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人は見た目で判断しちゃいけない

まさかの事態に俺はその場で硬直していた。おいおいおいおい勘弁してくれよ。何で俺がこんな目に遭ってるんだよ。しかも、何かすごいこと言ってなかったかこの人。


「で、出て行ってもらうって……」



いくら何でもいきなりそれはないだろう。ここから出て行ったら俺はどこにも住む場所がないんだぞ。


「自信が無いのなら受けなければいいだけのことだ。そうすればあなたはこの街から出て行かなくてもすむ」


自信ねぇ……。いやまぁ不治の病を治せているんだからきっとこの人の妹も治せるんだろうけど……。

こんな条件を付けられた状態で分かりましたっていうのもなぁ……。俺にとって得になることは何もないし。


「さぁ、どうする? やるのか、やらないのか」


俺をじっと見つめたままベイルさんはそう確認してきた。さて、どうするかねぇ……。正直な話、会ったばかりの人に刃物を向けられて好意的に対応するほど俺は出来た人間ではない。断ってもいいなら断ってしまおうかとも一瞬思った。フラウも先程からウーウー威嚇してるし。

しかし、依頼してきたのはあくまでもエストニアさんなのだ。親友のためにという思いを無下にするのもいかがなものかとも思う。まぁ、その親友さんはそんなこと考えてるのかどうかも分からないが……。

困った俺は頭をポリポリと掻きながらちらりとエストニアさんの方を見た。

その時、気づいたのだが何故かエストニアさんは顔を俯けていた。あれ? どうしたんだろうか。

そう思った時だった、


「ねぇ、ベイル」


不意にエストニアさんが彼女の名前を呼んだ。そしてそのままスタスタと彼女に近づいた。


「何だ、エストニア」


ベイルさんがそう答えた時だった。エストニアさんはおもむろに彼女のこめかみ部分に握りこぶしを当て、両方から挟むようにしていた。


「へ?」


ベイルさんが気の抜けたような声を出すとエストニアさんは顔を上げた。その顔を見た俺はギョッとした。先程話していた時の穏やかな表情はどこえやら、それはまさしく鬼の形相というべきであった。

額には青筋が出きていて、眉間に皺もありえないくらいよっていた。何か後ろから変なオーラが出てきてもおかしくない状態だ。


「あなたは自分が何をしているのか分かっているのかしら~?」


そして、エストニアさんはこめかみに当てた拳を思い切りぐりぐりと動かし始めた。

うわー……何あれ超痛そう……。案の定、相当痛いようでベイルさんは悲鳴を上げた。


「いあだだだだだだだだだだ!! 痛い!! 痛いって!!」


しかし、そんなのお構いなしにエストニアさんは黒い笑みを浮かべながら拳を動かす。


「自分のことを助けてくれた人にあなたは何で刃物を向けているのかしら?」


「そ、それは……コイツがすぐに逃げ出さないか試そうとして……」


「それだけのためにそんなことしていいと思ってるの?」


「いだだだだだだ、痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」


「いいと思ってるの?」


「よ、良くない! 良くないです!!」


涙目になりながらそう必死に答えるベイルさん。俺はそれを呆然と眺めていた。


「それに彼にそうお願いしたのは私なのよ。これがどういう意味だか分かる?」


「ど、どう言う意味って?」


「彼にそういう態度をとるってことは私に対してもそう言ってるのと同じようなものなのよ。ベイルは私にもこの街から出て行って欲しいのかしら?」


そして、再びぐりぐりと拳が動き出す。な、何かもう大丈夫かな。怖くて止められないけど、あのままじゃ頭変形するんじゃなかろうか。


「いだあああああああああ!! 違います!! 違います!!」


「違うって何が?」


「か、彼がカルラを治すためにそれだけの覚悟と自信があるかどうか知りたかっただけで……」


「なるほど、でもあなたに荒崎さんを街から追い出す権限は無いわよねぇ?」


「そうだけど……」


「だけど?」


「うぅ……ごめんなさい」


何だろう、俺が今までそうだと思っていた彼女のイメージがどんどん崩れていく。もっとクールな人だと思ってたけど、今の泣きべそかきながら謝ってる姿はそれとは程遠い感じだった。


「謝るんなら私にじゃなくて荒崎さんにでしょ?」


「う……く」


「ほーら」


「う~……ご、ごめんなさい」


「もっとしっかり謝る!!」


そう言われてビクッとなったベイルさんは下唇を噛みながら俺を涙目で見てきた。そして、


「失礼な事してすいませんでした!!」


そう言って頭を下げられた。


「本当に申し訳ありませんでした。荒崎さん」


エストニアさんにも頭を下げられる。


「い、いや……まぁ、気にしてませんから」


むしろベイルさんが少しだけ可哀想だと思った。グリグリされていたところが痛むのか頭を下げながらこめかみをさすっている。そんな姿がまるでお仕置きをされた後の子供のように見えた。


「あ、あのエストニアさん。もしかして何ですけどさっき言ってたよろしくない態度って……」


そう言って俺は自分のこめかみ部分を軽く指で叩いた。


「はい、まぁそういうことです」


エストニアさんも理解してくれたようでどこか呆れたような顔になった。

なるほど、よろしくないってのはどうやら‘頭が’よろしくないって意味だったようだ。

うん、人は見かけで判断しちゃいけないね。










それからしばらくして俺達は街の中心地から少し外れた細めの路地を歩いていた。


結局あの後ベイルさんが出したあの条件はエストニアさんによって却下された。しかし、ベイルさんがそれでは不安だというのでそれならばと新たに一つの条件を提案をした。

それはもし俺がベイルさんの妹さんを治せなかった場合は何でも一つ言うことを聞くというものだった。

しかし、これだけではやはり俺にメリットが無いということで彼女はその逆もありということにしようと言い出した。

つまり、俺が彼女の妹さんの病気を治せた場合には、ベイルさんが俺の言うことを何でも一つ聞いてくれるということだ。

確かにベイルさんはちょっと残念な人であるが、同時にかなりの美人さんでもある。そんな人に何でも一つ言うことを聞いてもらえるなんて中々魅力的なことではないだろうか。

その提案にはベイルさんも構わないと言ってくれたし、それならばと俺もその提案を承諾することにした。


てな訳で今はベイルさんの案内で彼女の自宅に向かっているところだった。エストニアさんも一緒に付いて来てくれたのでとりあえずまた刃物を突きつけられる心配はないだろう。

ヒルグラウンドの受付はどうするんですか? と聞いてみたのだが、どうやら受付係はまだ数人いるらしくその人たちに頼んできたそうだ。


「にしても何かこの辺、薄暗くないですか? あんまり日が当たっていないような……」


今歩いている路地は今まで俺が歩いていた広くて明るい路地とは違い、薄暗くいくつもの細い路地が広がっているような場所だった。


「この辺りは中心街からも少し離れていますし、住んでいる住民も主に貧困層の方たちですからね」


「貧困層ねぇ……」


今までこっちの方には来てなかったから知らなかったけどやはりそういう人たちもいるんだな。富に溢れる人もいれば貧しくて困っている人もいる。どうやら異世界でも世知辛い世の中というのは存在するようだ。

そんなこと思いながらどんどん進んでいくとベイルさんがいきなり立ち止まった。


「着いたぞ、ここが私の家だ」


そう言われて目の前にある建物を見る。壁の所々に木や鉄で出来た板が打ち付けられているまるでプレハブのような小さい建物だった。


「ここですか……」


明らかに生活に困っていますって感じがするその家の外見に俺は一瞬言葉を失った。街の中心地に建っている家とは随分と差がある。


「さぁ、中に入ってくれ」


「あ、は、はい」


ベイルさんに案内され家の中へと入っていく。建て付けが悪いのかドアはギィギィ音を立てていた。


中に入るとそこには必要最低限な物しか置かれていない質素な空間が広がっていた。小さなテーブルと椅子にベッド、それから数冊の本が置かれた本棚。家具と呼べそうなものはそれだけだった。

余計なものが置かれていないせいなのか外の見た目よりも中は少し広く感じる。


「何もない家だからまともなもてなしは出来ないが悪く思わないでくれ」


「ああ、いえお構いなく」


少し寂しい室内を見渡しながら俺は慌ててそう答えた。


「それじゃあ、早速で悪いんですけどカルラちゃんのこと見てもらいましょう」


エストニアさんがそう言うとベイルさんは頷きベッドのある方へと向かった。よく見てみればベッドでは誰かが眠っているようでかけてある毛布がこんもりと膨らんでいるのが分かった。

ベッドに近づいたベイルさんがその毛布を剥がそううとする。


「……荒崎さんだったか。あなたにカルラを見てもらう前に一つだけお願いがあるんだがいいか?」


「お願いですか」


一体何だろうか。俺は少し緊張しながら聞いてみた。


「今から見せるものを見てもあまり驚かないでやってほしいんだ。もしかしたらカルラが傷ついてしまうかもしれないからな」


驚かないでほしいってことはつまりそうなるようなものを見せられるってことだよな……。俺は少しだけ嫌な予感がしていた。出来ることならあまりひどいものは見たくないんだけど……。でも見ないことには始まらない。俺は覚悟を決め、分かりましたと頷いた。

それを確認したベイルさんは再び毛布を掴むとそれをゆっくりとめくっていった。

そして、徐々に毛布にくるまれていた部分があらわになる。それを俺は後ろから覗き込むように見ていた。

完全に毛布が剥がされた時、俺はそこでものすごい光景を見てしまった。


「なんだよ……これ……」


そこで見たのは……一人の女の子だった。茶色くてショートヘア位の髪。少し痩せ気味の体。そして、その女の子が着ている服から露出している体の部分ほとんどがまるで石にでもなってしまったかのように灰色に変色していた。

かろうじで顔の部分と右手部分だけはベイルさんと同じ褐色肌が見えている。しかし、それ以外の部分は異常と言えるくらいおかしなことになっていた。

近づいてよく見てみれば灰色に変色した部分はうっすらとだがヒビが入ったように亀裂が走っていた。


「これってまるで……」


「石になったみたいだろ?」


ベイルさんは顔をしかめながらそう答えた。エストニアさんも辛そうにベッドの上の彼女を見ている。


「何が原因でこうなったのかは分からないんだ。私達はとりあえず病気ということにしているが、そうなのかどうかは……」


原因が分からない? ってことはこの症状は突然現れたってことか。それにしたってこれは一体どういう事なんだ?

体がこんな風になるなんて日本でも聞いたことないぞ。まぁ、ここは異世界だからこういうことがあってもおかしくは無いんだろうけど……。


「いつ頃から彼女はこういう状態なんですか?」


「もう大分前からだ。これまで色んな魔術師や医者に見てもらったり調べてもらったりしたが結局何も分からずじまいだった。今となっては食事をするのもやっとの状態でほとんど寝たきりになっているよ」


どこか諦めの混じった声でベイルさんは答えた。

なるほど、俺は医者でも魔術師でもないから詳しいことは分からないけど、状況としては相当ヤバイってことだけは分かる。


「荒崎さん、どうですか? 治すことできるでしょうか?」


エストニアさんに心配そうな声でそう聞かれる。


「さぁ、どうでしょうね」


俺はそう答えて右腕の袖をまくり上げると彼女の体の前に突き出した。


「まぁ、やってみなきゃ分からないでしょう」


そして俺は目を閉じた。意識を彼女の体に集中させる。大丈夫、俺はどんな病気や怪我でも治すことができるんだ。絶対に治せる。いや、治してみせる。ここまで来て無理でしたは認めたくないからな。

うっすらと右腕が青く光り始める。


「なっ……おい腕が光っているぞ」


「あなたを助けてくれた時もこうなっていたのよ」



大丈夫、出来る。俺になら……治すことが出来るんだ。そう思いながら目を開けた時俺の右腕はよりいっそう青く光りだした。

そして、俺はあの言葉を唱える。


「レイズ!!」


そう叫んた瞬間彼女の体が黄色い光に包まれる。その光はいつものように彼女の体の中に瞬時に吸収され、消えてなくなっていった。

光が完全に消えたあと俺は彼女の体を見てみた。するとそこには……先程までの灰色に変色した体ではなく、シミ一つない綺麗な褐色の肌が見えていた。


「……」


「……」


「……」


これはどうやら、成功したということでいいんじゃないだろうか。

俺はその場で長い息を吐くと床にドカッとあぐらを掻いて座り込んだ。




5月27日一部修正しました。

次回予告


症状が治った彼女。そして、彼女が目を覚ました時ベイルは……


そして! なんでも言うことを聞くと言っていたベイルに対して荒崎は何をお願いするのか! 

               次回をお楽しみに!!



懲りずにまたもやってしまった……orz

そして皆様、前回は変なところで話を切ってしまい申し訳ありませんでした。そのせいで色々なご意見をいただきまして……猛反省でございますm(_ _)m ベイルの態度に関しましては「この作者が書くならこんなもんか……」と寛大な心で見ていただけると、見ていただけると!!


そして、それとはまた違う話になるのですが投稿時間は「朝」「昼」「夜」だとどの時間帯がいいのかご意見いただけるとありがたいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 荒垣は多分切実な希望、お産どん要員の紹介だろうね、誰可料理出来る人家事できるお手伝いさん紹介して、だろうなこのままでは1人と1匹食材有って餓死しそうだし、部屋風呂トイレ付き水は水道もあっるし…
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