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空の覇者も空から落ちる

次の日、俺達はベイルさんと約束した通り集合するためヒルグラウンドを目指していた。朝から活気のある中央の通りは、まだ日が昇ってからそんなに経っていないのに行き交う人々で賑わっていた。


「今日もいい天気だねー……。絶好の散歩日和だな。な、フラウ」


「ヴァヴ!!」


ぼけーっとそんなことを考えながらどんどん進んでいくと、いつのまにかヒルグラウンドの目の前までたどり着いていた。やっぱり一本道だと迷わないから着くの早いな。っていうか俺ここまでの道筋、完璧に覚えたな。……慣れって怖いわー。


中に入ると俺はキョロキョロ辺りを見回しながらベイルさんを探した。相変わらずここにはガラの悪そうな人や変わった体をした人がたくさんいるな。そんな人達をなるべく刺激しないように注意しながら探していると、カウンターの奥からエストニアさんの姿が出てくるのが見えた。


「あ、エストニアさんおはようございます」


俺がそう声をかけると向こうもこちらに気づいてくれたようだ。


「あら、荒崎さん。おはようございます」


柔らかい笑顔をこちらに向けながら爽やかな挨拶を返してくれた。あぁ……やっぱりいいなぁ、こういうの。


「エストニアさん、ベイルさんを見ませんでしたか? 今日ここで集合する約束だったんですけど」


「ベイルでしたら二階にいると思いますよ。今朝、会ったとき階段を上って行きましたから」


二階か。そういえばここの二階って行ったことなかったな。どうなってるんだろう。


「二階ですね。分かりました、ありがとうございます」


俺はお礼を言ってそのまま二階に向かってみることにした。階段を上るとそこには一階と同じようにいくつかのテーブルと椅子が置かれており、日が差し込んでいる窓の近くにはカウンターのような場所もあった。これといって特に変わったものは無いんだな。ここも下と同じで休憩したり誰かと話したりする時のためのスペースなんだろうか。そう思いながらふと奥のテーブルに視線を向けるとそこに一人誰かが座っているのがわかった。


「あ、いた」


そこに座っていたのはベイルさんだった。胸の前で腕を組み目を閉じたまま静かに座っている。うーむ……ただ座っているだけなんだけど妙に絵になってるなあの人。窓から差し込む光が丁度彼女が座っているあたりに当たって綺麗に整えられているあの黒髪をキラキラと輝かせている。

そんな姿をまじまじと見つめながら俺は彼女に近づいていった。そして、テーブルの前に着いた時、ベイルさんは俺の気配に気づいたのかゆっくりと目を開けながら顔をこちらの方に向けてきた。


「お、おはようございます……」


何故かは分からないが俺は小声でそう挨拶をしていた。


「あぁ、おはよう。すまない、あまりに日差しが気持ちよくてな。ついウトウトとしてしまった」


目を軽くこすりながらベイルさんは立ち上がるといつも通りのキリッとした顔つきに戻った。


「いえいえ、今日はいい天気で暖かいしウトウトもしますって」


それに俺的には普段のベイルさんとは違う一面が見れたのでむしろちょっとだけ得したような気分だった。


「ん? どうかしたか? 私の顔に何かついてるか?」


「あ、あぁいえ何でもないです! それより今日はどんな料理を作ってくれるんですか?」


俺がそう聞くとベイルさんはにやりと笑い、彼女の座っていたテーブルに乗せられていた大きな麻袋を目の前に突き出してきた。


「心配せずとも今日のために今朝の市場でいい材料をたくさん買ってきておいた。私の全力をもって調理するから多少は期待してくれてもいいと思うぞ」


「おぉ、まじっすか!!」


女性の手料理を食べられるだけでもありがたいのにわざわざ食材買ってきてくれて、そのうえ全力で作ってくれるなんて……ちょっと泣きそうになったよ。生きててよかった! あ、一度死んでるけどね。


「それと……これも受け取ってくれ」


そう言ってベイルさんは腰に付けられていた小さな袋を俺に手渡してきた。何だこれ? 大きさの割には結構重いような。


「何ですかこれ?」


「妹を治してくれたことのお礼だ。あまり多くはないが今はこれで許してくれ」


お礼? 袋を開けて中身を確認してみるとそこには数枚の金貨と銀貨が入っていた。


「これって……」


「私達二人の命を救ってくれて本当にありがとう。それと失礼な態度をとってすまなかった。改めて詫びる」


そう言って深々と頭を下げられた。


「いやいやいや、そんな別にもう済んだ事なんですし」


というか俺はあまり過ぎたことをネチネチと覚えているタイプではない。やってしまったことはしょうがないし、過ぎた時間はもうどうにもならない。起きた事実についていつまでも悩むくらいなら、これからどうしようかと考える方がよっぽど効率がいいように思う。


「あと、それからエストニアが妹の治療に対して報酬を支払うと言っていたがそれは私が払わせてもらうことにした。今はまだ全部を払うことはできないがいつか必ずちゃんと用意する」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


えーと、俺が知らないうちに何だか話がどんどん進んでいってるぞ。確かに俺はエストニアさんに報酬を渡すと言われていた。けど、それがいつの間にかベイルさんから受け取ることになっていて更にその報酬の金額がいつの間にか決まっている。しかも、それは今ベイルさんが支払いきれないほどの大金みたいだし。


「何だ? やっぱりそれだけでは足りなかったか? けど今の私達の生活の余裕を考えると今はそれだけしか渡せ……」


「いや、そうじゃなくて! いつベイルさんが支払うことになったんですか!? っていうか報酬の金額って誰が決めたんですか?」


「それは……」


ベイルさんがそう言いかけた時だった。


「それは私ですよ。荒崎さん」


そう後ろから声をかけられ振り返ってみるとそこにはエストニアさんが立っていた。いつの間にそこにいたんだ……。


「昨日荒崎さんと別れたあと二人で話し合ったんです。そしたらベイルが報酬は私が払いたいって言い出して、まぁ自分の身内に関することですから妥当といえば妥当かと思って了承したんです」


確かにおかしなことは何も言ってない。自分の家族のことで他人にお金を払ってもらうっていうのはあまり気分のいいものではないしな。


「なるほど、それは分かりましたが……報酬の金額はどれくらいになってるんですか?」


むしろ気になっているのはこっちのほうだ。一体どれくらいの額になっているんだ?


「そうですね、額としては‘クリスタル硬貨’二十五枚。‘金貨’八枚。‘銀貨’五枚。ざっとこんなところですかね」


え、えーと……ちょっと待て。これはどれくらいすごい額なんだ。


「ち、ちなみにその報酬を払うとなるとここでどれくらいの仕事を請け負えばいいんですか?」


「えーと、‘超大型危険動物’を討伐する依頼でも金貨三~四枚が普通ですから、相当危険な依頼をたくさん受けない限りは中々返せないと思いますよ」


おいおいおいおいおい、何その超大型危険動物って。滅茶苦茶物騒な響きなんですけど。っていうかそんなのいるのかよ。


「まぁ、つまりとんでもない額ってことですね」


「そうですね。しかし、あなたはカルラちゃんが罹っていたあの謎の病を一瞬で完治させた。これは今までベイルが治療を頼んできた魔術師や医者に払った金額。そして、何よりカルラちゃんが治らなかった場合これからも受け続けたであろう苦痛のそれから考えるとこれでもまだ安いほうだと思いますよ」


「……」


これからも受け続けたであろう苦痛ねぇ……。俺がそれを取り除けたことにはそれだけの価値があるってことなのか。


「荒崎さん、あなたの力はとても素晴らしいものだと思うわ。現に私達はその力に助けられたのだから。でもね荒崎さん、忘れないで欲しいの。その分その力にはとてつもないほどの価値があるということをね」


「とてつもないほどの価値……」


俺はこの力がとんでもなく凄いものなのだという認識はあった。けど、どれだけ価値のあるものなのかというのはあまり考えたことがなかった。ただ、治せるならば治してやりたい。そんな風に気楽に考えていた。けど、本当はもっとこの力のことちゃんと考えてやるべきだったのかもしれないな。


「まぁ、どちらにせよ私とベイルで勝手に話し合ったことだから後は荒崎さんがどうするかによりますけどね」


どうするかねぇ……。ぶっちゃけた話し俺にとってマイナスになるようなことはない訳だしなぁ。お金だって必要だし、何より当人が了承してるんだから俺が拒む理由は特にない訳で。


「はぁ~……分かりました。そういうことにしておきましょう。あ、でもベイルさん一つだけ約束してください」


「約束?」


「絶対に無理して危険な仕事請け負って怪我したりするのだけはやめてくださいね」


そんなことになったら多分俺のメンタルハートがブレイクしてクラッシュすることになる。


「あぁ、わかった。肝に銘じておくよ。にしても本当に君はお人好しというか優しいんだな」


にこっと笑われそんなことをベイルさんから言われた。……はぁ~本当にこの世界の女性は俺には刺激が強い時があるな。


「あ、それならば私からも一つお願いをしよう」


「は、はぁ。どうぞ」


「私のことはベイルと呼んでくれ。いつまでも命の恩人にさん付けされるのは少し違和感があるのでな」


違和感ねぇ……。別に気にならないけどなぁ。とはいえ彼女は無駄にプライドとか高そうだから下手に言い返さないほうがいいか。


「そういうことでしたら俺もさん付けは無しでお願いします」


「そうか? わかった、ではこれからは荒崎と呼ばせてもらおう」


「はい、じゃあそういうことで」


妙な気恥かしさがあり俺はぽりぽりと頭を掻いた。全く朝から何してんだよ俺は。


「それから、前から気になっていたのだが……その隣にいる可愛らしい生き物は何なんだ?」


あれ、そういえばフラウのことまだ紹介してなかったんだっけ?


「こいつはフラウって言って今は俺の家で一緒に住んでるんです」


「ヴァヴ! ヴァヴ!!」


「フラウちゃんか。一緒に住んでいるということは君にもご飯を作ってあげなければならないな」


そう言ってベイルはフラウの頭を撫でた。


「これは……とても綺麗な毛並みだな。それにものすごく柔らかい」


ベイルはもう片方の手でフラウの背中のあたりを撫で始めた。よっぽど気に入ったのかそれからフラウの色々な所を撫で始めている。


「ふかふかだ~。もふもふだ~」


あ、あれ? ちょっと、ベイルさ~ん? もしも~し。


「あ、荒崎さん!」


「はいっ!!」


突如エストニアさんに大声で呼びかけられた。な、何だ? 何でそんなに興奮してるんだ?


「わ、私も……フラウちゃんをなでなでしてもよろしいでしょうか!?」


「へ? あ、あぁ。ど、どうぞ」


俺が了承した途端エストニアさんはフラウに飛びかかるように抱きつき始めた。その瞬間、フラウから助けを求めるような視線を送られたが俺はどうすることもできなかった。

すまない、フラウよ。そこに割り込む勇気は俺にはないようだ。二人が飽きるまでそのままモフモフさせてやってくれ。

それからしばらくして解放されたフラウにじっと睨まれ続けたのは言うまでもなかった。









その後、俺達はヒルグラウンドを出発し我が家に向かって歩き出していた。しかし、その途中で


「荒崎、すまないが少し寄りたいところがあるんだ。いいか?」


「いいですけど、どこに行くんですか?」


「ちょっと‘孤児院’に用があってな」


孤児院? へぇー、この国にはそういう施設もあるのか。まだまだこの国について知らないことはいっぱいあるな。

ということで俺達はベイルのあとに続いて孤児院を目指すことになった。ここからそう遠くないところのようで向かい始めてから十分もしない内にその施設に辿りつくことができた。


「着いたぞ、ここが‘モートリアム孤児院’だ」


「ここが……」


そこにあったのはまるで教会のような白塗りの建物に広いグラウンドのような広場。そこが黒い塀のようなもので囲まれている場所だった。門の建っている場所には木の板に‘モートリアム孤児院’と書かれたものが打ち付けられている。

ベイルはそんな門を開けて中に入ると、教会のような建物の中に入っていった。俺達もその後に続いて中に入っていく。


建物の中は意外と広く黒い木で出来た細長いベンチのような椅子やテーブル。それから通路の最奥には大きなステンドガラスで出来た見事な絵画が飾られていた。そこに日が当たり赤や緑、青や黄色などの色鮮やかな光を内部に取り込んでいる。


「‘ルド先生’いらっしゃいますか? ベイルです」


誰もいなかったのでベイルがそう呼びかけるも返事はない。


「皆、出かけているのか?」


俺もベイルと一緒にキョロキョロと辺りを見回す。するとあのグラウンドのような広場が見えるようになっている窓から小さな人だかりのようなものが見えた。


「ベイル、外に誰かいるみたいだぞ」


「外か、分かった」


ベイルは横にあった細い通路に進んでいくと途中にあった扉を開けて外に出て行った。あそこから出られるのか。俺達もあとに続いて外に出てみる。


「ルド先生、こちらにいらしたんですか」


ベイルが向かっていった人ごみはほとんどが小さな子供で、その中に一人黒いスーツのようなものを着た初老位の男性がいた。ベイルはその男性に向かって話しかけている。


「おぉ、ベイルか。いつの間に来ておったんじゃ」


「今来たばかりです。それよりもどうしたんですか? こんなところで皆して」


「それがな……」


何かあったんだろうかベイルが子供たちが囲んでいる中を覗き込むようにしていた。そして‘何か’を見たのであろう。突然顔をあげたかと思えば険しい顔つきであの男性に何かを言っていた。

何だ? あの様子だとあんまりいいもんじゃなさそうだなぁ。そう思っていると、ベイルはこちらを向き手招きして俺のことを呼び出した。仕方ない、行ってみるか。


「どうかしたんですか?」


俺が尋ねるとベイルは少し困ったような顔で再び子供たちの輪の中を覗き込んだ。


「これを見てくれ」


そう言われ俺も子供たちの輪の中を覗き込んでみた。するとそこには、


「ん? なにこれ?」


今まで見たことないような生き物がそこにはいた。爬虫類のような顔。背中からは赤い大きな翼。そして腹の辺りに小さな前足のようなものと鋭く尖った黒い爪。体の大きさはここにいる子供よりも少し大きいくらいだろうか。そんな生き物が弱々しく呼吸を繰り返している。よく見てみればあちこちに様々なサイズの傷があり痛々しく炎症している部分もあった。


「ベイル、こいつは一体……」


「これは‘ドラゴン’の子供だ。しかも純粋種の」


「ドラ……ゴン?」


この時俺は、またもや変なことに巻き込まれる。何故だかそんな気がしてならなかった。

5月27日一部修正しました。

気がつけばもう五月……。ゴールデンウィークも終わってた……。

なんてこったい……orz

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