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森を抜けた先で見たものは

彼女は相変わらずゆっくりと息をしているがどうにも起きそうな気配がない。どうしよう、このままここに置いていくわけにもいかないし……。


「おーい、大丈夫ですかー?」


軽く肩を揺さぶってみるが相変わらず起きる気配がない。ほっぺたを軽く叩いてみたり、耳元で大きめの声で呼びかけたりしたが効果なし。どうにもならんなこりゃ。

こうなったらおぶってでも連れて行くか? でも、自分の居場所もろくに把握できていないのにそんなことして大丈夫か? そんなことすれば体力の消費だって早くなるし、俺にとってのメリットが無い。むしろデメリットの方が多いか。


「うーーん……ん?」


そう考えている時だった。たまたま横の草むらを見たとき俺はあることに気がついた。よく見てみると、草むらの中に誰かが通ってきたような痕跡が残っていた。茂っている草が横に倒れるように潰れうっすらと道が出来ていた。


「これは、この人が通ってきた痕跡なのかな?」


そうだとすれば、これを辿っていくと彼女がこの森に入ってきた場所まで付くことができるのではないか。それがもし、この森の入口付近ならば抜け出ることができるかもしれない。


「いちかばちかだな」


じっとしててもしょうがない。俺は草むらの中にある痕跡を辿ってみることにした。

と、その前に彼女をおぶっておかないとな。俺は彼女の上半身をゆっくり起こすとしゃがみながら自分の背中を近づけ、そのまま胸の前あたりで腕をクロスさせた。体を軽く浮かせると、太ももの下あたりに手を滑り込ませそのまま一気に持ち上げた。一応確認しとくが太ももに触ったりしてるのは、やむを得ない事態だからであって邪な気持ちは全くないからな。

持ち上がった体は驚くほど軽く、俺が思っていたよりも簡単に持ち上がってくれた。

何でこんなに軽いんだこの人? 思わずそう思ってしまう。女性なんておぶったことがないから知らないけど、実は皆こんなもんなのかな。

そう思いながら俺は草むらに残っている痕跡を辿り始めた。ちょっとした痕跡も見逃さないように注意を払いつつゆっくりと一歩一歩進んでいく。

結構続いてるな。途中で彼女を何度かおぶり直しながらひたすら進んでいく。頼むから出口に繋がってますように。俺はそう祈っていた。




しばらく歩くと、徐々に草むらの痕跡が無くなってきた。その代わりに今度は草むらではなく人の手で整備されたような綺麗で広い道が見えてきた。草むらから抜けたか。辺りを見回してみると飽きるほど見てきた木の数も少なくなってきている。もしかして、出口に近づいてるのか?

俺は道の上に出るとそのままその道を進んでいく。少し進むと、明らかに木々が開けている場所が見えてきた。


「あれは……出口か?」


そこを目指してどんどん歩いていく。出口であってほしいという期待からか知らぬ間に俺は少し早歩きで歩いていた。もう少し、もう少しで着く。俺ははやる気持ちを押さえつけた。

そして、ついにその場所にたどり着いた。


「う、わぁぁあ……」


そこから見えたのは綺麗で広々とした草原。そこにある草たちが風で美しい音を奏でながら揺れている。そしてその先にはいくつもの建造物らしきものが集合した場所が見えた。しかも、遠目からでも分かるほどの大きさで中々広い面積を占めているようだ。


「こ、これが……グランヴェル世界」


俺が新しく生き返った世界。俺はここで生きていくんだ。これから何も知らないこの場所で……。

心地いい風を全身に浴びながら、俺は大きな不安とほんの少しだけの期待を胸に感じていた。はてさて一体どうなるんでしょうかねぇ?




とりあえず、見えているあの建造物の集合地を目指して俺は歩き始めた。さっきまではずっと歩きづらい草むらなんて歩いてたけど、今はきちんと整備されている平坦な土の道を歩いているのでだいぶ楽だった。嬉しいことにこの道はどうやら俺が目指している場所まで続いているようである。このまま行けば結構すぐにあそこまでつけそうだな。今度は迷うこともなさそうなので安心である。

それにしても、すっかり日も登っちまったな。全く俺が死んだ時と同じような雲一つない晴天である。

……まさかとは思うけど轢かれたりしないよな? ……何となく背後が気になってしまい思い切り振り返る。しかし、そこにあるのは今まで通ってきた道と広がる草原だけ。ダンプカーの影はどこにもなかった。


「大丈夫だよな。うん、気にしすぎ、気にしすぎ……」


そう、自分に言い聞かせるように呟きながら俺は再び歩き始めた。その時、ふと思い出したことがあった。そういえば、ここに来る前にクーエルが俺にプレゼントとか何とかをしてくれたんだっけ。

確かこう言ってたよな、向こうの世界でもし死んでも生き返ることのできる回数が何とかって。左腕に刻まれた数字の回数分俺はこの世界でもし死んだとしても生き返ることができるらしい。

ただ、クーエルはその回数を百回と言っていたが実際に俺の左腕に刻まれている数字はというと……。チラッと左腕の数字を見るそこには


‘10000000'


一千万と刻まれている。これ、大丈夫なのかな? こんだけ死んでも生き返れるってどうなのよ。そもそも普通に生きてて死ぬようなことなんてそうそうあるわけがない。ここが戦場とかなら話は別だけど。

クーエルのやつ今頃上司とやらに怒られてるかもな。こんなことして何やってんだーーー!! ってな。でも、まぁ悪いものではないわけだし使う機会があったとしたらこのプレゼントとやらをありがたく使わせてもらうことにしよう。




それから少しして、俺は建造物の集合している場所の目の前まで来ていた。見てみればその場所はかなり広く目の前まで来ると更にその大きさがよく実感できた。


「す、すげぇ……」


こういう時テレビとかだとよく、東京ドーム何個分とかって例えるけどこの場所だとどれくらいになるんだろう。多分、数百個はくだらないだろうな。

そんな建物の群れを見上げながら俺は中に入ろうとした。その時、


「おい!! そこの貴様!」


突然横から声をかけられた。見てみるとそこにはまるで中世時代の王国騎士が着ていたようなごつい鎧を来た男二人が立っていた。鎧は綺麗な銀色で頭の先からは赤い紐の束のようなものが生えていた。腰のあたりには茶色いベルトと一緒にやたらごつい剣のような形をしたものがぶら下がっている。

うおお、いきなりなんだ!? っていうか本当になんて言ってるか分かるんだな。ちょっと感激である。

ってそうじゃなかった。


「な、何でしょうか?」


恐る恐るそう尋ねると二人の男はこちらにずかずかと近づいてきた。歩くたびにガシャン、ガシャンと鉄がぶつかり合うような音が辺りに響く。


「ふーむ……この辺りでは見ない顔だな。それにその格好、異国の者か?」


俺のことをまじまじと見つめてくる。そういえば俺死んだ時の服装のままだったっけ。紺のジーンズに白いシャツ、その上に灰色のパーカーそれから茶色のスニーカーという地味目ながらもシンプルな服装だ。そんな格好がここではどうやら珍しいらしい。


「うえ? あ、あの……」


「申し訳ないが今この国では入国の制限をさせてもらっている。異国の者を通すことはできないんだ」


何と!? それは困った。このままだと俺はこの場所に入ることはできないのか。


「にゅ、入国制限って何でですか?」


「それがだな、今この国の現王女様である‘ファリア アディエマス様’が行方不明になっているのだ。我々王国の者が今、勢力をあげて捜索している真っ最中なのである。無駄な混乱を避けるため、また怪しいものを出入りさせないために入国に規制をかけさせてもらっているのだ」


王女様が行方不明? 一体どうしてそんな事態になっているんだ。そういうのって普通はもっと厳重な警戒とかしてるもんなんじゃないのか? 

はぁ~……どちらにせよ俺はこの国とやらに今入ることはできないようだ。やれやれ、いきなり問題発生か。


「と、いう訳で申し訳ないのだが速やかに立ち去ってもらえるとありがたいのである」


うーん、どうしようか。そう考えているとき俺の背中でごそっと動く気配がした。そうだ、この人のこと忘れてた。とりあえず、俺はまぁいいとしてこの人はなんとかならないだろうか。このままずっと連れて行くわけにもいかないしな。


「あ、あの……」


「なんだ」


「俺がここに入れないのはわかったんですけど、実はここに怪我人がいまして……」


そう言って俺は背中を向ける。怪我だったのかどうかは分からないがとりあえず倒れていたのだからそれはどうでもいいだろう。


「怪我人か。こいつもお前の連れなのか?」


「いや、その、さっき森の中で倒れているところを見つけまして」


そう事情を説明する。すると鎧の男のうち一人が彼女が頭に被っていた黒い布をめくった。その瞬間、綺麗な金色の髪が風になびいた。それは美しい線をいくつも宙に描き放ちゆらゆらと揺れた。


「この髪は!」


鎧の男がその髪に反応し、彼女の顔を下から覗き込むように見上げた。その瞬間、男は目を見開き大きく後ろに後ずさってしまった。な、何だ? どうしたんだ。


「お、おいどうした」


「こ、ここここここここのお方は……ファリア様!!」


「何!?」


え? え? 何何何? 何が起こっているの? 俺は全く理解できずにいた。

もう一人の男も彼女の顔を覗き込み目を丸くした。


「このお美しいお顔、それにこの髪、ま、間違いないファリア様だ!!」


二人してこちらを置き去りにしたままあわあわとパニックになっている。一体何が起こってるんだ?

そこで俺は先ほどの男たちの言葉を思い返してみた。えーと……確か、まず王女が行方不明になってて入国できないって言われたんだよな。で、その王女とやらの名前が確かファリアなんとか様って言ってたな。……ん? 待てよ。さっきこの二人はこの彼女の顔を見てなんて言った?

‘このお方は、ファリア様!!’ ‘間違いないファリア様だ!!’ って言ってたよな。

ファリアって王女の名前でしょ。それをこの子を見てそうだって言ったってことは…………つまり、この子が王女ってこと? うん、そういうことだよね。なるほど、そういうことか。なるほど、なる……ほど……。


「ってえええええぇぇぇぇぇええええええ!!」


マジかよ!! この子、この国の女王様なの!! 俺そんな人ずっと背負ってたの!! 


「おい! 急いで城に連絡しろ!!」


「わ、分かった!!」


そう言われた男は、慌ただしく走りながらどこかへと走って行ってしまった。あんな重そうなの着てるのにはぇーなー。伊達にこんな強そうなの着てないってことなんだろうか。

残ったもう一人の男は俺の背中から彼女を優しく引き離すと、お姫様抱っこスタイルでしっかりと受け止めた。


「こうしちゃおれん!!」


そうして彼もどこかへと走り去って行ってしまった。俺はただその様子をぽかーんと口を開けて見ていることしかできなかった。え? 何だったんだ、これ・・・・

結局、入口の場所には俺だけが残される形となってしまった。どうしよう、今なら入ってもバレないんじゃないかな。王女様も見つかったみたいだし。


「……うん、いいか!」


と、いう訳で俺は勝手に国の中へと入って行ってしまった。さて、どんなところなんでしょうねここは。俺はちょっとだけワクワクしていた。



ゆっくりと書きたいように書いていきたいと思います。

5月27日本文修正しました。

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