体は凄まじい速さで空へと上昇していく。そのあまりの速さに俺の体は背中に張り付くようになってしまう。うわああああああああ!! 止めて! この浮遊感!! 吐く吐く吐く吐く吐く吐く吐く吐く!! そしてある程度まで上昇した体は今度はまた凄まじい速さで前進を始めた。


「いぃぃぃやああああああああああ!!」


まさかこんな異世界にまで来てジェットコースター体験をすることになるとは思わなかった。そう絶叫しながら俺は思うのだった。

次回予告


ドラゴンによって拉致? された荒崎。高所恐怖症の彼は果たしてドラゴンとのフライトに耐えきることが出来るのか? 


「どうなっちゃうの俺ーーーーーー!!」


「分かりません!!」


「ええええええええええええええ!!」



そして皆様に一つ教えていただきたいことがあります。更新って一月の間にどれくらいあったほうが読みやすいんでしょうか? 図々しいとは思いますが教えていただけましたら幸いでございます。

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